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作品名:終焉の先 作者:TAK

第29回   04-1 ジェネノイド
話は、ずっとずっと昔に遡る。
レジェとヒロオミの世界から1000年以上も前の、人類がまだ滅びていなかった頃の話。


人間は宇宙に飛び出して、いよいよその繁栄を銀河系全体に広げ、種としての春を謳歌するようになった。かつて人間の唯一の住処だった地球は多くの星の中のたった1つとなり、あらゆる星で人間が生まれ、育ち、そして営みの後に命を終えることが普通になった後。
どういうわけだか、緩やかに人類は減り始めた。
理由はわからない。種としての限界が訪れただけかもしれず、あるいは何か力が働いたからかもしれず、しかしながら、特に大きな戦争も病気もなく、人類は緩やかに減り始め、ある星ではいなくなり、あれほど銀河系に拡がっていた人類が、300年も経過すると太陽系とほんのその周辺程度にまでしかいなくなってしまった。

そんな折、地球産まれの技術者が、画期的な技術を開発した。
その技術は「遺伝子生成」、続にGPと称されるものである。
GPによって何ができるかというと、全く1から「人間」が創れるようになったのである。かつて、クローン技術というのが流行して、人間は自分の細胞からクローンを作成した。これによって人類は「水増し」される結果になったが、あくまでも「水増し」に過ぎず、例えば流行病が発生すると、反って大量に死亡者を出してしまうだけの結果に終わっていた。しかし、GPは違った。人間の交配のように、あるいはそれ以上に、「新しい人間」を作り出すことができるようになったのだ。既に移植や肉体の欠損を補うための人工人体が開発されていたので、新しい人間は沢山作られるようになった。時代に応じてそれらは「労働力」だったり、「人間の友」であったり、色々な背景があったにしろ、最初の1体が作られてから、人類の人口の3倍を凌駕するまで、GPによる「新しい人間」は、「ジェネノイド」という総称で作り続けられた。

人類は活気を取り戻した。繁栄するチャンスを得て、太陽系に人間が溢れるほどに増えた。
ジェネノイドは、唯一、生殖機能を持っていないという欠点があったので、長い間には改良を施された。中にはDNAを操作した上で「不老」の力を身につけたものまで現れた。そこで、人類はふっと手を止めた。
既に、ジェネノイドは人間同様に生活している。人間は不老の人間を作り上げた。いつか、このままでいると、人間はやはり滅び、ジェネノイドがその場所にとって変わってしまうのではないか?

ようやく気がついた人間は、ジェネノイドの大量生産を禁止することにした。虐殺をしなかったのは、ジェネノイドが既に必要不可欠なものになってしまっているという背景があったためだが、新しいジェネノイドを沢山作るような愚かなことは、もうしないことにしよう。そう決めたのである。


そんな時代の中、エザリムは、特注のジェネノイドとして、九条家に納められた。
九条は、代々IT関連の企業を経営する一家である。
彼女は、その家の御曹司、まだ幼い「隆治」の母親代わりとして、目を醒ました。
「以上で全て準備は整いました。さぁ、もうすぐ目覚めますよ。」
幼い隆治と、老年の父親は椅子に座ったジェネノイドをじっと見ている。ジェネノイド「エザリム」は、ゆっくりと静かに、その目を開いて澄んだ蒼い瞳をのぞかせた。
エザリムの背後には、今回の特注ジェネノイドを扱った「Only Your Gカンパニー」の営業がエザリムの動作をじっと待っている。
「お父さん、目を開けたよ?」
「うむ、そうだな。」
「…はじめまして。」
ジェネノイドは瞳を開けると、伏目がちにしていた顔をゆっくりと上にあげて、その唇を開いた。澄んだ声が聞こえる。
「エザリム!はじめまして!」
隆治は父親の足にしがみついていたが、ジェネノイドの声を聞いてその膝に手をかけた。ジェネノイドは最初、父親の顔を見て、それからゆっくりと膝の前にいる少年に目を移す。
「…はじめまして、隆治さん。私はエザリムです。どうぞ、よろしくね?」
にっこり、と笑った。その笑顔はまるで華がこぼれんばかりの笑顔。隆治は声をかけられて、興奮してはしゃぎながら父親の足に飛びつく。父親は幼い息子の頭を撫でながら、エザリムに話しかける。
「これが、息子の隆治だ。母親を病気で亡くしてな。君には母親代わりをお願いしたい。」
「承知しています。出来る限りのことはさせていただきますね。」
「僕はハル!ハルって呼んで!」
「はい、ハル。」
こうして、父一人、子一人の家庭に、エザリムが加わって、3人で生活をすることになった。


生活は、静かに順調に始まった。
幼い隆治は、エザリムを母親とは区別していたが、それでも母親と同じような愛情を注いでくれるエザリムに充分になつき、エザリムをないがしろにすることはなかった。エザリムは隆治を随分とかわいがったが、母親がそうするように、隆治が誤ったことをした時は毅然とした態度を取った。
父親はそんなエザリムに充分に満足した。彼は失った妻をこよなく愛していたので、エザリムに妻の立場を求めることはしなかった。エザリムもそれを「知って」いたので、父親には「雇い主」としてきちんと礼儀をつくした。
すっかり九条の家にエザリムという存在価値が認められ、家族同様に受け入れられて、何年もの月日が経過する。やがて隆治が中学校に上がるようになり、育児という作業が随分軽減されるようになってからは、父親はエザリムをビジネスパートナーとして経営に参加させるようにもした。
もちろん、エザリムはそこでも力を尽くした。もとよりジェネノイドにはあらかじめ知識が豊富に与えられていたので、彼女はその知識を必要なだけ、的確に隆治の父親に示した。

いまや、父親にとっても、そして隆治にとっても、エザリムは必要な存在になっていた。


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