ああ、神様。こんな事ってあるのでしょうか・・・ 新学期早々あんまりです。 私は憎らしい青空に睨みをきかした。
そう、始まりは小学生の頃 転勤族だった親の都合で転校を繰り返していた私は、その日2回目の転校初日だった。 どちらかというと内向的だった私にとって転校初日は期待よりも不安の方が大きかったといえる。 それは無罪か有罪か瀬戸際に立たされている被告人のような、そんな瞬間なのだ。 そして私に下された判決は・・・・・・・・・・・・・・・・・有罪。 そこには悪魔が住んでいた。
その学校でイジメられ続けた私は軽い人間恐怖症となり、 親元<転勤族だから>を離れ祖父母の元で育てられる事となった。
その後、祖父母の勧めもあり、小等部から大学院まであるエスカレーター式の学校に編入し、 (もともと品の良い)資産家の御曹司や御令嬢が多く通う学校だったので、イジメなどもなく私は無事学校生活を送れていた。 そう、今日までは・・・・
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「よしの〜!!」 門の前で呼び止められ振り向いたその先には 小等部からの親友『マサ』こと京極真砂(きょうごく まさご)と『ランちゃん』こと姫嶋蘭子(ひめじま らんこ)。 そして私が『よしの』こと岡野良(おかの よし)。 「マサにランちゃん。おはよう」 「クラス発表は、もうみまして?」 典型的なお嬢様のランちゃんは品よく私に問いかける。 「ううん。まだだよ」 「まぁ、そう変化もなく同じツラばっかだろう?」 この男勝りな口調で答えるのがマサ。 「ですわよねぇ・・・」 ウンザリ的なニュアンスで二人は顔を見合し頷く。 でも、私は・・・・ 「私は、今のままがいいかも・・・」 二人に聞こえないよう小さく呟いた。
「おはよう!姫。」 『姫』というのはランちゃんの事。教室に入ったとたん男子生徒達がランちゃんに声をかける。 にっこり微笑んで挨拶をかえすランちゃん。 「みなさん、おはようございます」 この微笑でランちゃんは聖(セント)カトレア学院のマドンナの座を手に入れている。(みんなから『姫』と呼ばれても名前負けしていないのだからすごい)
「真砂さま〜!おはようございます〜!」 そして、それと対照するかのように女生徒の人気を集めているのが<陸上界のホープ>身長173a超美形のマサなのである。 「ぅはよ〜、朝から元気だな〜お前ら・・・・・」 鬱陶しそうに女生徒達からにげてはいるが、意外に面倒見がいい所も人気の秘密だろう。
男女共に生徒に囲まれている二人。中等部の頃と変わらない光景だ。 私はファンに囲まれている二人を尻目になるべく目立たない窓際の一番後ろの席を確保した。 見知ったクラスメイト達が声を掛けてくれるが、軽く交わし取り出した本を読み始める。これも、いつもの光景。
いつも大きめの眼鏡で顔を隠し、人と会話する時は俯きかげん、授業中以外は本ばかり読んでいる自我共に認める根暗少女・・・・それが私だ。 そんな私が何故人気者の二人と親友なのかは自分でも謎である。
あの時以来、ピーク時ほどではないものの人との関わりを極端に避ける私は ランちゃんとマサ以外に心を開くことは、ほとんど無く ましてや初対面の人と会話など出来る筈もなくて、 高等部進学となる今日この日を内心、気が気じゃ無い思いで迎えていたのだが ふたを開けてみれば、クラスメイトはいつも通り同じ(小等部からの)メンバーが揃い、胸を撫で下ろした。 とは言っても、中等部の時と違い高等部は外部からの入学生も少なからずいる為、多少新しい顔が増えるのだけど・・・
ふと、窓の外に目をやると鮮やかに色づいたピンク色・・・・・・・ 戸を開けると桜の花びらが教室内に舞い込んできた。 「わぁ・・・」 それは見事な花吹雪。下の並木通りから風によって舞い上がってきたのだ。 「はぁ・・・春だなぁ」 そんな事を一人呟きながらぼぉっと外を眺めていた。その直後に起こる最悪の再会など思いもせず・・・
