結局、私たちは結婚どころか高校を卒業したら別れてしまった。 お互い地元の大学に進学したが、別々の大学だったために電話の回数が極端に減った。デートもしないまま、最後は自然消滅だった。 大学は楽しくてバイトを始めたりしたので、私はすごく忙しくしていた。良昭のことは電話しなきゃな、と思いつつなかなかできないでいた。 要するに良昭どころではなくなってしまった。 梅雨に入った頃、友達と駅まで一緒に帰っていると、大学の門のところで声をかけられた。黒髪の真面目な印象の男で、最初誰だかわからなかった。 でもよく見ると里村だった。 「よお、麻子。久しぶり」 「里村!? どうしちゃったの? その頭」 「まあ、いいじゃんか。それよりお前時間ある?」 「うん」 私は友達と別れて、里村の横を歩いた。
大学の近くのコーヒーの美味しい店に里村を案内して、私たちは座った。私は髪色を元に戻した里村が珍しくて、マジマジと見てしまった。 「お前は変わらないな」 「里村は変わったわ。びっくりした。最初誰かと思った。すっかり変わっちゃって、ぱっと見好青年みたいよ」 「俺は昔から好青年だ」 中身はね。私はその言葉を飲み込んだ。 来たコーヒーに口をつけながら、里村はそして言った。 「良昭と、別れたらしいな」 「うん」 私がはっきりうなずくと、里村は悲しそうな顔をした。 「もう俺を呼ばなかったんだな」 その2週間ほど前、私は駅で良昭とすれ違った。電話しなくなってからかなり経っていた。私たちはお互いに気まずく、しばらく立ち止まったが、まるで何事もなかったかのようにすれ違った。 悲しかったが、涙は出なかった。 「……そうか、それじゃあ呼べないよな」 里村は力なく呟いた。 「仕方ないのよ。多分、お互い忙しかったんだと思う」 「あいつも同じことを言ってた」 でも、と里村は続ける。 「でも、お前は大切じゃなかったのか? 俺は好きだったんだ、お前は違うのか?」 こういう抽象的な言い方は昔から変わってない。私も良昭も、彼のこういう真面目な所を気に入っていた。 「好きだったわ。好き『だった』のよ、わかる? もう、過去形になってしまったの。良昭を好きだったのは制服を着た私で、私はもう制服を脱いでしまった。良昭ももうガクランを着てない。ただ、それだけのことなのよ」 高校生だから簡単に好きだとか結婚とかいう言葉を口にできた。私たちはそういう軽さの元に成り立っていた関係だった。 「麻子はあいつとつきあっていたことを後悔してるのか?」 里村はそう聞いてきた。彼は本当に私たちのことを好きでいて、心配してくれてたんだなぁ、とその時初めて気付いた。 「なんで後悔しなきゃいけないのよ。楽しかったし、今でも大事な思い出になってるよ」 「そうか、それならいい」 「ねえ、里村」 私は何だか嬉しくて、笑いながら聞いてみる。 「どうして髪の色元に戻したの?」 「髪が痛んでたんで、本当は前から黒くしたかったんだ。でもなんかタイミングがつかめなくて」 里村はちょっと照れたようにそう言った。私は意外に思った。 その意外さが、すごく新鮮だった。
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