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作品名:彼女のキモチ、彼のオモイ。 作者:てん、

第2回   ―岡野良SIDE― (2)拒絶
次の朝、足取り重く眞田良のいる教室へと足を運んでいた。
「はぁ〜〜〜あ・・・」
思わず大きなため息が漏れる。
『きっと、これが幸せの逃げるため息だ』なんて思いながらもう一度小さなため息をついた。

扉の前まで来て立ち止まってしまった。
昨日の様子から彼に私の事がバレるのは時間の問題であろう。
いや、もう確信を持っているに違いない。
そう思うと、そこから一歩も動けなくなってしまって・・・・・

「よしの?どうなさいましたの?」
その呪縛から解放してくれたのはランちゃんの心配する声だった。
「あ・・・ランちゃん。」
私のホッとする顔を見てランちゃんは不可解な顔をしている。
「お顔が真っ青ですわ・・・体調が優れない・・・わけではなさそうですわね?昨日から変ですわよ?悩み事ですの?」
するどいランちゃんの言葉に愛想笑いでごまかしたが、何かを察知してかそれ以上問い詰められる事なく、
私の背中をポンポンとやさしく叩くと教室の扉を開け一緒に招き入れてくれた。
「みなさん、おはようございます」
いつもの甘い声が響き、わらわらとランちゃんの周りを男子生徒が囲む。
そして、先に教室に来ていたマサが声をかけてくる。
「おっっス!!ラン、よしの!!」
それは、いつもの光景だった。
何故だかそれが無性に嬉しくなって満面の笑みでマサの方へ近づいていった。

「お前、そんな顔もするんだな」

不意に横からの声に背筋が凍りついた。
声の主は眞田良・・・・・・
彼は私の腕を掴むと自分の方に引き寄せ私の耳元で囁いた。

「お前、あの岡野良だろ?」
背筋が凍るような感覚だった。私は顔を彼の方には向けず、上ずった声で言葉を振り絞った。
「・・は・・・離して・・・・」
「話しがある」
彼の手に力が入り、私は「痛いっ!」と顔を歪める。
小さな叫びに思わず彼の手が緩んだが、まだ私を解放してくれない。
その様子にマサは慌てて近づいてきた。
「何だ?どうした?よしの、大丈夫か?」

「・・・・・・・・・・・・・いや、すまん・・・・・・・」
彼は両手を胸の辺りまで上げると降参のポーズで素直に謝罪し離れていった。
彼が立ち去るのをマサは綺麗な流し目で確認するとスラリと伸びた背を少しかがめて、私の顔を覗き込む。
「どうした?」
胸の鼓動が治まらない
胸に手を当て、息を整えてマサに笑いかけた。
「何かの間違いだったみたい」
「そうか・・・・?」
「そんなことより、今日から朝練だったの?」
納得いかない顔をしているマサを強引に席に戻し陸上部の話をふる。
するとパァと無邪気な顔になり朝の出来事を話し出した。
マサは陸上の話をしだすと止まらないのが玉(たま)に瑕(きず)だが今回はそれに助けられたかもなんて思いながら、
そんなマサに笑顔で相槌(あいづち)をうっていた。


私は過去のいじめられた記憶をマサやランちゃんに話していない。
やはり、いじめられた記憶というのは本人が思う以上に大きなレッテルとして残っているようで
そのことを知られたからと言って、マサやランちゃんの私への態度が変わるなんて事はないだろうが
話した事によって同情されるのは絶対嫌だった。
ランちゃんともマサとも今後も変わらない関係をたもっていきたいのだ。
そして今までは、それでうまくいっていた。眞田良が来るまでは・・・・

バレないように彼の方へそっと目をやる。
私の席からは彼の背中しか見えないが、椅子に座り腕を組んで下をむいている。
授業中だというのに、えらく堂々と寝ていられるものだ。
なかば彼の行動に呆れながら、今後どうやって眞田良をかわしていこうかと考えていた。


その後は、ありとあらゆる方法で彼を避け続けた。
しばらくは彼も隙をみては私に近づこうとしていたようだが
いち早く察知し、それをくぐり抜けてきた。
そんな中、それは起こった。

