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作品名:彼女のキモチ、彼のオモイ。 作者:てん、

第3回   ―岡野良SIDE― (3)苦悩
自分で言っておいてなんだが、予想外だ。
あの日以来、彼→眞田良は本当に私に寄り付かなくなった。
そりゃ、『少しは反省するかも?』と思ったけど、固まっていた彼を見て『いい気味』とも思ったけど、
私に言われたくらいで自分の意見を変えるなんて事を彼がするとは、とうてい思えなかったからだ。
まぁ、結果的にはあの言葉が効いて彼が私に近づかなくなったのだから万々歳なんだけど・・・・・・・・・

・・・・・・・・・なんか・・・・・・・・・・変な感じ

そして、いつもの平和な日々が私に戻り、気がつけば夏の強い日差しが雲の隙間から覗こうとしていた。

□□□□□□□□

「はぁ〜、やっぱりマサは凄いねぇ」
表彰台に立っている親友を誇らしげに見る。
「次はインターハイですわね」
ランちゃんも私と同じ顔してマサを眺めている。
「うん。」
今日は高校陸上県大会。
私達はマサの応援に駆けつける為、都内の運動競技場に来ていた。
マサは無事、優勝トロフィーを手にして全国大会へと駒を進め、意気揚々と引き揚げている。
私たちは観客席から受賞式の終わったマサへと手を振る。
マサは私たちに身振り手振りで合図をすると控え室の方へ去っていった。
どうやら、『正面玄関で』という事らしい。
私達も席を立ち上がり、ゆっくりと待ち合わせ場所へと歩き出した。
「インターハイも応援に行きたいなぁ」
「ですわねぇ・・・・・・去年は夏休みの登校日と重なりましたでしょ?今年は大丈夫かしら?」
「大丈夫だったら一緒に行こうね!」
「もちろんですわ」
私の言葉にランちゃんも満面の笑みで返してくれた。

私達が競技場の入り口を抜け正面玄関への並木道を進んでいると、なにやらニヤニヤした顔の男子生徒達が私達の方を見ている。
通常、私達聖(セント)カトレア学院の生徒が校外で姿を現すことはあまりない。
だから、たまに制服姿で歩いていると目をつけられるのだ。
いち早くそれに気づいたランちゃんは私の耳元で呟いた。
「わたくしのそばを離れぬように」
私はランちゃんの少し後を男達とは目を合わさないように歩いた。
ガラの悪そうな男達は私達の行く手を遮る様に近寄って来る。
握りしめた掌が汗ばむ。
「ねぇ〜え?その制服、カトレアのだろ?」
そのネットリとした話し方は気味が悪く吐き気がしそうだ。
ランちゃんはいつものように品よく、しかし強い口調で答える。
「何か?」
「おおっ、さすが金持ち学校の生徒は違うねぇ」
「話し方もお上品だねぇ〜〜」
男達はやらしい手つきでランちゃんの肩に手を回した。
「俺たちと一緒にあそんでよ〜〜」
ランちゃんは何も言わず、男の顔を射抜くまなざしで睨んでいる。
ランちゃんに少し怯(ひる)んだのか、男は肩から手を離した。
すると今度は別の男が私の肩に手を回してきた。
「いやっ」
私が叫ぶとランちゃんが、慌てて私の手を取り男から引き離した。
その瞬間、私の目の前で、男は地面へとひっくり返っていた。
一瞬ランちゃんがしたのかと思ったが、そこにいたのは彼・・・・・・・・・・・眞田良。
彼は私達をかばう様に男達との間に立つと鋭い眼光で男達に言った。
「俺が、相手になろう」
男達の一人が彼にとびかかって行きそうになったが仲間がそれを止め、男達は唾を吐いてその場を立ち去った。
そして私は、わなわなと力が抜けその場にしゃがみこむ。
「よしの!」
「おい!」
ランちゃんと眞田良が私の顔を覗き込む。
私は「大丈夫」とランちゃんの手を借りて立ち上がった。
「それにしても、お強いのね?助かりましたわ」
ランちゃんは改めてお礼を言う。
「別に・・・・・・・たまたま通りかかっただけだ・・・・」
たまたま・・・・?
「あら?眞田君もこちらにご用が?」
ランちゃんは施設にかかっている垂れ幕に目をやり手を叩く。
「ああ!確か眞田君は剣道部員でしたわね。今日はこちらで高校剣道の県大会も開催されていますものね」
そういえばパンフにもそんな事が・・・・・それに彼のそばに大きな防具入れと竹刀がある。
彼はその二つを手に持つと「じゃあ」と言って去っていった。

彼と入れ違いで現れたマサはランちゃんに話を聞き、自分も驚いたんだと話を返す。
「あいつも県大会優勝だってさ」
そういえば、彼にとびかかりそうな人を止める時に男の一人がそんなことを言っていた気がする。
「あら、じゃあ彼が特別待遇で入学してきたって噂は本当でしたのね」
ランちゃんは感心したように眞田良を褒めた。
「わたくし、彼を見直しましたわ」
「ああ、そうだな」
マサも大きく頷き答える。
私は・・・・・・?
なんだろう、何か胸が痛い気がする
何故・・・・・・?
彼は私の顔を一度も見なかった。

□□□□□□□□

それからというもの何故か彼の存在が気になりだした。
気になるというか、彼がそこにいると自分が間違った行動をとっているような気がしてくるのだ。
そして自分が嫌な人間に思えてくる。
いつまでも過去の事にこだわっている自分が・・・・・
こだわっているフリをする自分が・・・・・・・・・・・
私は卑怯者だ・・・
そんな気分にさせる眞田良の存在は私にとっての恐怖になっていた。
彼が怖い・・・・・・・

□□□□□□□□

顔を上げるとそこには彼が立っていた。

夕暮れ時、ランちゃんと二人でマサを待っていたのだが
その途中ランちゃんは委員会の仕事が入り(ランちゃんは委員長)一人教室で二人を待っていた。
ぼんやり夕暮れをながめながら考え事をしていると彼が教室に入ってきたのだ。

そして彼と目が合った瞬間、足が竦(すく)んでしまった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・動けない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

先に沈黙を破ったのは彼だった
「別に何もしない・・・・・・・・・・・荷物取りに来た」
余程、驚いていた顔をしていたのか、彼は私を見るなり両手をあげて自分の席を指差した。
私は何も言わず固まっている。
彼の席は私の前。
彼が一歩近づいてくるごとに手の振るえが強くなっていくのを感じていた。
その場から逃げ出したい・・・。
震える足を前に出し、なんとかその場を立ち去ろうと一歩踏み出したが
その足は床からずれ、前のめりに私の体が傾いた。
―倒れる―っと思った瞬間、彼の懐の中にいた。

「・・・・・ぁぶねぇ・・・・」
彼は私を抱きかかえて安堵のため息をもらす。
彼の手は大きく私をしっかりと支えてくれていた。

彼を見上げた。
不思議とさっきまでの彼への恐怖が消えていた。
安心感・・・・・・それに近い感情が私の心を包んでいく。
この状況がいまいち理解できていなかったんだと思う。
なんだか、父親に守られているような錯覚に囚われていたのだ。
そして、彼を見つめて微笑んだ。

「ありがとう」

彼は私のその一言で、糸が切れたように私を強く抱きしめ、
私の唇に自分の唇を重ねてきた。

何が起きているか分からない私の耳元で彼は呟いた。
「好きだ」


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