「ねえ待って!佐智子ったら。」「もう!急いでるから行くよぉユリ!」 わたしは田所佐智子、十四歳の中二。同じ町内に住む今井ユリとは小学校からのつきあいだ。 「今日試験も終わったし、なんか食べにいこうよぉ」 「今日はだめなの!ちょっとネットで調べものがあるんだから!またね!」 わたしは最近占いに夢中。よく当たるネット占いがあって、今日のテストの問題も予想がバッチリ当たってルンルン気分なのだ。 ユリの誘いを断ったのは、昨日の夜、勉強が終わって寝る前にチェックした新しい占いコーナーが早く見たいから・・・急いで帰ろう・・・。
思ったよりつまらなかった占いコーナーのホームページを閉じ、一階のダイニングへ降りた。 「さっちゃん、テストどうだったの?」夕食をテーブルに運んでるのは、お母さんの田所みどり、四十七歳。料理が大好きで、家族みんなに気配りする心やさしい、私の自慢のお母さんなんだけど、最近ちょっと勉強にうるさくて、少しうっとおしい。 「まあまあできたよ!期待してて!」 「ほおー。たいした自信だな。佐智子はお父さんに似てるから、結果を出すのが得意なんだよな。あはは。」父、裕一朗四十八歳。大手商社の課長。今日は珍しく早く帰ってるから、久しぶりにわたしたちと一緒に夕食だ。 「お父さんの結果ねぇ・・・。もう少し出世してもらったら認めてあげるけど。ね!佐智子」 「おいおい、これでも一応同期ではトップを走ってるんだぜ」 「はいはい、わかってます。これからもお仕事がんばってくださいね。お父さん!」 わたしはこの二人が大好き。仲が良すぎて恥ずかしくなることもあるけど・・・。
「佐智子、野菜スープは残さずに食べなさい」 ・・・・・あれ?父の言葉に不思議な感覚。前も、めったにない家族三人の夕食の時に、父に同じように「佐智子、野菜スープは残さずに食べなさい」と言われたような気がしたのだ。 一字一句同じ言葉で、しかも、この夕食の風景そのものが全く同じ。もちろん、夕食のメニューも。 「どうした?佐智子。変な顔して」 「うん、前も今のこの風景、全く同じことがあった気がしたの・・三人で夕食食べてて、お父さんがわたしに、野菜スープ残すなって・・」 「いやあね、さっちゃん。野菜スープなんか、しょっちゅう作ってるのよ。野菜嫌いのあなたに注意したことなんて、何度でもあるに決まってるじゃない」 「違うのよ!この風景。確かに前も同じことがあったわ。間違いない!それに、お父さんが夕食にわたしたちと一緒なんてことめったにないのよ。しかも、野菜スープってのも偶然だとは思えない!」 「佐智子、それは多分、既知夢(きちむ)、デジャブーといって、人間の心理、つまり脳がそういう状態を作り出すんだ。お父さんも詳しくは知らないけど、科学的に説明できるそういうものがあるらしい」 父の言葉が切れるやいなや母がまくしたてた。 「佐智子!夢でもみたんじゃないの?とにかく野菜は体に必要なものだから、ちゃんと食べなさい!あんた、食べたくないからそんな変なこと言ってるんじゃないの?」 「違うよ!ほんとに・・」 「まあまあ、とにかく佐智子、お母さんの自慢の野菜スープは、残さず食べなさい。わかったね」
自分の部屋にもどりパソコンのスイッチを入れた。 野菜スープは確かにあまり得意じゃなかったが、あの感覚、あの風景は確かに前経験したものとしか思えなかった。 「デジャブー・・・か」 ネットで調べたら父の言うとおり、初めてのことなのに、あたかも、かつて経験したことのように感じる人間の深層心理らしい。 「あんなにはっきり、思い出すような感覚・・・不思議だわ。人間の心って・・あはは」 なにげなく、さっき見ていた占いサイトをぼうっと見ながら、ひとりごとをつぶやいていた自分に思わず笑った。
「そうだ!今回の試験の結果を占ってみよう」 中学二年に上がったときに、勉強の調べもので使うから買って欲しいって父にねだり、なんとか買ってもらったパソコン。いつしかネットサーフィンが毎日の日課になっていた。