「ふぇっくしょぃ!!!」 その威勢のいいクシャミで我に返り振り向く。そこには鼻を真っ赤にした男子生徒がティッシュを手に私の方を見ている。 「悪いけど・・・・、そこ窓閉めてくれる?」 「え?・・・あ、ああ。ゴメンなさい!!」 その男子生徒に促(うなが)されて急いで戸を閉める。 少し強面のその男子生徒はそれを確認すると『ズズッ』と鼻をすすりそのままソッポを向き、私の前の席に座る。 足を机の上にドンッとのせ、教卓の方に睨みを利かせている。 その様は明らかに外部からの入学生という感じで品の良い生徒が多いこの学院ではかなり目立っていた。 「まぁ、野蛮ですわねぇ」 私のそばでランちゃんが呟く。 いつの間にか生徒に解放されていた二人は私の席の隣とその前に腰を下ろした。(ちなみにすでに座っていた生徒が席を譲ってくれた) 「まぁ、この学院では珍しいタイプだな」 マサは何やら嬉しそうである。マサ好みのタイプかもしれない。顔も(マサには負けるが)いい方だし、なにより体格がいい。 私は・・・・・なるべく関わりたくない人種だ。 このタイプは昔っから苦手なのだ。忘れもしないあの小学校時代の日々も、根本悪はアイツだった。 そういえば、この人・・・少しアイツに似てる・・ 「最悪・・・・・」 小さく呟いた。
と、教室の扉が静かに開き見慣れた小柄の女性が入ってきた。 「は〜い、みんなぁ〜静かにぃ〜〜」 語尾に特徴がある鼻声で生徒達を席に着かせると、黒板に『カッカッ』と音をたてて、名前を記入していく。 「広見響子(ひろみ きょうこ)です。え〜とこの度、中等部からの移動で今年から高等部の教員となりましたぁ〜」 ヒロミ先生は教室内を見渡し生徒達の顔を確認していく。 「このクラスは中等部からの持ち上がり生徒が多いから知った顔も多いですが初めての人はよろしくねぇ〜」 そう、ヒロミ先生に担当してもらうのは実はこれが4年目。 この愛嬌のある笑顔と親しみやすい性格で生徒の人気1の先生なのだ。 この学院では同じ先生に何年も担当してもらうということは珍しい事ではない。 学院に通うのは特別な(将来の)紳士淑女達ということで、生徒とはいっても大事な収入源。 生徒とその保護者に気に入られれば生徒が卒業するまで担当する先生も少なくないのである。
「ん〜、じゃあ入学式の前に軽く自己紹介してもらおうかなぁ〜」 ヒロミ先生のこの一言で自己紹介が始まる。廊下側から順番に始まったので私は最後だ。 やはり大体は知った顔で特に変わった事もなく順調に紹介は進んでいき、マサまできた自己紹介に耳を傾ける。 「京極真砂、小等部からの在学生だ」 すぐ後ろに座ったランちゃんがそれに続く。 「同じく、小等部からの在学生の姫島蘭子でございます」 男女共に吐息が漏れる。 そして何人かの生徒の後、私の前の席にいる例の男子生徒の番になった。みんなの注目の中、彼は立ち上がる。 「眞田良(さなだ りょう)、神奈川県出身・・・宜しく」 神奈川県?・・・・・サナダリョウ・・・・?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まさか・・・・・・・・・・・・まさかね
最後、私の番が来た。嫌な予感を振りきり席を立つ。 「岡野良・・・・・・・・小等部からの在学生です」 「オカノヨシ・・・・?」 眞田良は驚いた様子で後ろを振り向き私の顔を見上げる。 「あら?眞田君と岡野さんはお知り合い?」 ヒロミ先生の不思議そうな問いかけに答えることが出来ないまま、私は硬い表情で彼と顔を見合わせていた。 「おい、あんた・・・あの岡野良か?」
私にあの日の記憶が蘇る。
