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作品名:腐根(Hukon) 作者:田島

最終回   野良犬
私の生涯が音を立てて崩れ去る時(いや、初めから私の人生など存在しなかったのかも知れません。) 人生の負け犬。シッポを丸めて「キャンキャン」と鳴いて逃げ回っている犬なのです。親も無く、兄弟もおらず、人様に情けを掛けて頂けるような人間ではありません。
 
 私にはこの歳になっても、未だ自立した生活というものが見当付かないのです。勿論のように部屋の中は荒れ果てており他人様をゲストに迎えることさえ無理なのです。
野良犬しかも雑種の汚い犬なのです。
こんな人間が生きている事は決して許されざる筈のない社会の邪魔者なのです。
「誰からも愛されない」このつらさを貴方は理解不能でしょ?地獄のどん底で這いずり回るかのような日々、他人様にはそっぽを向かれ、助けてくれる人は誰一人として居なく、逆にこの乞食のような私を良いエサとして騙そうとする人間さえ居るのです。

食事も出来ず、いま入院してこの文章を書いています。風呂に入って、服を洗濯して、決まった時間には食事が出来る。しかしこれは院長先生の情けですが、本当はこんな乞食同様の人間はさっさと死んだ方が身のため社会のためなのです。

正直に自白します。私は社会生活が嫌いなのです。人と関わることが嫌なのです。でも、一人孤独な日々は背中におもりを背負っているようで、雨の中を長時間自転車で徘徊してずぶ濡れになり体が芯から冷え切っているような毎日にはもう懲り懲りなのです。

「死」を真っ正面に感じています。こんなボロ雑巾のような男に情けを掛けてくれる
加納クリニックの加納先生・食べ物を差し入れしてくれる自転車屋さんの下條さん、人の深い情けの裏側にはべっとりとしコールタールのようなベットリとした裏勘定があるのは承知の上。しかしそんな情けにでも、縋り付いて、生きている自分は乞食です。これは曲げられない事実なのです
明日も容赦なく太陽は頭上に降りてきます。自分の苦悩もどてっぱらに突き刺さってきます。
決して私は狂人ではありません。「死」を決意したのも大真面目です。

皆人生は苦しみや辛いことがあると、口を揃えて言います。しかし私の歩んできた人生を体験したとしたら、きっと「死」が終着点となるでしょう。これは断言できます。

明日の朝死んでいても構いません。むしろ死んでいる方が楽です。
しかしこの世にそんな上手い話はありません。
次の日も、そして次の日も、容赦なく日は昇ってくるのです。
点滴の台座で首を吊った。ベルトが呆気なく切れて、未遂失敗。
ナースコールのひもを使って再度試みたがナースに発見されて失敗。
死ねない。死ぬことも出来ない。阿呆、馬鹿
もしも神様が居るとしたならば、まだ死んではいけないというメッセージなのだろうか?いや、神様が居るとしたら死なせて欲しい。
どうやら、雑種の野良犬には自ら命を絶つこともできず、このまま生き地獄を与えられました。


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