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作品名:デジャブー 作者:TheGuyBeginsToDo

最終回   最終章 新たな歴史
あの事件のことはすっかり誰もが忘れていた。朝、いつものように登校し教室に入ったらとユリが近づいてきた。
「おっは!佐智子」
「おはよう。なんか嬉しそうね」
「今日転校生がくるんだって」
「へぇー。男の子?」
「さあ、わかんない」
「あんたがやけに喜んでるから男子かと思ったよ」
「失礼ね!男子でも女子でもワクワクしない?」
「まあね」
ユリとのお気楽な朝の風景もいつもどおり。今日も平和な一日になりそうだ。ただ、転校生がいやな子だったらどうしよう・・・そんなことを考えてたら、始業のチャイムがなり、大森先生が教室に入ってきた。
「おはようございます。みなさん、委員長の山田さんにだけは、おととい話しておいたんだけど、今日このクラスに転校生が編入します」
「知ってまーす」わたしの隣の席の一橋はじめが言った。
「委員長、もうみんなに話したの?」
「すみません、つい話したくなっちゃって」
「先生、委員長のあだ名しらないの?」一橋の隣の五藤タマオが言った。
「えー?なんだっけ?」先生もおどけて聞いた。
「山田ラッパ!」男子数人が口を合わせて言ったら、クラスのみんなが笑った。「失礼ね!」ヤジった男子をにらみながら委員長がふくれ面をした。
笑い声やおしゃべりを少しだけ黙って聞いていた大森先生。
「はい!みんな静かに!」そのざわつきも、いつもの金切り声で一気に消えた。
「ということで転校生を紹介します」
「入りなさい」入り口の扉を開け、廊下にいる人影に声をかけた。

やや背の高い女子が教室に入ってきた。
顔を見た瞬間、体が硬直した。香織・・・!

「水谷香織さんです。みんな仲良くね」
「水谷です。どうぞよろしくお願いします」香織は頭をペコッと下げた。
少し離れた新しい席に香織は座った。
よく表情が見えないが、香織に違いない。
ホームルームに続き大森先生の国語の授業が始まったが、授業どころじゃなかった。
「ユリ、ユリったら」小声で隣のユリに声をかけた。
「なによ佐智子、先生に怒られるよ・・」と小声で返してきた。
「あの香織だよね。間違いないよね」
「あの香織ってどの香織?何わけのわかんないこと言ってるの?」
「香織だよ!飛び降り自殺しちゃったあの香織!」
「いったい誰が自殺したっていうの?」ユリの声が少しだけ大きくなった。
「そこの二人!授業中よ!」担任の冷たく厳しい声が教室中に響いた。


一限目がやっと終わった。香織に目を向けたが、香織の机の周りはクラスメートが集まっていて、姿がよく見えない。
仕方ない、次の放課こそ確かめよう。
それにしてもクラスのみんなも、大森先生すらもあの香織のことを忘れてしまっている。なぜだろう、あの事件は、まだついこの間のことなのに・・・。
しまった、トイレに行かなきゃ・・
急がないと次の授業が始まる。

トイレで手を洗っていると、目の前の鏡に転校生が写っていた。
振り返り、顔を見つめた。
名前を呼ぼうと「か・・」まで口から出たところで、
転校生は「これ、ありがとう」といって、わたしの万年筆を目の前にかざし、にっこりと笑った。

次の瞬間・・・・・また例のデジャブーがわたしを包んだ。


放課後、香織、ユリと三人でわたしの家に向かっている。
ユリが一人前を歩いている。
「香織、また会えるなんて・・もうあきらめてた・・・」
「あの時、佐智子の部屋で別れた後、少しだけ手間取ったけど、例の二カ所のプログラムの修正・・覚えてるでしょ・・結局うまくいったのよ。もちろん、ひまわりハウスのあの子を助けて・・・。佐智子のパソコンにメッセージを送ったでしょ。あの時」
「そうだったの。香織が部屋から急に消えてしまうし、何がなんだかわからなかった・・・。「ありがとう」のメッセージを見たとき、香織からの永遠のお別れのメッセージかと思ったのよ。随分泣いたんだから・・・」香織から目をそらしたわたしは、あの時の記憶と、今の喜びが入り交じって胸が熱くなっていた。
「ごめんね心配かけて。わたしも本当に嬉しい」香織の顔は、一度わたしに見せたあのマリア様のような微笑みだ。
わたしは教室でのことを振り返り香織に聞いた。
「クラスのみんながあなたのこと忘れちゃったのはどういうことなの?」
「この時空に戻るためのパスワードを手に入れたわたしは、それを使って、わたしの自殺の歴史を作ったプログラム・・・それをキャンセルしたの。ただし、全く元どおりの歴史に、というわけにはいかなかった」
「というと?」
「わたし水谷香織は、もともと、この街に住んでいなかったってことになっているのよ」
「そうか、もともとここにいなければ、みんなは香織を忘れるってことじゃなく、最初から知らないってことになるのか」
「そう。時空外に行ったことのあるあなただけは、他のみんなとは違うってことなの。だって秘密の全てを知ってるんだから・・・」
「なるほどね。で、それだけなの?前の歴史と違うのは?」
「あと・・・・実は弟ができちゃったのよ」少し笑いながら言った。
「弟って・・・もしかしたら?」
「そうよ、もうあの子はひまわりハウスにはいない。うちで暮らしてるのよ」
「じゃ、トラックの事故からあの子を助けた後・・・そうか!もしかしたら、あなたの弟になるようプログラムを改ざんしたの?」
「ふふ・・助けた後じゃなくて・・あの子が生まれてすぐ後に」香織は舌を出しておどけた。そしてその後、やはりマリア様の笑顔を見せたが、再会した香織は、なんとなく前より大人になっているような気がした。
香織が、どうやってわたしの部屋から消えてしまったのかは聞かなかったが、きっとさまざまなプログラム改ざんや、修正を巧みに実行した結果なのだろう。あの日の翌朝、わたしが普段どおりベッドで寝ていたのもおそらく香織のしたことに違いない。

