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作品名:彼女のキモチ、彼のオモイ。 作者:てん、

最終回   ―眞田良SIDE― <Episode>

扉を開けると彼女がいた・・・・・・・
思わず周りを見渡す
ここは剣道場で、俺は稽古を終えたばかりで・・・・・・・・・何故、彼女がここで寝てるんだろう?

10月も半ばを過ぎ、昼間はまだ暑さも残っているものの夜ともなれば冷たい空気が辺りを覆っているというのに彼女はベスト姿という薄着で剣道場縁側の扉にもたれ掛かった姿勢のまま寝息をたてている。自分が開けたのが反対側の扉でよかったなどと半分は冷静なのだが半分はパニックでフリーズ状態だ。
うまく働かない脳をなんとか動かし考える

お、起こした方がいいよな・・・・・・・
こんなところで寝ていたら風邪をひくかもしれない
その前に何か暖かいものを羽織った方が・・・・・・・・

身の回りを探してみるが男所帯の道場にそんな気のきいたものなどなく
とりあえず、使ってないスポーツタオルを掛けてみる。
すっかり冷たくなった彼女の衣服が手に当たった。

「こんなに冷えて・・・・・・・・・」
「ん・・・・・・・・」

思わず出てしまった声に反応して彼女が動くが目を開ける事はなく、すやすやと寝入っている。
そっと彼女の頬に触れると驚くほど冷たく、よく見れば唇など紫色に変色している。

このままでは本当に風邪をひく
かるく彼女を揺すってみたものの、まったく起きる気配はない
幸せそうな寝顔を見て、このまま無理に起こすのも忍びないかと思い直し
彼女をどこか暖かい場所へ移動することにした

暖かい所といえば・・・・・・・・
道場内は冷えるし、床にそのまま寝かせるわけにはいかない・・・
暖房設備の整っている部室ならば長いすをベッド代わりに出来るかと
彼女を起こさないように抱き上げ、なるべく静かに移動する。
彼女の冷え切った体は少しでも温もりを求めるかのように俺に擦り寄ってくるが、俺はなんとか理性を保ちつつ部室の前まで来ると足を使って扉を開け長いすに彼女をねかし自分の服をあるだけ掛けた。急いで暖房を入れる。なかなか暖かい風はでて来ないが、
先ほどの外よりは幾分温かい部室にひとまず安心して扉をしめた。

その後、やりかけだった道場の後片付けを手早く済まし近くの自販機で暖かい飲み物を手に入れて急ぎ足で部室に戻ると、まだ彼女は寝たままで、胸を撫で下ろした。そっと近づいて様子を覗き見る。
唇の色も元に戻り、頬は桃色に染まっている。とりあえず、体は温まったようだ。

こうして落ち着いて考えてみると、気にかかるのは彼女の行動で
なぜ、あんな所で寝ていたのか・・・・・・
何か自分に用でもあったのだろうか・・・・・・・・

彼女が俺に用などあるはハズもないのだが・・どこか心の中で期待している自分がいる
俺に会いに来てくれたのではないか と・・・・・・・

にしても、あんな所で寝るなんて無防備にもほどがある
彼女を狙っている男たちは山ほどいるというのに
もう少し、自分の事を自覚してもらいたいものだ。
見つけたのが俺だったから良かった・・・・・・・・・・・いや、俺も一緒か・・・
むしろ彼女にとって一番危険な存在なのかもしれない・・・

フゥと大きめの息を吐くと彼女の寝る長いすの前に胡坐(あぐら)をかく状態で床にそのまま腰を下ろした。
彼女が起きるまで待つつもりだったのだが、暖かい室内にいつしか俺にも睡魔が襲ってきた。

■■■■■■■■

目を覚ました俺に飛び込んで来たのは満面な笑みの彼女。
「うわぁあ!」
驚いて後にひっくり返った俺を心配して彼女は顔を近づけてくる。
「だ、大丈夫?」
息もかかるほどの近さまで来た彼女にさらに驚いて、ものすごい勢いで後退る。
あからさまにうろたえる俺に苦笑いの彼女は長いすに座りなおした。

しばしの沈黙の後口を開いたのは彼女で、照れくさそうな顔で俺に礼をした。
「私いつのまにか寝てたみたいで・・・・・起きたら場所が違うからビックリした・・・・・・・ありがと」
「・・・・・・・別に・・・・いいけど」
ぶっきら棒な俺の返事に彼女も黙り込んでしまった。
必要以上に素っ気無く応えてしまうのは俺の照れ隠しのようなもので、
彼女を前にすると平常心をたもつことができないのだ。ああ、自分の不甲斐なさに腹が立つ。
それでも、何とか会話を続けようと、思いつく言葉を口にした。
「なんで・・・」
「え?」
「あ!・・・・いや・・・」
聞きたい事は沢山あるのだが、どうにも何から聞いていいのか頭がまわらない。
でも彼女には俺の言わんとすることが分かったようで、何も聞けない俺に自ら話し出した。

「・・・・・えっと、眞田を待ってたの」

俺?彼女の口から出たのは俺の名前?
彼女の口から俺の名前が出てくるなんてどれくらい久しぶりのことだろう・・・

「ここのところ寝不足で・・・・そしたら竹刀を振る眞田の声が聞こえて・・・・ホッとしたら眠たくなってきて・・・」

信じられない言葉が次々と出てくる・・・・
俺は夢をみているんじゃないかと疑うほど、とても現実とは思えない。

夢かもしれない・・・・・・・・・・・・・・
これは俺の都合のいい夢・・・・・・・・・
なぜなら、まるで彼女は俺に恋をしているかのように頬を染めて潤んだ瞳で俺を見つめている。

