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作品名:フェイク・スノー 作者:真黒

第4回   最近の若者はすぐ開き直る
「コースケ君、起きて! お父さんが呼んでるの」
 女の子に起こされるというのはいいものだ。
 だけど、俺が女の子に起こされるわけがない。まだ夢の中だな、うん。
「ちょっと、起きなよ! 遭難者がもう一人見つかったらしいのよ!」
 ん、遭難者か……。それは俺のことだろ。まだ寝かせてくれよっ……てっ!?
「え、見つかったって!?」
 布団をはね飛ばすくらいの勢いで起きあがった。
「そ。目は覚めた?案外ねぼすけさんだねー、君って」
 僕の狼狽ぶりに、ユウちゃんがクスクス笑っている。
「ご、ごめん……。あれ、昨日と大分服が違うね?」
 あの適当極まりない衣服と違い、今日は絹のようなつるつるした素材のローブを羽織って、中には不思議な刺繍の入ったワンピースを着ている。ローブにふんわりかかった彼女の髪が朝日に照らされるのを見て、僕は今更ながらそれが輝くような綺麗な茶髪であることに気付いた。
 なんというか、溜め息が出るほど綺麗だ。全然不思議少女と言う感じはしない。さすが巫女さんをやっているだけある。立ち姿にも風格がある。
 僕の遠慮ない視線を気にせず、彼女は言った。
「ああ、昨日のは部屋着よ。今日はこれからコースケ君を連れて議事堂に行かなきゃいけないから、巫女の正装着ていくの」
「へぇ……。あ、そう言えば、見つかったんだって?」
「うん。なんかね、フィー国軍の人らしいよ。今お父さん達が話を聞いてる」
 ささやかな希望は一瞬でうち砕かれた。僕の友人には軍人もいなければ、異世界人もいない。
「そっか……。でも軍人なら僕の友人じゃないね。あいつも大学生だから」
 気付くと、責任を感じてしまっているのだろうか、僕より彼女の方がしょんぼりしている。あわてて付け加えた。
「い、いや、でももしかしたら何かあいつの手がかりを持ってるかもしれないし、とにかく連れてってくれる?」
 そうだね、と言う感じで彼女がうなずいた。
「あ、コースケ君の服もね、そこに出して置いたから、着替えてくれない? 今みたいな変わった服だとみんなびっくりするからさ」
 まあ、僕はジーンズにネルシャツという貧乏学生には一般的な服だったが、とりあえず彼女の言うことに従うことにした。
「私向こうにいってるから、着替えたら呼んでね」そう言ってくるりとローブの裾をたなびかせて、居間の方へと彼女は行ってしまった。
 ベッドから出ると、大きく欠伸と伸びをした。手足の先まで血が行き渡るのを感じる。
 窓から外を見る限り、吹雪は止んだようだ。これなら山を降りられるのも時間の問題だろう。まあ、降りたところに住んでた街がある確率は割と低い気がするが……。
 いや、色々考えたいことはあるが、とりあえず女の子を待たせるのは得策じゃないな。さっさと着替えよう。
 とりあえず、彼女の置いていった服を広げてみる。
 片方は暖かそうなローブだが、こっちは……。
「道着とハカマじゃんか」思わず呟いた。
 袴ならではのスカートみたいな折り目はないものの、股下で分かれた構造や、腰板といい、やっぱりほとんど刺繍の入った白いハカマにしか見えない。上も、合わせの部分が少し違っているが、見た目は白い道着だ。
 文化圏は日本と近いのか?着付けはそのまんまでいいのかな?などと頭の中は疑問だらけだったが、とりあえずさっさと着てみた。一応、小、中、高と剣道をやっていたので馴れたものだ。ハカマ?を履くのは4年ぶりだったがとりあえずなんとか格好にはなった、と思う。
 寝癖が気になったので、考えたあげく、窓の外から少し雪をとって、手のひらで溶かして、髪を後に撫でつけた。まあ、なにもしないよりましだろう。
「一応着たけど変じゃない?」
 ドアを開けて居間をのぞくと、暖をとっていたユウちゃんが振り返った。
「うん、早かったね……あっ?」
 彼女が突然下を向いてしまったので、僕は立ち止まった。
「え? どうかした? やっぱどこか変?」
 やっぱ適当はまずかったかな。
 けど、ユウちゃんはふるふる、とうつむいて首を横に振っている。
「え?遠慮しないで言ってくれていいよ。すぐ直してくるから」
「……いや、そうじゃなくて」
「?」
 思い切ったように顔をあげて彼女が言った。

「すごく……似合ってるじゃん、コースケ君。うん、馬子にも衣装だねっ」

 初対面の人間に使うことわざじゃないだろう。っていうか、ことわざあるのか。まあ、あるよな、日本語通じてるわけだし。
「うん?あ、ありがと」
 訳の分からない彼女の態度に混乱したが、とりあえず当たり障りの無いよう礼をいった。
「さ、準備も出来たし、行きましょうか!」

 外の光景に、いろんな意味で、僕は絶句した。
 いい意味から検討するなら、こんな綺麗な景色を、僕はいままでテレビですら見たことがなかった。空には一点の曇りもなく、家の周囲に広がる雪原はきらきらと輝き、向こうの崖の下には、一面の針葉樹林が広がっている。
 悪い意味では、明らかにここは僕の知っている日本とは違うということだった。まあ、この辺の事情はもうすでに少し諦めかけていたところだったが。
 
 僕たちは、とりあえず彼女に促されるままに、深い雪をかき分けて、議事堂へと向かった。
  


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