最近生徒達の間でもっぱらの噂は 『剣道部に全国3位の天才がいるらしい』と 『新学期になって可愛くなった娘がいるらしい』
その二人がいるクラスということで連日教室は野次馬共であふれかえっていた。 まぁ、かの有名な《姫》や我が学院のスプリンター《京極》も同じクラスだからという事もある。 だとしても、彼女の周りに群がっている男共は十中八九<彼女狙い>だろう。
彼女といえば俯いたまま頬を染めて男子生徒達の言葉に小さく首を振ったり頷いたり。
ついこの間まで人が苦手だったというのに・・・・ きっとツライだろうな・・・・
見かねて助け舟を出そうとした時、 ファンから開放された姫嶋が彼女の側に行き男達を一喝したようでブツブツ言いながらも男共はその場を立ち去っていった。
彼女には守ってくれる奴がちゃんといるんだな・・・・・・・ 一安心して、自分の席に着く。
「りょ〜う君!」 「っっっっっっっ!!??・・・・・・・・・・・・・・沙耶(さや)・・・・お前・・・また来たのか・・・・」 目の前にいきなり現れた少女に少々うんざりして答える。 「いいじゃない〜〜〜〜っ!おかげで《五月蝿い女の子達》が少なくなったでしょ?」
確かに・・・・・・・沙耶の言うとおりだった。 この沙耶という少女に押し切られ『友達で』という事になったあの日から コイツは証拠にもなく毎日・・・どころか、休み時間の度に俺の前に現れ始めた。 そのおかげ・・・・・というのか、最近めっきり呼び出されることが減ったのは事実で・・・ どうやら、沙耶と俺の仲を勘違いして諦めてくれているらしいのだが (沙耶談)・・・・・ 勘違いしているのは彼女→岡野良も同様らしく 俺としては助かるような困るような微妙な状況なのである。 だいたい、「名前は?」と聞けば「沙耶♪」としか答えず 仕方なく名前呼び捨てという状況になっているわけで・・・・ それさえも『二人は付き合っている』という噂に拍車をかけてしまっている。
もしかして この女とんだ食わせ者なんじゃ・・・・・・
俺の疑いの視線を受けて沙耶は「な〜〜に?」なんてのん気な顔で答えてくる。 溜息をついて「別に」と答えると彼女から目をそらした。
別に彼女に特別優しくしている訳ではない。 (かといって、冷たくあしらう事も出来ずにいるのは事実だが・・・・) もともと無口の俺の側で何をするでもなくニコニコ俺を見ているだけの時間・・・・・
こいつは何がそんなに楽しいんだろう? 変な奴・・・・・・・・・
「あ、あの娘(こ)ね?最近噂になってる女の子」 ふいに沙耶が彼女の方に目を向けて俺に問いかけた。 そっぽを向いたまま「あァ」と頷く。 教室に予鈴が鳴り響く。 「予鈴だ!じゃぁね〜!良君、またあとで!」
また来るつもりかと内心げんなりしながら片手をあげて沙耶を送り出す。 でも・・・・なぜか憎めないのが沙耶という少女で、 何だかんだ言いながら振り回されるのも悪くないと思う自分がいるのが不思議だ。 しかし、その感情は決して彼女→岡野良に対する気持ちと類似するものではない。 今後沙耶に対して恋愛感情を抱くことは決してないと言い切れる自分がいるのだ。 ならば俺がしている行動は沙耶を傷つけているだけではないのか・・・・・ 沙耶を見ていると俺の中の相対する感情が俺を悩ます。 『傷つけたくない』でも『受け入れられない』 そして・・・・・・・・・・・・それはきっと彼女が俺に抱いている感情・・・・・・・・・
・・・・・・・・・俺もまた沙耶と同じなのだから・・・・・・・
ちょうど同じ頃彼女の方にも厄介ごとが舞い込んで来ることとなる。