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「お前、良(りょう)って言うのか?」 それはあの日・・・・転校初日の出来事だった。 紹介されたばかりで少し緊張気味だった私に最初に話しかけてきたのが『眞田良』。 「ううん。ヨシって読むの」 「へんな名前・・・お前、俺と同じ名前の漢字なんてナマイキ・・・・」 精一杯の笑顔で答えた私に無表情のまま去って行った眞田良に、少なからず小さな恐怖を覚えた。 でも本当の恐怖はその後から始まったのだ。 当時、そのクラスの主導権を握っていた眞田良のセリフは私のその後の生活に大きく支障をきたした。 「くんなっぶす!!ぶーす、ぶーーす!!!!」 毎日続く罵倒。 「やっだぁ〜、あんたがこんなの持ってるなんてナマイキ〜」 理不尽な扱い。 「あんたなんか死んじゃえ」 暴力。 一人が三人と増え、そしてクラス全員が私の敵となった。 あの地獄のような日々を忘れる事は出来ない。
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その元凶がここにいる。 まちがいないアイツだ。 何故すぐ分からなかったのか、あの頃の面影がしっかり残っている。 私の中にとてつもない大きな憎悪と、同時に言いようもない不安が押し寄せてくる。 「ひ、人違いです!!」 彼から顔を背け目が合わないようにした。 とにかく、関わらないようにしよう。 何を言われても知らない振りをしよう。 そう心に決めた。
入学式も無事終了し級友達は、これから始まる新生活を期待に胸膨らませながら教室を出て行く。 が、私は違った。はっきり言って最悪だ。お先真っ暗だ。 なぜ、よりにもよって眞田良がこの学校に来るのか。 しかも、同じクラス。
「はぁ〜〜〜〜」 空を見上げながら大きなため息を吐く。 「でかいため息だな・・・」 この声は・・・・・・まさか・・・・ 「あのさ、お前・・・・・」 恐る恐る振り向いた視線の先には・・・・・・・・・・・・・・・眞田良。 私はなるべく平常を装いながら返事をした。 「何?」 「い、いや・・・・・・お前さ・・・」 「よしの?」 彼が何かを切り出そうとした時ランちゃんが声を掛けてきた。 「ランちゃん!」 「どうかなさいまして?」 ランちゃんは眞田良をチラッとみる。 「いや、別に・・・・」 彼はそっけなく答えるとその場を離れていった。
ランちゃんは眞田良が教室から出るのを確認すると私の顔をジッと見つめて問いかけた。 「ランちゃ〜ん!!ありがとう〜〜!!!」 「怖かった〜」と抱きつく私の頭を<よしよし>しながら不思議そうな顔で答えるランちゃん。 「よしの、あの方とお知り合い?」 「え?」 思わず聞き返す私に眉を寄せて再度繰り返す。 「お知り合い?」 「あの、ひ、人違いだと思う!」 「・・・・・・・・」 ランちゃんは私の顔を疑り深く見つめている。 妙に勘がいいランちゃんの事。ここでうまく誤魔化さないと・・・・・辺りを見渡しマサがいない事に気づくと「マサは?」と話題を変えた。 「マサ?今日も、走っていますわよ。」 グラウンドの方に目をやると、走っているであろうマサの姿を探した。 「まだ、一年は部活始まってないのに?」 「マサは特別ですわ。わが学院のスプリンターですもの」 「あ、いた。マサだ」 マサを見つけると指をさしてランちゃんに教える。 「あら本当。・・・マサは何処にいても目立ちますわね」 ランちゃんもね・・・・ 自分の隣にいる美しい少女を背に何とか誤魔化せた事に胸を撫で下ろした私は青空に向かって『お天道様のばか』なんて呟きながら どうか平穏な学院生活を送れますようにと心の中で願っていた。
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