懐かしいチャリにまたがって、昔通った道を走り降りていく。 高校時代、朝は毎日遅刻との戦いだった。行きが下り坂なので助かった部分はあったと思う。 しばらく坂を下ると神社があって、その中を通っていくのが近道だった。その道沿いに一本の梅の木があって、春にはなぜだか紅と白の2色の花が咲く。 線路沿いにある回転焼き屋の饅頭にしよう。あそこのは安くて美味しい。 そんなことを考えながら街に出る。ここがスッピンでもTシャツにGパンでもいいのは、きっと学生の街だからだろう。 ごみごみした狭い道をチャリで走って、やっとお目当ての店に着く。 「俺、ここの回転焼き好きなんだ」 突然後ろで聞き覚えのある声がして、私はのれんをあげる手が止まった。振り向いても誰もいないのはわかっている。 それは、昔ここで聞いた彼の声だ。 「はい、いらっしゃい」 「その6個入りパックをひとつと、黒アンをひとつ」 空腹なのにチャリで来たのでふらふらだった。全く変わってない店のおじさんが手際よくビニールに入れてくれる。 店を出てすぐの道は高校時代、よく良昭とチャリを押しながら歩いた。放課後の、オレンジと紺の混ざったキレイな夕やけの下、私たちは何時間でも話した。 近くにある小さな公園に目が止まって、そこで回転焼きを食べようとチャリを降りた。座って、紙袋を開けて回転焼きをほおばる。 このベンチで、良昭は私に言った。 「麻子、大学卒業したら結婚しよう」 私はなんて答えただろう。嬉しかったのは覚えている。嬉しかったから、うん、と言ったかもしれない。 良昭は2年の時のクラスメイトで、クラス内でも決して目立つ方ではなかったが友達は多かった。 机の中に手紙が入っていて、呼び出されて告白された。私も彼のことは憎からず思っていたので、好きだという良昭の言葉はすごく嬉しかった。 彼とつき合い始めてから、高校生活がすごく楽しくなった。 懐かしいな、と思う。懐かしい、という言葉を使うのは妙な敗北感があったが、でも本当にそう思った。 行きつけだったお好み焼き屋へむかいながらも、なぜか良昭のことばかり思い出した。楽しかったこと、ケンカしたこと、悩んだこと。 初めてのキスも彼だったし、セックスも彼が初めてだった。そういうこと全部。 お好み焼き屋のカウンターに座って、私は当時大好きだったチーズ焼きを注文する。 この店でも、そういえばケンカしたなぁ。あの時はおかしかった。 どうしてきまずくなったのかは覚えていない。でもお好み焼きを注文してそれを待ってる間の数分間で、私たちは取り返しのつかないほど険悪なムードになってしまった。売り言葉に買い言葉だったかもしれない。 「どうしてそんなこと言うんだ」 良昭はガクランを怒ったように脱ぐと、横のカバンを置いたイスの上にそれをかけた。 「あーもう駄目だ。耐えられない」 良昭は突然そう言うと、財布を取って立ち上がった。私は彼が何をするのかわかっていたので、横を向いて水を飲んでいた。 良昭が電話をかけて席に着いたとき、やっとお好み焼きが来た。私たちは無言でそれを食べ始める。 しばらくすると、店に金髪のにーちゃんが入って来る。そして私の横に座った。それは同じクラスの里村で、彼はクラスにひとりは必ずいるムードメーカーだった。私も良昭も里村のことは好きだったので、よく3人で遊んだ。 「お前らさー、いい加減ケンカしたら俺呼ぶの、やめろよ」 笑いながら里村はそう言いつつ、お好み焼きを注文する。 「まあ、いいじゃないか。カラオケでも行こうぜ」 良昭がそう言って、私の方をちらりと見るので、私も食べながら軽くうなずいた。里村は呆れたようにため息をつく。 「いったいなんでケンカしたんだ」 「忘れちゃった」 私が里村を見て笑う。その顔にほっとしたのか、良昭も笑った。
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