「ええっと。なになに?」 わたしは驚いた。今日の試験、まあまあ出来たはずなのに、結果はひどいものになるって・・。 なんで?それに、「誰もが信じられない結果になるだろう」って。どういうこと?いつも成績のいい子が点が悪くて、成績の悪い子が点がよくなるってことかな?この言葉だけではよくわからない。 もともとあまり成績のことなど気にしない私は、自分の成績より他のクラスメートの成績がどうなるかが気になった。 静まりかえった部屋に一階から母の金切り声が響いた。 「さっちゃん!ユリちゃんから電話!」
「佐智子、さっき、クラスの香織が家出しちゃって、今も先生達がさがしてるんだって。携帯とかに連絡が入ったら必ず先生に知らせるようにって言われた」 「え?香織が?」 香織は、わたしやユリとは親友ではなかったが、学年トップの成績で、しかも、そのことを鼻にかけることなく、いつもクラスメートにもよく勉強を教えてくれる優しい子だ。 香織、どうしたんだろ・・わたしはさっきの占いのことを思い出していた・・・「誰もが信じられない結果になるであろう」・・・。 「佐智子!聞いてるの?香織から連絡あったら頼むね、わかった?」 「わかった、ユリ・・」 電話を切ったわたしは、なんとも嫌な胸騒ぎがしていた。
翌朝、学校では香織の話題でもちきりだった。まだ見つかってないらしい。警察の捜索のため、担任の先生が事情聴取らしく、午前中は自主学習のようだ。 午前の授業が終わる十分前、教頭の田代先生と担任の大森みき先生が神妙な顔つきで教室に入ってきた。 大森先生は警察の事情聴取のせいか疲れ切った顔をしている。 田代先生が口を開いた。 「みんな、ちょっと聞いてくれ・・・。水谷が・・・水谷香織が・・・飛び降り自殺した」 えっ!まさか・・・それまでざわざわしていた教室が一気に静まりかえった。 「夕べの深夜、隣町の工事中のマンションの屋上から・・・ううっ・・水谷さん・・・・」 涙につまった大森先生の姿を見たわたしたちは、ようやく事態を理解した。誰からともなく涙をすする声が聞こえ始め、教室に広がっていった。 香織・・クラスメートのみんなに分け隔てなく優しく、すごくいい子だったのになんで自殺なんか・・・。香織が悩んでいたこと、誰も気づかなかったなんて・・悲しさとともに悔しさが涙になってこみ上げてきた。 教壇の横で涙が止まらない大森先生の肩をさすりながら田代先生が言った。 「みんな、ショックなのはわかるが、現実をしっかり受け止めて、水谷をちゃんと送ってやろう。お通夜は明日だから、行ける者は全員行くように。わかったな」
「佐智子、香織はなんで自殺したのかな・・」制服のえりを直しながら、ユリがつぶやいた。ここお通夜の会場はすごい人だ。 クラスメートはほとんど来ている。喪服姿の香織のお母さんらしき人が、クラスメートの何人かに頭を下げている。やつれた顔が、その場の雰囲気を一層重くしていた。
大森先生がすっかり落ち着きをとりもどして、クラスのみんなを集めている。 「みなさん、天国へ行く水谷さんに、感謝の気持ちを込めて、この紙に一言づつ書いてください。明日のお葬式の場で、委員長の山田さんから読み上げてもらうことにしたから・・」 「みんな、あまり長いメッセージは書かないでね。明日読むときに泣いちゃって読めなくなるから」委員長の山田容子がメガネをはずして目をこすった。
・・・・あれ?まただ!またこの場面二度目・・・。先生の言葉も、委員長が、先生の言葉に覆い被さるように話し始めたタイミングも・・・。そして、先生や委員長を囲むクラスのみんなの顔も・・・くりかえしだ・・・。 また、デジャブー・・・・? クラスの何人かがメッセージを書いたあと、ユリに紙が回ってきた。 「香織、ありがとう。あなたのこと忘れない・・」ユリは自分の書いた文章を口に出して読んだ。そして静かに目を閉じたあと、わたしに紙とサインペンを手渡した。 ユリからもらった紙に目をやった次の瞬間、思わず息が止まった・・・。
「香織、暖かな天国でどうかやすらかに 佐智子」・・・・・なんで?わたしのメッセージがもう書いてある! 誰かがわたしになりすまして書いた? いや、これは確かにわたしの筆跡だ。どういうことだろう?
これはデジャブーなんかじゃない・・・確かに二度同じことが起こっている・・・・・。
|
|