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作品名:Phobic〜繰り返す悪夢〜 作者:てん、

第3回   Episode:3 痕跡

Episode:3 痕跡


学校の生徒が立て続けに二人も謎の死を遂げるという出来事に生徒達は原因が美幸にあるのではないかと噂し始めた。
鎌森美幸は呪われている―――彼女に近付くと悪い事が起こる。
彼女には近付くな――――――。
そして美幸は一人孤立していった。
中には美幸に同情して話しかけてくる者もいたが、美幸がそれを拒んだ。
誰でもない美幸自信が、一番自分を責めていたのだ。
弘人と徹也の死は自分が関係している。美幸はそう確信していた。
だからこそ美幸は自分を責め、他人を寄せ付けなくなった。
二つに束ねられていた長い髪は顔が隠れるように垂らされ、美幸の愛くるしい大きな瞳やそこから漏れる可愛らしい表情は覆い隠された。
美紗子はどんどん変わっていく娘を心配していた。
明るく表情豊かだった娘から笑顔が消えたのである。
担任から美幸の噂話を耳にした美紗子は、娘を田舎の全寮制の高校に編入させることにした。
美紗子としては、自分の目の届く所において置きたかったのだが美幸には全ての環境から遠ざけるのがいいと相談していた精神科医に助言されたということもあり決断したのだ。海と山に囲まれていて環境が良い所であるという事と、何より当人の美幸が「そうしたい」と希望したからでもあった。
しかし、転校後の美幸に笑顔が戻る事はなかった。

徹也の死から、またあの男が夢の中に現れていた。
毎晩男は呪文のように繰り返し唱える。
キミはボクのモノ…
ボクからは逃げられナイ……
キミをアイシテイル………
美幸はもう誰も巻き込みたくなかった。
それは友達や親友だけでなく両親も含まれていた。
だからこそ、転校の話に飛び乗った。自分が離れれば、もう誰も不幸にする事はない。もう誰も死ななくてすむ。
美幸は毎日それだけを考え男の影に怯え身を潜めていた。
誰も自分に興味を持たぬように。
誰も自分に関わらぬように。

■■■

新しい学校に来て月日が経ち、美幸は高校生活二度目の冬を迎えようとしていた。
そこには、決してクラスに馴染む事はなく、いつも一人孤立している美幸の姿があった。
そんなある日、その学校にしては珍しく今年二度目の転校生が美幸のクラスに現れた。
ガガッと引っかかるような音を立てながら、古い教室の扉を勢いよく開けたのは見慣れた小太りの男性。クラスの担任である。
男の後ろから、上背のある細身の少年がついてはいる。
その洗練された綺麗な顔立ちはクラスの女子たちを一瞬ザワつかせた。
「しずまれ〜〜今日は〜転校生を〜紹介する〜」
先生の言葉で教室が静まると少年は元気よく自己紹介をした。
「鴻上(こうがみ)ジュンです!宜しく!」
その容姿からは想像できない、お茶目で人懐っこい性格の彼は、女子生徒には勿論のこと男子生徒にもすぐ打ち解け一躍クラスの人気者となった。
ただし、ただ一人美幸だけは彼に関心を持つことはなく相変わらず孤立し他人との関わりを避けていた。
それは、ジュンからしたら逆に目に付いた。
「人類みんな友達」というジュンの性格上、自分のクラスメイトが一人寂しく教室の片隅にいるなんて状況は耐えられない状況であったようだ。こうして、美幸の思いとは逆に、ジュンを巻き込んでいく事となる。

ジュンがこの学校に来て一週間が経とうとしていた。
今日もジュンは元気よく教室の扉を開きクラスメイトに大声で朝の挨拶を交わす。
ジュンの声に一番に反応するのは女子達。そして男子は席に着いたジュンの周りに集まりくだらない話を始める。
しかし、今日のジュンには大事な使命があった。
それは鎌森美幸をクラスの仲間(わ)に入れること。
もちろんこの使命は誰に頼まれたわけでもなく自分で勝手に決めた事である。
ジュンは周りに群がる男子の間をすり抜けて美幸の席の前に対面して座った。
「おはよう!」
ジュンはニコニコ眩いばかりの笑顔で美幸に話しかける。
が、美幸はチラッとジュンの方に目をやるとすぐ視線を窓の外に戻す。
「ねぇねぇ、美幸ちゃんも転校してきたんだって?」
美幸はそっぽを向いたままジュンと目を合わせようしない。
ジュンはめげることなく話し続ける。
「俺は親の海外赴任が決まってさぁ、本当は一緒に来いって言われてたんだけど、どぉしても行きたくなくて全寮制の学校に通う条件で残ったんだ。だってさぁ言葉が通じないなんて最悪だと思わねぇ?コミュニケーションも取れないしさぁ、やっぱ嫌っしょ?」
この光景をクラスメイト達は不思議な表情で眺めている。
なぜならば、全然反応しない美幸を相手にジュンは一人で盛り上がっているのだ。
それを見かねた女子達が二人の間に割り込んできた。
「ちょっと鎌森さん!ジュン君が話しかけているんだから返事くらいしなさいよ!」
「そうよ!何様だと思ってんのよ!」
「ジュン君もこんな子ほっといてあっち行こうよ!」
女子達の言葉に慌ててジュンはフォローを入れる。
「ちょっちょっちょっ、待ってよ!俺が勝手にしゃべってるだけだから美幸ちゃんには関係ないよ!」
「でも〜」
「そ〜よ〜、なんでこんな子かばうの〜?」
女子達は口々に不満を漏らす。
と、その中今まで無関心だった美幸が席を立ち上がり不愉快な顔で一言ジュンに言い放った。
「うざい!」そう言い捨てると美幸はその場から離れていく。
しばらくの沈黙のあとジュンがボソリと言う。
「ふられちった」
男子達は大爆笑し、女子達は美幸の一言に憤慨していた。
ところが、この鴻上ジュンは諦めの悪い少年であった。
次の日も、次の日も、暇を見つけては美幸に話しかけ、こっぴどく振られてはまたチャレンジする。
この繰り返しなのである。