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それは、その日の放課後・・・・帰り支度をしていた彼女に一人の男生徒が声をかけた。 どうやら、男生徒に呼び出されたらしく彼女は頷くとそいつの後をついて教室をでた。 多分、<告白>ってやつだろう。 そして、あえなく奴は振られるはず・・・・・なのだが・・・・・・・・ 何故か彼女と男子生徒の後を数人の男達がついていく。 不信に思い俺もその後をつけていく。 この学院の生徒に限って何か間違いがあるとは考えにくいが、 やはり一人の女生徒に数人の男生徒という組み合わせは不自然だ。
男生徒が向かった先は体育施設裏・・・・・・・・ちょうど剣道場の裏にあたる場所だ。 俺としては手間が省けて(もしもの時の言い訳も出来て)いいのだが・・・・・ またなんでわざわざこんな所までというのが正直な感想で、遠目で見た彼女の表情も困惑を隠せないようだ。
彼女達の後ろに隠れている数人の男達・・・・・・・・怪しすぎる
と言ってるそばから隠れていた奴らが彼女を取り囲みだした。 頭で考えるより先に彼女の方へ足が向かっていた。 男生徒が彼女の肩に手をかけようとした その時
俺は彼女の手をとり自分の背に守るように隠した ・・・・・のだが・・・・・
『ファンクラブを作らせてください!!』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・???」 真っ白になった俺の後ろで彼女は不思議そうな顔で俺を見上げた。 「??何で・・・・・いるの?」 「・・・・・・・・・・え?・・・・・・・・あ、あぁ!いや、・・・・・・・・・・えーっと・・・・・」 返答に困る俺を無視して男達は俺の後ろにいる彼女に近づく。 「お願いします!握手させて下さい!ファンクラブ会員no.1金田(かねだ)です!」 「はぁ・・・・・・・・」 彼女も混乱しているのだろう・・・・・・ 金田と名乗る男の手を見て握るか握るまいか悩んでいるようだ。 そんな彼女の心情は無視して金田は強引に彼女の手を取ろうとする。 俺はすかさず金田の手を掃った。 睨みつけている俺に気づき金田は慌てて手を引っ込めた。 「・・・・・・・・・・・・・あ・・・・・・・・・握手はまた今度お願いします・・・・・・・・ヘヘ・・・・・では また・・・・・・改めて・・・・・ヘヘヘ」 金田は引きつり笑いを浮かべながら数人の男生徒と共にその場を去っていった。 「・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 気まずい沈黙が二人を包む。 「・・・・・・・・・・・・・じゃ、俺行くから・・・・・・・・・」 「う・・・・うん・・・・・・・」 体育施設の角に差し掛かった所で彼女が俺を呼び止めた。 「あ、あの・・・・・・・ありがと・・・・・・・・」 その言葉で不覚にも真っ赤になってしまった俺は彼女の方を振り向くことなく「別に」とそっけない返事しただけでその場を離れてしまった。
それにしても・・・・ファンクラブときたか・・・・姫嶋にもあったな・・・たしか京極にも・・・・・ 金持ちの考えることはよく分からんな・・・
これで済んだと思っていたこの一件 この時の俺の行動が思わぬ事態を招く事となる。
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翌日、 朝のHRが終わったとたん沙耶が破竹の勢いで教室に飛び込んで来た。 「良君!あの子と付き合ってるってホント!!」 沙耶の指の先にいるのは彼女→岡野良・・・・ 「え?わ・・・わたし?」 沙耶の言葉に教室内がざわめき出す。 彼女はこの事態がまだ飲み込めてないようだ。
「・・・・・・・・・ハァ・・・沙耶・・、たのむから・・・・時と場所を考えてものを言ってくれ・・・・・・・」 「だって、どっこもその話で持ちきりだよ!!金田が言いふらしてたもん!眞田良が岡野良に言い寄ってるって!」 その沙耶の一言で彼女は耳まで真っ赤に染めた。 金田?・・・・ああ、昨日のアイツか・・・・・くだらねぇ 「それが、どうして付き合うまでエスカレートするんだよ・・・」 あながち嘘ではないので俺も否定する事無く話を続けてしまった・・・・・・・・・・それがまずかった。
