「そろそろ雪も弱まってきたな」 どこがだ。この大吹雪のどこを指してそう言うのか。 それが僕の素直な感想だったが、二人して雪山遭難している今、下手に反発して喧嘩になるのは得策ではない。 「そうだな、冷え切る前にとっとと動くか」 「だな」 もうとっくに冷え切って感覚のない身体をどうにか持ち上げ、荷物を背負う。 「さ、行きますか。もう少し歩けばこの森も抜けるだろ。見晴らしさえよくなりゃ帰れるって」 そうやって元気づけてくれる友人がありがたい。 「ん?どうしたコースケ?」答えない僕に友人が笑顔を向ける。 「……あ、いや大丈夫。急に立ち上がったから立ちくらみが」 「ジジイか、お前はぁ」 よくもまあこんな状況下で冗談が飛ばせるものか、と感心する。 僕もがんばって凍り付いた顔で笑いかける。 「もう22だからな。年取ったもんだよ」 「同じく。さぁ、気力が残ってるうちに行こうぜ」 「おう」 僕たちは不安を押し隠し、笑い合いながらまた岩陰の外へと出た。
とんだ卒業旅行である。 「金も時間もないし、山でも登りますか」 「ですな」 と軽いノリで登山決行。最初は山岳部のヤツと3人で行くはずだったのだが、直前になって俺達を裏切り、「やっぱ旅行は女とでしょ!」と別のグループへ合流。 持つべきものは友達かな。 こうして素人二人組雪山特攻部隊が結成されてしまったのである。 二人ともこうと決めたら曲げない性格なのが災いして、 「やっぱ雪ひどいし引き返さない?」「ヤバイって寒いって」「おうちに帰りたいよう」「故郷でおっかさんが待ってる」なんて弱気発言がでることはなく、 「やっぱここは頂上までいくでしょ」「っていうか行かなきゃ男じゃないでしょ」「押忍」という勢いだけで、来てしまったのである。 そして二人とも疲労困憊して、さっきの岩陰で、ようやく休戦協定を結ぶに至った、というのが現在の状況。
そして雪の上に俺がぶっ倒れたのがその2時間後である。 完全に足が痺れて立てない。 疲労というか、冷え切ったというか、もうとりあえず立てる気がしない。 とりあえず今大問題なのは、前をいく友人が全く僕に気付いていないことである。 「……ぁ、ぉぃ」声が出ない。微かな声は、完全に吹雪でかき消されてしまう。 どんどん距離が離れていく。このままでは本当に置き去りにされてしまう。 置き去り→寝るな、寝たら死ぬぞ→天国のお祖母ちゃんと再会っていう伝統のパターンは避けたい。 だが、どうにもならない。すでに吹雪に紛れて友人は見えない。 限界かな、とつぶやいていた。 あぁ、僕の人生! 彼女いない歴22年、小さい頃から親に言われるがまま剣道はやってきたけれど、それ以外になんの取り柄もない、お金も無い三流大学生。 趣味はゲーム、読書。日本酒大好き。熱燗飲みたい。寒い。 もっと将来の夢とか色々無かったっけ? 忘れたなあ。疲れたなあ。 雪ってもっと冷たいかと思ってた。暖かい。ぬくぬくの布団みたいだ。 もう寝ようかな、そろそろ深夜だし。明日も朝早いし。 っていうか明日は休みか。することも無いなあ。やっぱ寝るかな。 雪が完全に僕を覆い隠す頃、僕の意識は闇の中に沈んでいった。
|
|