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作品名:Phobic〜繰り返す悪夢〜 作者:てん、

第2回   Episode:2 葬送

Episode:2 葬送


それは一本の電話から始まった。
学校に行こうと家を出る時の事だった。
「弘人が――――自殺?」
電話の相手、徹也(てつや)に聞き返した。
徹夜は弘人の親友で、三人とも同じクラスということもあり、美幸とも仲の良い友達だった。
その徹也から、弘人が学校で自殺したと言うのだ。
「だって昨日は、いつもと同じだったよ!なんで自殺なんか…」
学校の屋上から飛び降りたと思われる生徒が早朝練習にきた部活生に発見されたというのだ。それが弘人だと。
弘人が運ばれたという病院へ徹也と共に向かったが、そこには変わり果てた姿の弘人がいた。
病院に運ばれた時には、息絶えていたそうだ。
実感なんて湧かなかった。いや、こうして弘人の遺体を目にしても未だ信じる事などできない。
いつもふざけて自分をからかう弘人が今回も「なぁんちって!冗談だよ」と、自分を騙しているのではないかと思ってしまう。
突然、糸が切れたように弘人の母親が泣き崩れた。
その姿に美幸の頬にも大粒の涙が伝う。
「ひ…ろと……――――――っっ」
泣き叫ぶ母親の姿が、弘人には二度と会えないのだと告げているようだった。
司法解剖の後、行われた告別式では数え切れないほどの関係者が参列し、改めて弘人という人間はみんなに愛されていたのだと実感することができた。
美幸の頭の中で弘人との思い出が映画のワンシーンのように蘇っていく。
いつも笑顔だった弘人。少し強引で、でも優しくて――――――自殺なんかじゃない。
弘人が自殺するはずなんてない。理由がない。
美幸にはどうしても弘人の死を理解する事ができなかった。
自殺と断定する警察に、弘人の両親と共に再調査を願い出たが–––––結局、警察は弘人の死を自殺と断定した。

「――――――美幸……今、弘人君のご両親から電話があって……その…警察の調査が打ち切られる事になったって…」
美紗子は言いにくそうに美幸に伝える。
「うん―――分かった」
母の言葉に無表情で答える美幸。
自分を心配そうに見ている母親の姿に美幸は「大丈夫」と笑顔で強がって見せた。
無理に笑顔を作る娘の姿に美紗子は余計辛そうな顔で美幸を抱きしめた。
「美幸……無理しないで泣いていいのよ?」
「――――――おかぁ…さん?」
抱きしめられた母の手が涙にぬれている事に気づいた。
「何でお母さんが泣くの…」
「だって……美幸が泣かないから――――――」
自分を抱きしめて、ポロポロ泣いている母に「ありがとう」と一言呟いた。

そして、弘人の謎の死から美幸の中には少し変化が起こっていた。
美幸の悪夢が消えたのだ。美幸の中で弘人の死はあの悪夢と何か関係があるのだろうかと、しばらくは悩んでいたのだが答えは見つからず、月日だけが悪戯に流れて行った。

■■■

弘人の謎の死から一年後。
時の流れというのは、優しくもあり、残酷でもあるのか、弘人の一件は世間から忘れ去られようとしていた。
それは美幸にもいえる事で――――忘れるとまではいかなくとも、美幸の中で弘人の死はすでに過去のものになっていた。
だが考えて見ればそれも当然の事であろう、まだ何でも柔軟に吸収していく16歳の美幸にとって一年という歳月は、とてつもなく長い日々であるのだから。そして、美幸にふたたび恋が訪れる。
相手は徹也――そう弘人の親友である。これも仕方がないことなのかも知れない。
弘人を突然失った美幸を励まし、頑張れと支えてきた徹也は美幸にとって無くてはならない存在になっていたのだ。
徹也は弘人とは正反対の性格で、その大きな身体からは想像出来ないほどおっとりとした雰囲気を持つ、物静かな少年であった。
弘人を失った二人はお互いの穴を埋めるように自然と一緒にいる事が多くなり、惹かれあっていった。
意識し始めた頃の二人はまだ弘人の事もあり、お互いの気持ちを抑えていたのだが、それが逆に想いを膨らませる事となったようで、二人が想いを実らせるのに時間はかからなかった。
それは、二人にとって久しぶりに訪れた幸せな時間だった。
決して傷を舐めあうだけではない何かが二人にはあった。
優しく抱きしめてくれる徹也の大きな腕は美幸を安心させる大事な役割を果たし、美幸のはにかむ笑顔は徹也の心を癒した――――――だが、
短すぎる二人の恋はある日突然終わりを告げた。