夢じゃないなら、彼女は何を考えてこんな・・・・・
自分にとって俺がどれほど危険かは身を持って知ってるはずなのに・・・・

そんな俺の不安や疑念を消してくれたのは
彼女からの告白・・・・・・・・


「眞田が好き」


頭が真っ白だ
もう何も考えられない・・・・・・・いや考えたくない・・・・・・・・
夢でも何でもいい・・・・・・・・・・・・・・・
ずっとこのまま彼女と共に時が止まればいい・・・・・・・

なのに彼女はフッと瞳を伏せる。
「ご・・ごめん・・・・眞田には、もうあの子がいるのにね・・・・」
彼女のその言葉が俺を現実の世界に引き戻した。
「あの子?」
「でも・・・・・・・聞いて欲しかったんだ・・・・初めてだったから・・・・こんな気持ちになれたの」
「ちょ・・・・え?・・・・」
なんだか話が見えない。
彼女は俺が好きだと言ってくれたのに、この展開はなんだ?

「沙耶さん・・・だっけ?・・・・付き合ってる人」
「沙耶?あぁ・・・・・・・・いや・・・・沙耶は別に・・・・・・・」

彼女から出てきた沙耶の名前に少し胸が痛む・・・・
結局傷つけてしまったもう一人の女の子

「いいよ・・・気を使わなくても・・・・・・私みたの・・・抱き合ってる所・・・・・・・・・・・もう知ってるから」
「!?」
見られていた?最後のあの場面を?
彼女があそこにいたなんて・・・・・・・・・・・・・・
彼女の瞳からは涙が零れている。

「いや!違う!」
「違う?」
立ち上がって否定する俺に不信の目を向ける彼女
「あ、いや・・・抱きしめたのは本当だけど・・・・・あれは違う!」
「違うって何が?」
ますます眉を寄せる
そりゃそうだ・・・・これじゃ、ただのナンパ男の言い訳だ。

俺は額に手をやり少し考えて言葉を選びながら彼女に伝える。
「沙耶には断った・・・・・・・・・・あれは妹とか友達とか慰める時にするものと同じ様な気持ちで・・・・」
「・・・・・・・・・」

「違うんだ・・・・・・・・・お前と沙耶は全然違う・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・違う?」
「お前への気持ちは・・・・・・・・・・俺は・・・・」
「私への気持ち?」
そこで言葉が詰まってしまった。

腰をかけてた長いすから立ち上がり彼女は俺に近づく。
俺に触ろうとする手を慌てて制した。
「だ、駄目だ!」
大きくなってしまった俺の声に思わず彼女の動きも止まる。
その隙に彼女から数歩離れる。
今、この状況で彼女に触れられて、何もしない保障は出来ない。

「俺に近寄るな・・・・・」
「なぜ・・・・・?」
悲しそうな顔で俺を見つめるその顔が俺の理性を狂わせそうになる。
「また・・・・・・・お前を傷つけてしまう・・・・・・・・・・・・・・・」
なんとか耐える俺に彼女は優しく微笑んで・・・・・・


「傷つかない・・・」

彼女がやさしく俺を抱きしめる。
「心が重なったから・・・・・あなたもわたしも傷つかない・・・」

おそるおそる彼女の背中に手を回す。
そして力いっぱい抱きしめた・・・・・・・・・

・・・・・心が重なる・・・・・・
まさしくそんな感じだった・・・・・・・・
彼女の背中はとても小さかったけれど、すごく暖かかくて・・・・・落ち着く・・・・
とても大きな安心感が俺を包み込んでくれる・・・・
抱きしめあうってこういう事だったんだ・・・・・・


でも・・・やっぱりキスしたくなってきた・・・・・


抱きしめた腕の隙間から彼女を見下ろし様子をうかがってみる。
それに気づいた彼女は首をかしげて返事をする。

「・・・・・・・・・・・キス・・・シテモイイ・・・デスカ・・・・・」
耳元で小さく囁いた俺に彼女は少し考え込むと、俺の体を開放して腕の中をさらりとすり抜ける。
頬を赤くしながらも膨れっ面で一言
「嫌」
何かに頭を叩かれた様な感覚が俺にくる。
やっぱ・・・まだ駄目が・・・・
うなだれている俺に彼女は続ける。
「私は好きって言った・・・・・眞田は?」
「・・・・・・・・・今・・・心が重なったとか言わなかったか?・・・・・」
「それとこれとは別」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
なんとも・・・・・・・・・求められて告白するってのは・・・・・・・・
こんなにも照れるものなのか・・・・・・・・・・?

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・す・・・・・」

なんとか言いかけたその瞬間・・・・
彼女の唇が俺のソレに触れた・・・・・・・

一瞬だったけれど、彼女からのキス・・・・・・・・・・・・・

硬直状態の俺に彼女は笑顔で手を振る
「じゃ、またあした!」
一人部室を出て帰ろうとする彼女を慌てて追いかける俺

「ちょ・・・ちょっと待て!送るから!こんな夜道一人で危ないだろ!!」
俺の心配をよそに「いらないよ!」なんて走ってく彼女を一生懸命追いかける俺。

なんかこの先もずっと俺は彼女を追いかけるハメになりそうな気がする・・・・

でも、決して見失わない・・・・・・・・

俺は彼女の腕を掴む。
はにかむ彼女を引き寄せて手を握った。
二人、手を繋いで歩き出す。

もう、この手を離さない・・・・・・・・・

この先もずっと一緒に歩いていこう・・・・

彼女の小さな白い手のぬくもりを感じながら俺は幸せを噛みしめた。

Fin


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