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作品名:フェイク・スノー 作者:真黒

第1回   雪の中へ
「そろそろ雪も弱まってきたな」
 どこがだ。この大吹雪のどこを指してそう言うのか。
 それが僕の素直な感想だったが、二人して雪山遭難している今、下手に反発して喧嘩になるのは得策ではない。
「そうだな、冷え切る前にとっとと動くか」
「だな」
 もうとっくに冷え切って感覚のない身体をどうにか持ち上げ、荷物を背負う。
「さ、行きますか。もう少し歩けばこの森も抜けるだろ。見晴らしさえよくなりゃ帰れるって」
 そうやって元気づけてくれる友人がありがたい。
「ん?どうしたコースケ?」答えない僕に友人が笑顔を向ける。
「……あ、いや大丈夫。急に立ち上がったから立ちくらみが」
「ジジイか、お前はぁ」
 よくもまあこんな状況下で冗談が飛ばせるものか、と感心する。
 僕もがんばって凍り付いた顔で笑いかける。
「もう22だからな。年取ったもんだよ」
「同じく。さぁ、気力が残ってるうちに行こうぜ」
「おう」
 僕たちは不安を押し隠し、笑い合いながらまた岩陰の外へと出た。

 とんだ卒業旅行である。
「金も時間もないし、山でも登りますか」
「ですな」
 と軽いノリで登山決行。最初は山岳部のヤツと3人で行くはずだったのだが、直前になって俺達を裏切り、「やっぱ旅行は女とでしょ!」と別のグループへ合流。
 持つべきものは友達かな。
 こうして素人二人組雪山特攻部隊が結成されてしまったのである。
 二人ともこうと決めたら曲げない性格なのが災いして、
「やっぱ雪ひどいし引き返さない?」「ヤバイって寒いって」「おうちに帰りたいよう」「故郷でおっかさんが待ってる」なんて弱気発言がでることはなく、
「やっぱここは頂上までいくでしょ」「っていうか行かなきゃ男じゃないでしょ」「押忍」という勢いだけで、来てしまったのである。
 そして二人とも疲労困憊して、さっきの岩陰で、ようやく休戦協定を結ぶに至った、というのが現在の状況。

 そして雪の上に俺がぶっ倒れたのがその2時間後である。
 完全に足が痺れて立てない。
 疲労というか、冷え切ったというか、もうとりあえず立てる気がしない。
 とりあえず今大問題なのは、前をいく友人が全く僕に気付いていないことである。
「……ぁ、ぉぃ」声が出ない。微かな声は、完全に吹雪でかき消されてしまう。
 どんどん距離が離れていく。このままでは本当に置き去りにされてしまう。
 置き去り→寝るな、寝たら死ぬぞ→天国のお祖母ちゃんと再会っていう伝統のパターンは避けたい。
 だが、どうにもならない。すでに吹雪に紛れて友人は見えない。
 限界かな、とつぶやいていた。
 あぁ、僕の人生! 彼女いない歴22年、小さい頃から親に言われるがまま剣道はやってきたけれど、それ以外になんの取り柄もない、お金も無い三流大学生。
 趣味はゲーム、読書。日本酒大好き。熱燗飲みたい。寒い。
 もっと将来の夢とか色々無かったっけ? 忘れたなあ。疲れたなあ。
 雪ってもっと冷たいかと思ってた。暖かい。ぬくぬくの布団みたいだ。
 もう寝ようかな、そろそろ深夜だし。明日も朝早いし。
 っていうか明日は休みか。することも無いなあ。やっぱ寝るかな。
 
 雪が完全に僕を覆い隠す頃、僕の意識は闇の中に沈んでいった。


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