「じゃあ、本当の事なんだね・・・・・・良君の言ってた好きな人・・・・・岡野さんの事だったんだ・・・・・・・」 「ばっ馬鹿!沙耶!」 慌てて沙耶の口を塞ごうとしたが時すでに遅く、「えーーーっっ」という雄たけびが教室のあちこちから聞こえてくる。 「あ!」 沙耶も自分の失言に気づいたらしく、ばつの悪い顔をして両手を合わせて俺に謝る。 「でも・・・・良君・・・・・・・・・想いが届いたんだ・・・・・・・・」 しょんぼりしている沙耶にすかさず言葉を返す。 「だから・・・・どうしてそうなるんだよ・・・・・・・・・」 「ぇっ?え?じゃあ付き合ってないの?なんで?」 今度は沙耶の視線が彼女の方へ向く。
「岡野さんは良君の事、好きじゃないの?」
「お、おい沙耶!!」 教室内の視線をいっせいにに浴びた彼女の赤かった顔がとたんに白くなった。 俺は慌てて彼女の側に駆け寄る。
「こいつは関係ない!俺が勝手に告って振られただけだ!」
彼女は驚いた顔で何かを言おうといていたが俺がそれを制した。 下唇をかんで悔しそうにしている彼女。 きっと勝手なことを言った俺に対して多少なりとも腹を立てているのだろう。 だが、この場合こうするのが一番早く治まる方法だったろう。 俺と付き合ってるなんて噂を流されるより遥にましだ。 俺は彼女だけに聞こえるぐらいの小声で「ごめん」と謝るとその場を去った。 沙耶も俺を追いかけて教室を出る。 「良君!ねぇ、りょ〜う君!まってってばぁ!ねぇったら!」 悪びれた様子のない沙耶をかるく睨み大きく溜息を吐く。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ、怒ってるの?」 「あたりまえだ!大勢の前であんな事を言うやつがあるか!おまけに彼女にまでっ・・・・・・・と」 自分の失言に気づき慌てて口を押さえる。 「いいよ・・・・別に・・・・・・・良君を振るなんて・・・・・あの子馬鹿ね・・・あんな子より私の方が・・・・っ」 「俺の前であいつの悪口を言うな」 「・・・・・・・・っ・・・・なによ!振られたんでしょ?まだ好きだっていうの?」 今まで見せた事のない険しい顔で俺を攻める沙耶。
その姿とあの時の俺がだぶり胸が痛む・・・・・・。 沙耶の気持ちが切ないほどよく分かるだけに・・・・沙耶を見るのが辛い・・・・・。 なぜ、沙耶じゃ駄目なのだろう。 沙耶に答えてあげられれば全てが丸く治まるだろうに・・・・。 それでも俺の心を激しく揺さぶるのも・・・・優しく満たしてくれるのも・・・・・ 彼女なんだ。 彼女しかいない。
「沙耶・・・・俺は・・・・・お前の気持ちに応えてやることは出来ない・・・・・」 いつになく真剣な俺の眼差しに沙耶は耐えていた涙をぼろぼろと流しだした。 「すまない・・・・沙耶・・・」 「あ・・・っぅく・・・・・あやまらないでよ・・・・ひぃく」 箍(たが)が外れたように、しゃくりあげながら泣く沙耶の肩をそっと抱きしめる。 それは恋人としてではないけれど、妹のような同志のような・・・・彼女とはまた違う気持ちで沙耶を包んだ。 「ごめん」 「・・ぅっく・・・あやまるなぁ・・・・ばかぁ・・・」
この時 この場面を彼女に見られていたことに俺は気づくことが出来なかった。 彼女は一人傷ついて、泣いていた。
俺は馬鹿だ! どうしようもない大馬鹿野郎だ!!
誰も傷つけたくないのに・・・・・ 一番守りたいヤツでさえ守れない最低野郎だ!!!
思いもしなかったんだ・・・・君が俺を許してくれてたなんて・・・・・ 嫌われて当然の事をした俺を受け入れてくれるなんて・・・・・・・・・・・・ この時の俺には想像すら出来なかったんだ・・・・・・・・
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