「佐智子がくれた最後の一つのパスワード、あれがなかったら、なにも出来なかった」
「香織の残した置手紙やクラスメートへの携帯メールは、わたしをあなたのいる時空外へ呼び寄せるために仕組まれたメッセージだった・・・」
「そう・・・そして、試験の日へタイムスリップ、プログラムの二カ所の改ざん・・全てが仕組まれたもの・・」
「イエスズビレッジ・・・」二人は声を合わせて口に出した。
「ここに戻るために、いろいろ調べたんだけど、彼らの目的は何なのか?救世主とは誰なのか・・・結局、プログラムの存在以外は何もわからなかった。そしてもう一つ、ほら、二人でやった最後のプロセス・・どうしてもうまくいかなかったでしょ・・それが最後の最後は、さっき話したとおり、なぜかうまくいったのよ」
「そうだったの」
「イエスズビレッジの意志なのか、それとも、別の何かの力が働いたのか・・・・」
何か別の力・・・香織の言葉を聞いたわたしは、ひまわりハウスのあの男の子、そう、今は香織の幼い弟であるあの子の天使のような笑顔が頭に浮かんだ。

「それと・・香織、わたしの最後のタイムスリップがいつ起こったのか、あなたは知ってるんでしょ?」
「わたしが佐智子のパソコンにメッセージを入れた時よ。正確には、メッセージを入れる直前・・」
朝日に光る教会の絵を見たあの時だ。
「その瞬間、今朝あなたが登校して教室に入った頃かな・・そのあたりにタイムスリップしたのよ」
「未来での記憶はもうほとんど残らないようになったみたい。私たちのあの再会シーン以外は何も思い出せないの・・・・。もし覚えてたら、転校生のあなたを見てもそれほど驚かなかったんだわ」
「あはは、そうね」
香織の明るい笑い声を聞き、今回、自分の周りに起きた一連の事件が、静かに終わろうとしている気がした。

ユリが近づいてきた。
「あなたたち、前からの知り合い?なんかそんなふうに見えるけど・・・水谷さん、この道なかなかいいでしょ。他にも連れて行ってあげたいところがあるんだ」
「ありがとう」香織は笑ってユリに答えた。
そして、ユリがまた少し離れた隙に、わたしに向かって静かに言った。
「佐智子、なぜここへ戻って来れたのかわからないけど、やっぱり・・神様のおかげなんだって信じてるの・わたし・・」
「そうね・・・きっとそうよね!」


楽しそうに前を歩く香織とユリを見ながら、わたしはぼんやり考えていた。
謎に包まれたイエスズビレッジ、歴史を変えるプログラム。
それはもしかしたら、救世主復活のためにある子供を守るためのもの。多くの人々がタイムスリップを繰り返し、未来に影響を与えることによって、子供に降りかかる悪い運命を排除していく。そしてこれらが密かに、かつ、確実に実行されるために欠かせないのがデジャブーのからくりだ。
ところが、このシステムに何らかのミスがあり、守るべき子供が死んでしまった。もはやプログラムではどうにもならず、救世主復活のために選ばれたのが、イエスズビレッジのプログラムの存在、もっと言えば、そのプログラムの改ざん方法を知ってしまった香織だ。
好奇心から未来へ飛んだ香織。行き先は香織自ら決められなかったはずだ。子供の事故死・・・この一つの歴史を修正するため、事故との遭遇があるプログラムに刷り込まれた・・・。改ざんされることを前提としたこのプログラムの実行者・・・それが香織だったというわけだ。
イエスズビレッジは、プログラム改ざんの罪人として、香織のことを一時的に犠牲にしたが、今度は、その香織を救うために、わたしが利用された・・・
おおよそ、そんなストーリーを思い描いたら、頭の中がすっきりと晴れてきた。

となると、あの男の子、香織の弟になったあの子がメシアなんだろうか・・・そして香織は・・・本当は、真相の全てを知っているんじゃ・・・。

わたしは香織の後ろ姿を見つめたが、心に迷いはなかった。
仮に、香織がイエスズビレッジと深い関係にあったとしても、いつか、わたしに真相を語ってくれるに違いない・・かけがえのない大切な友達としてそう信じているからだ。


家の玄関の門のところに母がいた。
「さっちゃん、今朝あなたに頼まれてた万筆のインク、買っておいたわよ。机の上」
万年筆はさっき学校で香織から返してもらったばかりだ。最後のタイムスリップのせいに違いない。時間と記憶の操作・・・でも、これが最後・・・きっと・・・・。

「水谷さんだったわね。あなた前の学校で成績トップだったんですってねぇ。佐智子にちょっと爪の垢でも飲ませてやって」
母の真剣な顔を見たわたしと香織は、お互い顔を見合わせて声をあげて笑った。
「ちょっと!何がおもしろいの?わたしを仲間はずれにするなぁ」
ユリが大声で言った。



おわり


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