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作品名:彼女のキモチ、彼のオモイ。 作者:てん、

第9回   ―岡野良SIDE― (3)初歩
あれから・・・・・
彼の顔を直視できなくなってしまった私は図書室に行くことができず・・・・
彼の方も全国大会に向けての本格的な練習を兼ねて、泊り込み合宿と遠征試合の往復で(酒匂君が教えてくれた)忙しい毎日を送っていたらしく・・・・
気がつけば、彼は一年生ながら―剣道全国大会個人の部 第3位―という偉業を達成していた。
まだ、夏休み中なので学院の生徒にもあまり知られてない事実なのだけど・・・・
私は・・・・・・・・・・
正直、ビックリした・・・・・・・・・・のが本心だ。
そんなに凄い人だなんて知らなかったから・・・・・・・・
彼が活躍できたのは本当に嬉しいけれど、だってあんなに頑張っていたのだから・・・・
でも、なんだか遠い人になったみたいで・・・・・
寂いような・・・・・・・そんな感じ・・・・・・

□□□□□□□□

夏休みも残り一週間となり、ダラダラと気だるい日々を送っていた私に一本の電話が入った。
電話の相手はマサ。
マサも*見事!女子100m優勝*という快挙を成し遂げたのだが、
練習や試合などで尽く(ことごとく)後回しにしてきた夏休みの宿題を残り一週間で仕上げなければいけない状況に陥り救いを求めてきたのだ。もちろん、私だけでなくランちゃんの方にも連絡はいっていて、その日のうちに学院内の中央図書室で勉強会をすることとなった。


私が図書室に付いた時には、すでに二人は揃っていて、片端からノートを写しているマサをランちゃんが呆れ顔でみていた。
「ランちゃん、マサ!久しぶりだね」
マサの隣に座ると、トートバッグの中からファイルを取り出した。
「これが数学で・・・・・・これが英語!そして・・・・・これが古文」
次々積み上げられるノートやファイルの山にマサの顔が青くなっていく。
「大丈夫・・・・・・・?」
「・・・・・・・・なんとか・・・・・・・・いや、無理かも・・・・・・・」
「自業自得ですわ!いくら部活動が忙しいからって、本当に何も手をつけて無いなんて!!」
「・・・・・・・・・言い返す言葉もないが・・・・・・・」
ランちゃんの言葉で、更に落ち込むマサにすかさずフォローを入れて励ます。
「で、でも全国一位だよ!まだ一年なのに!やっぱりマサは凄いよ!!」
「それは認めますけれど、試合は半月以上前に終わってますのよ?その間、マサったら何なさっていたと思います?」
珍しくご立腹のランちゃんに怯(ひる)みながら上目遣いに答える。
「え?何って・・・・・・練習でしょ?」
「違いますわ!」
「ちゃんと、練習もしてたさ!!」
「そんなもの!午前中にはおわるじゃありませんか!」
必死に弁解しようとするマサに間髪入れず反撃するランちゃん。

このパターンはまさか・・・・・・・?

「お兄様ですわ!椿兄様と一緒だったんですのよ?しかも、わたくしに黙って!」
・・・・・・ああ・・・やっぱり・・・・・

実は、ランちゃんのお兄さん→椿さんはマサの*婚約者*で(なんか親同士が古い友達だとか・・・)超ブラコンのランちゃんは、それを認めたくないらしく毎回この手の話題でもめるのだ。ランちゃんの欠点は?と聞かれて唯一答えられるトコロが『ブラコン』椿さんに言い寄る女が現れようもんなら、徹底的に潰すという意気込みだ。

『婚約者と言っても親同士が勝手に決めた事だから』と二人は冷めた感じなのだが・・・・
何だかんだ言いながら、マサは椿さんの事が気になるみたいだし、椿さんもマサの事気に入っているようなので(妙に大人で何考えているか読めないけど・・・)何かと仲の好い二人がランちゃんには面白くないのだろう。

「別に何してたわけじゃないさ・・・・・・・それに・・・・<あの人の相手は私だけじゃない>」
最後の一言をランちゃんと私に聞こえないように呟いたマサは、暗い顔をすぐ笑顔に戻すと人差し指を立てて話題を変える。

「まぁいいじゃん!その話は!それより、アイツ!」
「アイツ?」
話題を変えたマサに、これ幸いと私も話に乗る。
だって、ランちゃんのブラコンは筋金入りで本当しつこいんだもん・・・・・・・・・・・・・・
他は完璧なのに『椿兄様命!』なのが・・・・・・・・・・・・ちょっと・・・・・・・・なんだよねぇ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぐらかしましたわね?」
ランちゃんは私達を恨めしそうに睨んでいる。
「アイツだよ!眞田良!剣道の個人戦で全国3位だって!!」
「え?」
マサの口から出てきた思わぬ名前に言葉を失う。
「あら?お強いのね彼・・・・・・・・全国ランクが二人もクラスメイトなんて光栄ですわ」
少しトゲのある言い方だが、素直にマサの凄さも認めたらしい。


彼は・・・・・・・本当に凄いことをしたんだなぁと改めて思う。
私なんかには追いつけないほど遠いところに彼が行ってしまった気がして
不安になった。
そして、その不安は的中する。

□□□□□□□□

二学期が始まり、マサと彼の活躍は瞬く間に学院内に知れ渡り二人は時の人となっていた。
特に彼→眞田良に関しては、今までクローズアップされていなかっただけに皆の注目度は高くて・・・・・・・
一部の女子生徒の中には「かっこいい」と噂になったりして・・・・・・・・・
私は・・・・・・・・とても面白くなかった。