□□□□□□□□

「ここは何処?」
見渡す限り深い緑に覆われた森の中で、ただ一人立ち尽くしていた。

それは2時間前のこと・・・

「毎年毎年、嫌になるよなぁ」
マサが諦めたように呟く。
「ええ、まったく。毎年同じじゃあ、新鮮味に欠けますわね・・・」
「あはは。私は美味しいし、好きだよ」
籠に入っている筍を取り出し答えた。
「食べるのは、いいんだけどな・・・」
「毎年、自分たちで見つけなくてはならないのがちょっと・・・・」
「え〜〜楽しいよ〜。ほら私、一つ見つけたよ〜」
私の言葉に二人は私の頭を<いいこいいこ>しながら答える。
「「だからよしのって可愛いん(ですのよねぇ)(だよなぁ)」」
「・・・・・・・・・・・」
同調(シンクロ)してるし。

そう、私たちは毎年恒例となっている筍狩りに来ている。
というのも、学院管轄の竹林で行われているもので、
毎年春になると全校生徒が学年ごとに交代で行う行事なのだ。
そして今日は私たち高等部一年生の日だというわけ。
この行事は小等部から順番となるので、高等部ではもうあまり筍も残っていない上、
はきっり言ってほとんどの生徒はやる気がない。
とはいっても、これは一種の親睦会のようなものも兼ねていて、近隣の他校生も参加してもらい、
親睦を深めていくという趣向なのだ。
なので、いやいやでも皆が参加するのは、代わり映えのない私たち学院以外の生徒との交流が楽しみだからというのが本音であろう。しかし、もともと人嫌いな私がこの状態に馴染むことなどできるはずなく・・・・・・・・
一人もくもくと筍を掘っているのだけれども・・・・

「はぁ〜今年は当たりなしだったなぁ」
マサがため息交じりにもらす。
「筍?あまり見つからなかったね〜」
見当違いな言葉を返す私にマサが人差し指を立てながら真剣な顔で反論してきた。
「ちがうだろ!!お・と・こ!!」
普段、女の子にモテモテなマサだが実は結構な遊び人らしい。(ランちゃん談)
この歳で婚約者もいるし・・・・・・・相手は年上ばっかりらしいし・・・・・・・・
マサが綺麗な理由はそこにあるのかもしれない。

「まっ!!マサったら不純ですわよ。」
そんなマサを制するのはいつもランちゃんの役。
あんなにモテるのに今まで浮いた話ひとつないのが不思議だったのだが、
実は『白馬の王子様』をまっているからだとか。(マサ談)

「そっかぁ?皆、考えてる事は同じだろ?」
マサの下品な一言にランちゃんの足がマサの足を踏みつける。
「いったぁ!!」
「あら、ごめんあそばせ?」
「ラン・・・・・絶対わざとだな!!」
筍狩りを無事に終え、バスに向かう帰り道で二人はあーだ、こーだと言い争っている。
正反対の二人だが、これでうまく言っているから不思議なのだ。
その時、風が大きく吹き上げた。

「あっ!」
私の帽子がその風と一緒に舞い上がる。
「やだーっっ」
帽子を追いかける私。帽子は運良く近く道のはずれに落ちた。
「大丈夫かぁ〜?」
マサが私の方に声をかけた。
「うん、大丈夫〜〜っ!先に行ってて!!」
なるべく大きな声で伝えるとマサが手を振るのを見届けて、帽子に手を伸ばした。
あと少しで届くというところで、またしても嫌な風が・・・・・・・・・・・・・帽子は、また少し向こうと飛ばされた。
それの繰り返しで・・・・・・・・・・・・・・・・・・


気がつけばこのあり様だというわけなのだ・・・・・
高校生にもなって迷子なんて情けない・・・

辺りは新緑が生い茂っている・・・・・ということは竹林から離れてしまったということだろう。
私は一抹(いちまつ)の不安を抱えながらもとりあえず、そんなには離れていないはずと、
もと来た道を記憶のある限り戻ることにした。
「こんな時ってどうすればいいんだっけ・・・?」
誰も返事なんてしてくれないのに一人でブツブツ言いながら歩く。
パニックにならないよう必死に自分に言い聞かせ歩いているが、いくら歩いても竹林は見えてこない。

(どうしよう・・・・)
私の足は止まってしまった。恐くて前に進めない・・・・・
『誰か助けて』っと心の中で願った直後、ものすごい後悔の波が私に押し寄せた。

「おい・・・・・」

後から聞こえた声にすがる思いで振りむいたが、そこにいたのは・・・・・・・・・・・・・・・・・眞田良。
この世で一番会いたくない人物だった。

「・・・・・・・」
何も言えず固まっている私。
そんな私の心境を知ってか知らずか彼は一言だけ発して歩き始めた。
「こっちだ・・・・・・」
私は突然の彼の言葉に一瞬迷ったが、
今の状況ではついていくしかないと思い躊躇(ためら)いながらも彼の後をついていく。
少し距離を置きながら、見失わないように後を歩いていると彼のある行動に気づいた。
彼は私との距離を一定に保ちながらも私の歩幅に合わせて歩いている。
それに、チラチラと後ろを見ては私がついて来ているか確認し、歩きやすい道を選んで進んでいるようでもある。
彼の行動が理解できなかった。そもそも、何でここにいるのだろう?