――――――――――――ここは?
森……の中……?
美幸は歩いていた。
自分の意思に関係なく勝手に足が動くのだ。
先へ進めば進むほど森は深くなっていく。
ふと、足が止まり自分の背中に抱えているモノを降ろす。
ドサッっと音を立てそのモノは地面に倒れこんだ。
そのモノに目をやる。
(徹也君!!)
心の中の美幸は叫んだ。
目の前に在るモノは徹也だった。
徹也は青ざめた顔で横たわっている。
(徹也君!!徹也君!!)
美幸は心の中で必死に徹也に呼びかけるが声には出ない。
それどころか、ポケットから先の鋭いナイフを取り出し、それを徹也の首元に近づける。
(やめて!!やめて!!やめて!!)
美幸は何度も叫びながらそれを止めようとするが身体は全然言う事を訊かない。
とうとう、ナイフは徹也の首を押し当てた。
(徹也君!!)
美幸の必死の抵抗も空しく徹也の首は美幸の手で引き裂かれてしまった。
(いやぁぁぁぁ!!!!徹也君!!!!!)
徹也の首からは大量の血液が流れ出している。
(いやぁぁぁぁ!!!いやぁぁぁぁ!!!いやぁぁぁぁぁあああ!)

「ハァアッッ!!――――――ハアハアハアハアハア……」
そこは自分の部屋だった。
美幸は弾む呼吸と体中からあふれでる汗に気づいた。
「ハアハア……ハア――――――夢?」
寝ながら流していたのか頬には涙の痕がついていた。
美幸は大きく深呼吸をして、ゆっくりと体を起こした。
美幸の頭に浮かぶのは、一年前に見ていたあの夢。
弘人の死からみなくなっていた、あの悪夢――――――。
徹也の身に何か起こったのでは、という言いようのない不安が立ち込める。
カーテンの隙間から見える空はまだ薄暗い。
時計を手にして時間を確認し、少し悩むと近くに置いてあった携帯を手に取った。
まだ、午前5時まわったばかりという事もあり電話ではなくメールの画面を開くと徹也にメールを打ち込む。

[件名] おはよう
[本文]
寝てたかな?
朝早くゴメンね(>人<)
嫌な夢みて↓↓↓怖くなってメールしちゃった
目が覚めてたら電話ちょうだい
ミユキ

送信して4〜5分後携帯に反応があり、とりあえず胸を撫で下ろした美幸は返事を確認する。
しかし、それは徹也からではなかった。

[無題]
[本文]
ミユキ――キミはボクのモノ――――――
ミユキ――キミは誰にもワタサナイ―――
ミユキ――ボクはキミをアイシテル―――

ミユキ、ミユキ、ミユキ、ミユキ、ミユキ、ミユキ、ミユキ、ミユキ…

「きゃぁあ!いやぁ!」
美幸は思わず携帯を放り投げる。
徹也からの返事ではなかった。
これは徹也ではない。
なら徹也は――――――?
さっきの夢…は……?
美幸の頭の中で<徹也の死>という最悪のシナリオがよぎる。
美幸には自分が見た悪夢が、ただの夢ではないような気がしてならなかった。
もしかしたら、まだ徹也を助けられるかも知れないという思いに駆られて、美幸は徹也の携帯にかけてみるが――――つながらない。
早朝である事にとまどわれたが、徹也の自宅の方に電話を入れてみる。
2〜3回のコールで徹也の母親が電話に出た。
「もしもし、おばさん?朝早くにごめんなさい…ええ、美幸です。徹也は………え?キャンブ?」
徹也は、昨日友人から突然誘われて、キャンプに行ったという。
行き先も宿泊先も何も告げないまま出て行ったらしい。
昨夜から携帯に連絡をしているのに繋がらないのだと母親も心配しているようだった。
もちろん美幸は初耳で、人に心配など決して掛けない徹也には考えられない行為だった。
美幸は膨らむ不安を抑えて、自分も連絡が付かない事と徹也の携帯から変なメールが届いた事を母親に告げた。
話を聞いた母親は慌てて警察へ捜索願を出し、家族総出で徹也の捜索にあたったが有力な情報は得られず――――――、
美幸が元気な徹也に再会する事は二度となかった。

行方不明になっていた徹也の遺体が見つかったのは一ヵ月後の事であった。



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