まゆみと原田は並んで歩けばもちろん実の親子のようであった。 しかし雰囲気までは親子にはなれない・・・ まゆみが原田と話す時のまゆみの表情。 原田がまゆみに話しかける時の少し照れたような、はにかんだような表情 こういう雰囲気は隠しようも無い事実で、 二人で街を歩いている時、まゆみは周りの視線を痛く感じるのだった。
それと言うのも以前一緒に働いていた同年代の女性が事あるごとに 「あ〜〜若い男の子と話がしたい。お茶したい・・・ 一緒に出かけたい。そんな機会この先一生私にはないだろうな〜〜 緒方さんは良いわよ、男の子が家にいるから、 私なんて子供が二人とも女の子なんだもん。そんな機会なんてあり得ないわよね」と しょっちゅう私にぼやいていたのだった。
彼女がぼやく度に 「幾ら男の子がいたって母親となんて一緒に歩いてくれないわよ。」 と答えていたまゆみだったが、原田とこうして東京の街を歩くたび、 そしてどこかお店に入ってご飯を食べたり、お酒を飲んだりしていると 必ずと言っていい程この女性の言葉が頭を掠める。
だが、この手の思いは彼女にだけの特別な感情ではない。 まゆみ位の年代の女性なら誰だって、毎日子供と疲れきった旦那様の世話ばかりで嫌気がさしていたりする。 そんな時若い男の子と話をしたり、メールができたらどんなに楽しいか、 実際、私の妹ですら我が家に来た時は自分の甥だという事をいい事に 「可愛い、可愛い。こんなにカッコよくなっちゃって」と撫で回して帰る。 息子の方は払いのけたい気持ちをジッとこらえ 叔母が去るのをひたすら耐えて待つといった感じだ。
そんな事もあって私はこの原田と歩くたび 世の中の主婦全てを敵に回していると感じるのだった。
「そういう事だったんですか?無理に聞き出したりしてすいません。 その子の事よっぽど大事だったんですね。」 吉岡は幾らかしょげた顔で言った。 「そう・・・とっても・・・この地球上で私が愛する三人の内の一人だから」 「愛する三人の内の一人?ですか?」 「そう。私の二人の子供と、その僕」 「僕はその三人の中に入れませんか?」 「えっ!吉岡さん、かなり酔ってるんじゃない?吉岡さんはこの三人の中になんか入るような人じゃないでしょう?もっと若い人と付き合って その人の愛する人の中に入らないと。」 「だめですか・・・」 「いえ!だめとかじゃなくて、・・・」 「ふふ・・・吉岡さん駄々っ子みたい」 まゆみは吉岡のふてくされた様子が可愛かったが、 顔は笑ってはいたものの、心の中は複雑な気持ちも決して拭え切れなかった。
「その僕って子は幸せ者ですね、まゆみさんにそんな事言われて」 「それはないみたいですよ。だから離れたいと思ったんだと思います・・・ 深い愛情は重たいですからね。」 本当の事だった、自分といる原田の姿が、 段々辛そうにまゆみの目には映り始めていた。 それでも原田はまゆみに気を使い、自分の方からその事をまゆみに 言い出すことはなく、まゆみからの呼び出しも一切断る事もしなかった。 そんな原田の辛い思いをまゆみは察したのと、 やはりいつまでも自分が傍にいることが決して彼の為になるとは思わないと分かっていたから。そんな理由から彼が仕事を辞めて、暫くして自分からは一切何の連絡も取らないようにしていた。
「どんな子なのかな?会ってみたいな。」 まゆみは聞こえないふりをして話題を思いっきり別なものに切り替えた。 吉岡の僕に会ってみたいと言う言葉を聴いたまゆみは、 吉岡と今日再会してしまった事がこれからの二人の関係が思わぬ展開になって行きそうな予感がし、いささか心配になった。
その予感が的中したのは、二人が食事を済ませ、数十分後の事だった。 その夜の食事中の二人は、笑い声が耐えない程楽しい会話で時を過ごし、 やがて二人は食事を済ませ店を出た。
それは吉岡を駅に見送りに行く時だった。 二人は、駅に通じる交差点で信号待ちをしていた この二人が交差点で、信号待ちをしている姿を 夜学の帰りの原田と木元が偶然にもほぼ同時に気付いた。 先に口にしたのは木元の方だった。
「あれって例の保安さんと緒方さんだよな!あの二人又今夜も一緒だったんだ。」 木元は二人が立っている方向を指差した。 原田は無言のまま目だけをその方向に向けた。
今まで自分があの位置にいたのに・・・ いくら仕事は辞めたとはいえ緒方さんから自分に何のメールも誘いも一切なくなってしまった事に少しだけだが納得がいっていない原田だった。 しかも自分が離れたいと思っていたのは事実だったのに、 実際にそうなってみると少しでも寂しいと感じるなんて 自分でも予想もしていなかった。 それに緒方さんは永遠に自分の事を心配して 決して自分の傍から離れる事はないだろうと思っていたのだ。
原田はまゆみが何故自分から離れていったのか この時点では全く考えつかない事だった。 一方、吉岡は隣に立っているまゆみに 「まゆみさん!もうここでいいですから。」 まゆみはうなずきながら 「じゃあ、青で吉岡さんを見送ってから」 吉岡はいつも通りの爽やかな笑顔でうなずいた。 やがて信号は青になり、吉岡は渡り始めた。 手を振るまゆみに時々振り返りながらそれに笑顔で答える吉岡だったが、 交差点の真ん中に差し掛かった時、吉岡はまゆみの方に向かって突然走り出した。
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