「美幸ちゃん!一緒に飯食おぅぜぃ!」
「………」
ジュンの言葉に無反応で今日の日替わりメニュー<クリームコロッケ>を口に運ぶ。
そんな事を気にする様子もなくジュンは美幸と同じテーブルの椅子に腰掛ける。
ジュンはカレーを口にほお張りながら話を続けた。
「今日の日替わりはコロッケだったんだ。俺も定食にすればよかったかな」
「………」
「ところでさぁ、今日の英語の授業、単語テストするらしいよ!俺、全然勉強してねーから、かなりやべぇ!美幸ちゃんは自信ある?ここって結構進学校じゃん?俺じつは編入試験ギリギリで、身体能力の方を買われて入学できたんだよね。こう見えても、かなりスポーツには自信ありだよ」
「………」
無視を続ける美幸の額が顰むのをジュンは見逃さなかったが、まるで気に留めてない素振りで話しを続ける。
「でさぁ〜」
「あのねぇ!!」
ジュンの話を遮り、思わず言葉を挟んだ美幸であったが、その瞬間少年の満面の笑みが目に入り、(しまった)という顔で悔しそうに下唇を噛んだ。
「初めて俺の方みてくれたね?」
自分をみてニコニコ微笑んでいる憎らしい少年をどうしたものかと考えている所へ、女子達がジュンを見つけテーブルの周りを囲みだした。
女子達の中にはクラスメイトだけでなくお隣さん(隣のクラスの生徒)の姿もある。
「ねぇねぇジュン君、さっきの授業でケーキ焼いたんだぁ!一緒に食べよぉ」
「私はクッキー!」
「私のもあるの!食べて」
語尾にハートマークをつけ、ジュンの前にお菓子を並べる女子達。
その甘い声につられてクラスの男子までもが、その輪に入ってくる。
「ああー!俺らにはくれなかったくせによぉ、ジュンにはこんなに!!!」
「何でお前ばっかし、くそぉおお!全部食ってやる!」
「あ〜っ、なにすんのよ!バカ男子!」
そんなこんなでジュンの周りにはすぐ人が集まり、明るい笑い声が響き渡る。
美幸は、輪の中心にいる眩しい笑顔の少年に眉を曇らせるが、目を逸らしてその場を離れた。

「あれ?美幸ちゃんは?」
美幸の姿が無い事に気づいたジュンが女子に聞く。
「その辺に…あれ?ホントだ、どこいったんだろ?」
「何か不思議な子だよね〜?」
「そうそう、可愛いのになぁ。あの性格じゃあなぁ〜?」
話が美幸の話題になりかけたところでジュンがその場を立ち上がった。
「俺、美幸ちゃん探してくるわ!お菓子うまかったよ、サンキュー!」
ジュンは女子達の切ないため息と男子の冷やかしを背にその場を後にする。
ジュンがこの学校に来て一ヶ月。(美幸を追っかけて3週間)美幸の行きそうな場所は察しがついていた。
美幸の好きな場所――――――南館の屋上。

美幸はそこから一望できる海が好きだった。
海の音は何度も美幸を慰め、潮の香りは癒しを与えてくれた。
人との関わりあいを避けていた美幸にとって、海は唯一友達といえるモノだったのかもしれない。
「やっぱりここにいた!」
人の声に振り向くと、満面の笑みでジュンが美幸の方へ近付いてくる。
美幸にはジュンの行動が理解出来なかった。自分は決して思わせ振りな態度は取っていない、むしろ普通なら嫌われているくらいである。
にもかかわらず、ジュンは懲りずに何度も何度も自分に声を掛けてくるのだ。いつも満面の笑みで。
「――――なんで私なの?」
美幸はジュンの顔を険しい目で見つめている。
「ん?何が?」
「ただのお節介で私に近付かないで!」
「そんなこと――――美幸ちゃん?」
ジュンは美幸の辛そうな、そしてすごく怯えた表情にそのまま言葉を詰まらせてしまった。
戸惑うジュンを置いて、美幸は走り去る。
それ以上、触れてはならない気がしてジュンは美幸の後を追えなかった。
「……ハァ……泣くかと思った」
そのまましばし反省する少年の姿そこにあった。



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