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作品名:終焉の先 作者:TAK

第35回   04-7 刹那の別れ
…繰り返しお伝えします。本日朝、AMCCS、オートモーター集中管理システムに障害が発生しました。現在も一部に障害が続き、幹線道路の4号、10号が混乱しています。AMCCSを開発・管理しているGMS社は緊急記者会見をを開き、今回の障害の原因は電力系統の多重異常によるものと推測され、現在究明中である。一部障害の続くサーバについては、現在も全力で復旧のために努力をしているとコメントを発表しました。また、今回の障害で、TMSEC社の車両に一部不具合が発生し、起動直後のオートモーターが正常にサーバの異常を受信できず、幹線6号ではこれを原因とした事故が発生し、死傷者があわせて8名でる惨事となりました。現在幹線6号は通行不可となっています。お出かけの際はご注意ください。この件を受けて、TMSEC社は該当車種の運行停止を始め、また、現在動いている分については、利用をしないように呼びかける緊急コメントを出しています。繰り返し、お伝えします…


残念ですが、先ほど、息を引き取られたことを確認いたしました。病院に運び込まれた時には、既に心肺停止状態で、スタッフが全力で蘇生措置を施しましたが、肺の裂傷が酷く、蘇生には至りませんでした。今回の突然の事故に心からお悔やみを申し上げます。ご主人は、ただいまスタッフが手を施しまして、遺体安置室にいらっしゃいます。お悲しみになっているところ、大変酷なことを申し上げますが、今から48時間以内に、ご主人の脳からメモリーを作成するかどうかをご決断下さい。現在ではメモリーは使用できませんが、今後の技術によっては、ご主人のメモリーを元に再生ができるようになるかもしれません。どうか、時間に限りがあることですので、ご決断いただきますようにお伝えします。


ご遺族様ですか?私はTMSEC社カスタマーサティスファイ部署の者です。この度は、弊社製品の不具合によって、大切な方のお命を奪うことになってしまい、なんとお詫びを申し上げてよいかわかりません。とりあえず、この場に馳せ参じさせていただきました。今後のことは、弊社が全力でサポートをさせていただきます。どうか、何なりとお申し付けくださいませ。全ての手配も何もかも、弊社の方でさせていただきます。…まずは、私が外に控えさせていただきます。どうか、何かありましたら、お申し付けください。本日は、誠に申し訳ありませんでした。


7管区13分署の者です。今回のことは、心からお悔やみを申し上げます。ただいま、ご主人様が事故に遭われた現場から、ご主人様の持ち物と思われるものをお持ちいたしました。ただ、はっきりしているものしかお持ちすることができなくて、衝突事故のため、いくつか不明なものも署で保管をしています。期限はありませんので、もしもお時間ができましたら、一度署までお尋ねください。…お持ちしたものは、こちらへ置かせていただきます。それでは、私は失礼します…。


エザリムさん!若社長が事故に巻き込まれたって警察から連絡があって!本当に亡くなったんですか!?…あぁ、社長…なんで、こんなことに…!若社長、なんでよりによって…どうするんですか、折角、一緒に頑張ってきたプロジェクトがようやく動き出そうとしてたのに…エザリムさんだって、残されて、若社長がいなかったら、本当に、どうしたらいいかわからないですよ!!


エザリムは、遺体安置室でじっとしていた。
その後、入れ替わり立ち替わり、色々な人が部屋に入ってきて、悲しみ、詫び、そして全く反応しないエザリムに哀れみの視線を投げて、黙って立ち去っていった。
エザリムには時間が過ぎているのかどうかさえ、わからなかった。
今日の朝?朝食を一緒に食べた。
ネクタイを選んだ。キスをした。
昨日の夜は?一晩中、体を重ねた。
お互いの温かさを感じながら眠った。

どうして、こんなことになっているのだろう。
何が間違えて、こうなってしまったのだろう。

エザリムは、迷路の中で突然、行き止まった気分だ。
答えなどない。理由もわからない。
隆治は笑っていた。
幸せだったはずだ。
他に何かを欲したわけではない。自分が欲しいと思っただけの幸せが、そこにはあったはずだ。

体中が震えるままに、エザリムはゆっくりと立ち上がった。
指先の震えを止めずに、眠っている隆治の顔に触れた。
冷たい。
馬鹿な。

認められない。死んでしまったことなど。
永遠に、隆治がいなくなったことなど。
その理由も何もないのに、認められない。

…急に、エザリムは思いついた。
隆治の言葉を。
人は生まれ変わるのだ。隆治はそういった。
今、目の前に居るのは、隆治だ。でも、もうきっと、生まれ変わっている。
突然、それは真実としてエザリムの心の中に現れた。
エザリムは呟く。
「ハルを捜さなくちゃ…。」
そして、ハルから手を離す。


あまりに時間が経過してもエザリムは部屋から出てこない。
とうとう病院のスタッフが、エザリムを心肺して部屋の中を覗いた。
しかし、エザリムはいなかった。
首を傾げた。受付を通った記憶もない。いつの間に彼女はいなくなったのだろう。
もしかしたら、後を追うかもしれない、そう思ったスタッフは、上司に報告をするために部屋を出た。

でも結局、報告することはできなかった。
誰もが、エザリムが消えたという事実を知ることもなかった。

なぜなら、間も無くその時は訪れたのだ。
人類を一掃する、大災害が。


(第4章終わり)


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