残された二人
私は四季に引っ張られながら両親の目の前まで来た。 母は変わらず泣崩れそれを父が支えている。 「どうしてあの子だけがこんなっこんなことに・・・」 ハンカチを顔に当てながら母はやり切れなさそうに何度も何度も繰り返していた。 父は何も言わず、じっと我慢をしているのだろう、私の生前から父は強い人だった。 目の前で私の死に嘆き悲しんでいる両親を見ていると、嬉しい気持ちもあったがほとんどが申し訳ない気持ちでいっぱいだった。 決して母も父も悪い人ではない、私にとってはものすごく優しい、そして暖かい家庭だったと思う。 「これがお前が自殺したことで起きた変化の一つだ。お前はこの二人の行く末を見取らなきゃいけない、決して看取ることはできない。 お前はただこの二人を見ることしかできないんだ。」 四季の言葉は私をさらに追い込むかのようにかけられた。 しかし私は思う、さっきの彼との会話で私は少なくとも最初よりは冷静なものの見方ができるようになったはずだ。 それもこれも彼が私を導いてくれるのだと感じた、決してそんなことを口にださない四季だけれど。 「さっきも言ったが鎖を切ることができるのはお前だけだ、お前が見ることをやめ、逃げればその鎖からは開放される。 そのときは今感じた悲しみも苦しみも申し訳なさも全部なくなるぞ。まぁその代わり全部終わるけどな。」 私は彼の言った全て感じたことが無くなるといった言葉に少しながら魅力を感じてしまった。 確かに嬉しい気持ちもあるがこれからのことを考えれば辛い感情のほうがものすごく大きいのだから。 「お前の両親はものすごくお前を愛していたんだろうな、俺にはわからんがな。今はお前はあの二人に何がしてやれる? 何がかえしてやれる」 四季の言葉を聞き私は逃げようとした自分を嫌に思う、両親からこれだけ愛してもらっていたのにあの二人に何が返せるのだろうか・・。 これが私のしたことの責任なんだとやっと気づいた。そんな私に四季は私に問いをなげかけた。 「お前はこの二人と同じ時間の流れで見取らなきゃいけない、でもな俺は特別に力って奴をもらっててな、ある程度ならこの二人が 送る運命を見ることができるんだが、お前にもそれを見せてやることが可能だ。見てみるか?」 たしかに魅力的な誘いではあった。けれどその意味は「どんな未来でもお前は逃げずにこれからの時間を我慢ができるか?」っと 四季は言っているのだと思う。 「さぁ、見るのか見ないのかどっちなんだ?」 私は四季に急かされ咄嗟に「見る」っと返事をしてしまった。 「わかった、見せてやる目をつぶれよ。」 言ってしまった以上しかたがないので私は彼の指示通り眼を瞑る。 真っ暗になり咄嗟に不安が広がる、そんなときそっと四季の手が私の手を握った。 「見るからには途中で止められないからな」そう言ったとたん真っ暗だった目の前に光の線が幾つも迫りそして過ぎていく。 私はこれが時間の流れなんだと感覚だけでわかった。その光は刃物のように私の体を突き抜ける、そしてまた暖かさも残して過ぎ去っていった。
四季は思う・・・この時間の流れは人の心を癒し鎮めるが時には壊し無くしてしまうものなのだと、それを見取る。 「だからこそ、この責任が負わされる・・・」
四季の声が少しだけ聞こえたように思う。けれどそれは私に対したものではないのはなんとなくわかった。 四季は必ず私に対してものを言うときは必ず理解できるように聞きやすいように話してくれるからだ。 そんなことを考えてるうちに光の線は少なくなり、また真っ暗になる。 私の手を握っていた四季の手はいつの間にか無くなり、眼を瞑ったままの私は一人残されてしまった。その暗闇に耐えられず私は眼を開けた。 「私の部屋だ・・・。」私は一人呟く。 四季が言った様に未来へと来たのか問いたいほどに私が朝起きた時となんだ変わらない部屋が目の前に広がる。 机の上には遺書を書いたノートが広がり、床に落ちている鞄や教科書さえもそのままだ。 四季が行なったことは未来に行くことではなく、瞬時に場所を移動することだったようだ。 それにしても四季の姿はどこにも無く、私は途方にくれる。 途方にくれた私は突如と鳴る目覚まし時計のベルに驚く。 06:30とデジタルの目覚まし時計は表示している。部屋のカーテンの隙間からはまだ薄暗い空が見えた。 何かおかしい・・・。 私が自殺したのは真夏のはずだ、普通ならこの時間すでに日が昇っていてもなんだおかしくは無い。 本当に未来に来てしまったようだ、私にはどれだけと時が経ったのかわからない。 「やっぱりここは・・」私の独り言を遮るかの様に部屋の扉は開かれた。 そこには白髪交じりの頬が痩せた女性が立っていた。 始めは誰が入ってきたのか判らなかった。しかし入ってきた白髪交じりの女性はどこと無く、私の母と面影が似ていた。 「おはよう未来。もう起きないと学校に遅れるわよ」弱々しい声はベルの鳴り響く私の部屋では聞き取りにくいほどだった。 それは私が一度も聞いたことが無いような弱々しい母の声なのだと悟った。 母は誰も寝ていないベットを何度も何度も揺らし、同じ言葉をしゃべり続ける。 部屋に鳴り響いていた目覚ましのベルが止むと、それと同時に母は私の部屋からおぼつかない足取りで出て行った。 母の顔を見ている限り、私の死んだ時期から数ヶ月先の未来という感じではなかった。 少なくても何年か経った未来だろう。 今は四季がいないせいか、私の体は自由に動いた。 四季に言われたように「見取らなければいけない」っという感情ではなく、私はただ母がおぼつかない足取りで出て行ったのが心配で母を追うように部屋から出た。 部屋を出たはいいが母の姿は無かった、私の部屋は2階にあり、母はきっと下の居間にでも行ったのだろう。 母を捜すべく私は下の階へと移動する。 私は変わり果てた我が家に驚くこととなった。階段や廊下の隅には多くの埃が積もり、窓ガラスは薄汚れている。 私は居間の戸を開ける。居間の中も以前とは違い荒れ放題だった。 その中に一つ違和感があった。以前となんだ変らないものがテーブルの上に並んでいた。 私と母と父の3人分の朝食だ。 母はテーブルに座り、朝食を摂っている。誰もいない二つの椅子に一人しゃべり掛けている。 生前朝食や夕食といったものは家族3人でからなずと言っていいほど済ませていた。 しかし今は父の姿はなく、私もすでに母には見えない存在へとなってしまった。 母の心は壊れてしまったのだ。 今の母を見続けるのはとても私には耐えられない、・・・しかし、四季のいない今、私はこうやって母を見続けることしかできない。 母は朝食が済むといそいそと自分の部屋へと入っていってしまった。 生前でも私は両親の部屋にはのどは行ったことが無かったのも合わせ、壊れてしまった母が一人部屋で何をしているのか、見るのは私には怖くてこれ以上母を 追うことができなかったため、しばらく居間で一人何もせずたたずんでいた。
|
|