廊下の窓越しに彼の姿を覗いてくる女の子達を横目に私は小さく溜息をついた。
彼はというと以前と変わることなく、女の子達の熱い視線にはお構いなしで椅子に座ったまま腕を組んで眠っている。二学期に入り席順も変わったせいで彼とも席が離れてしまい、ますます話すきっかけがなくなってしまった。
時々、女の子達に呼び出されたりするのを見てはイライラする自分が嫌で・・・・・
折角彼と目があっても思いっきり逸らしたりして・・・・・・・・・・・・・

なんて可愛くないんだろう・・・・・・・・私。

自己嫌悪に陥っている間に、また一人彼の元に歩み寄る少女・・・・・・・。
すらっと背が高くて綺麗な子・・・・・・・

私はポーチから手鏡を取り出すと鏡に映る自分の顔を見た。
・・・・・・・私なんて全然彼女に敵わない・・・・・・
彼はその少女に優しく起こされると、二人で教室を出て行った。

「はぁ〜〜〜〜〜〜ぁ」
その後姿を目で追いながら再度大きな溜息をついた。
「・・・・・・・・・・どういたしましたの?あら、鏡?どこか気になるところでも?」
ランちゃんに声を掛けられ慌てて鏡を片付ける。
「あ・・・・・・・ううん、別に・・・・・・・」
「そうですか?」
軽く微笑むランちゃん。その顔をまじまじ見ながらボソッと呟いた。
「・・・・・・・・・ランちゃんって・・・・・・美人よねぇ・・・・・・・」
目の前にいる親友はお伽(おとぎ)噺(ばなし)に出てくるお姫様のような美少女でさすがカトレア学院のアイドルというだけのことはある。
「あら、よしのだって(自分が美人な事は認める)かなりの美人ですわよ?」
ランちゃんのお世辞に頬を膨らませて答える。
「もぅ、からかわないで!」
「あら?わたくし本当の事しか言いませんわ・・・でも、よしのったら何故急にそんな事・・・・・・・・・・・・・あら??」
ふと、何か気がついたようにランちゃんが私の顔を覗き込む。
「あら、あら、あら、あらぁ?」
「な・・・・・・・なに?」
引きつりながら笑う私にランちゃんは目が眩(くら)むような微笑を浮かべて答えた。
「気になる殿方がいらっしゃるのね?」
「ええぇ!!!!!!」
「な、なん、なん、なんで・・・・・」
「おほほほほほほ、やっぱりよしのは可愛いですわね」
もう、何も言えずに固まっている私の事など気に留める様子もなくランちゃんは話を戻した。
「よしのは、とっても素敵な女の子ですわよ」
「・・・・・・・・・・・」
「わたくしの言葉が信じられませんか?」
少し悲しそうな顔をするランちゃんを慌ててフォローする。
「違うの!・・そうじゃないけど・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
落ち込む私の頭を撫でながらランちゃんはもう一度、魔法の呪文のように唱えてくれる。
「よしのは、とっても可愛いらしくて素敵です。」
「そう!!そう!!よしのは、サイコーに可愛い!!!!」
女の子達にようやく開放されたマサが、私の背中に抱きつく。
こっそり私達の話を聞いていたようだ。
私を励まそうとしてくれている二人の気持ちはとっても嬉しかったけれど
やっぱり自信が持てない私は、恥ずかしげに俯いて黙り込んだ。
その様を見たマサとランちゃんは顔を見合わせて困った顔をする。
「・・・・・・・・よしの・・・・・・・なんかあったのか?」
マサが心配そうに私を見つめる。
ランちゃんはしばらく考え込んだ後、私の顔に手をやり・・・・・・ゆっくり眼鏡を外した。
「ら、ランちゃん? 」
驚いて、ランちゃんの持っている眼鏡を取り戻そうとするが、すばやくそれを制止(せいし)せれる。
「でも眼鏡を取ったほうが、もっともっと可愛くなりますわ❤」
「お!そうだな〜!!やっぱ眼鏡はない方がいいな〜〜!!」
「もう!二人して!からかわないで!!」
からかう二人に握り拳を軽く振る。
「まぁまぁ、わたくしの言葉を信じて試しに今日だけ眼鏡なしで過ごしてみてはどうかしら?」
「あっそれ!いい考えじゃんか!」
「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!」

ランちゃんとマサは私の視力が悪くないのを知っている。
<眼鏡をかける理由>というのにも何となく気がついているはずだ。
その原因について聞かれた事はないけれど、
何かがあったのだろうと心ならず心配してくれている素振をたまに見せてくれるのが嬉しかった。

なのに、その私に眼鏡を取れだなんて・・・・・・?
恨めしそうに見つめる私にランちゃんは笑顔で答えた。
「人を好きになることが出来たのでしょう?」
ランちゃんの一言にマサは大げさに驚く。
「ええっっ!そうなのか?」
そんなマサにランちゃんは頷いて続ける。
「なら、もうよしのは大丈夫!コレは卒業できるはずですわ・・・・・・・それに・・・」
「ああ、そうだな」
マサとランちゃんは顔を見合す。
「わたくし達がいます!」
「私らはいつでもよしのの味方だ!」

私にはマサとランちゃんがいる?
これほど心強い言葉はないかもしれない・・・・・・
大好きな友達が味方についてくれて・・・・・・・私を一生懸命応援してくれている。

目立たないよう人の陰に隠れていた私も、小さくなって怯えていた私も、
大事なこと伝えられない私も、今日で卒業できるだろうか?
私も二人のように前を向いて歩いていけるだろうか・・・・・?
先に進みたい・・・・・・私も・・・・・
誰かに手を引いてもらうんじゃなくて自分の足で先に進みたい。

何かを変えるためには、まず私が変わらなければ・・・・・・
そのための第一歩を・・・・・・・・・

私は、この時久しぶりに前を向いた気がした。


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