まさか私の後をつけてきた?

急に彼が恐くなって私は立ち止まってしまった。
私の足が止まったのに気づいた彼は怪訝(けげん)な顔でこちらをみた。
「どうした・・・・・・?」
「ど・・・・どこに行くの?」
「・・・・・・・バス乗り場じゃないのか?」
その言葉を聞いて少し安心して、私は再び足を進め始めた。
でも・・・・・・・・・・・・・、『なぜ、ここにいるの?』という聞く事は恐くて出来なかった。

20分ほど歩くと竹林が見えてきて、ようやく気も落ち着いてきた。
気が緩んだその瞬間、彼が言葉を発した。
「眼鏡・・・・」
「え?」
「昔はしてなかったろ?」

□□□□□□□□

帰りのバスの中、ヒロミ先生と親友二人に私はこってりしぼられていた。
「信じられませんわ!」
「まったくだ!」
「もぉ〜!これからは先生に声をかけて頂戴よぉ〜」
「・・・・・・・ごめんなさい。」
ヒロミ先生が去った後もまだまだ言い足らなそうな顔をしていた二人だったが、私の謝罪の言葉にその場はなんとかおさまった。
そして話は眞田良へと移った。
まぁ、仕方ない事だろうけど・・・・
だって、いなくなった二人が一緒に戻ってきたのだから、普通は『なぜ?』と疑問に思うことだろう。
そして私も同じ疑問を持っていた。
『なぜ、ここにいるの?』あの時怖くて聞けなかった言葉・・・・・

「聞いていますの?」
ハッと我に返りランちゃんに返事する。
「なんか途中で会って・・・・・、私が迷ってるの知って、バス乗り場まで連れてきてくれたみたい」
ウソではない。
「へぇ〜〜〜」
マサが疑り深い目でこちらを見ている。
「本当だよ?」
ランちゃんは一つため息をつくと「まぁ、無事でよかったですわ」と呟き私の背中を叩いた。
こんな時のランちゃんは大人だなぁと思う。必要以上の事は聞かない所とか、話したくない事をすぐ察知してくれる所とか。そんなランちゃんの心配りにマサも気づいたらしく、それ以上問いただす事はなかった。

そしてあの時の彼の言葉を思い出していた。

□□□□□□□□

「・・・・・・・・・・なんで眼鏡・・・・・・・・・お前、目悪くないだろ?」
不思議そうな顔で聞いてくる眞田良。
そうなのだ・・・・・・・・・別に目が悪くて眼鏡をかけているわけじゃない。でも、どうしてそれが分かったのだろう?
私が眉をしかめると、彼が何か感づいたらしく「眼鏡なしで、本を読んでいるところを見た」と言い訳のように付け足した。「見られてたんだ」とため息を一つ吐く。

「別に目が悪いからかけてるわけじゃない」
彼の問いに答えることなく無言のまま歩く。

本当の眼鏡の理由を彼に言ったら彼は昔の自分の行いを少しは悔いるだろうか?
そんな考えが頭をよぎる。
そうしたら、もう二度と私に近づく事はないだろうか?

私は心を決め、彼の前で足を止めた。
「・・・・・昔、いじめにあったせいで私は人間恐怖症になった・・・・・」
彼の目をまっすぐ見据え、睨み付けながら話を続けた。
「それからは、人との会話が出来なくなって・・・・・学校にも通えなくて・・・・・」
彼の顔が、だんだん曇ってくる。
「この眼鏡は、今でも人の目を見て話せない私の必要不可欠なもの」

あなたのせいよ・・・・・・・
だから・・・・・・・・・
「もうこれ以上、私に近づかないで・・・・・」

固まってる彼の強張った顔を無視して歩き出す。
彼は何も言わず私の後を歩いていた。


言わなかったのか・・・・・言えなかったのか・・・・・
私は彼に復讐できたような気がした。


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