ホームでの吉岡との思いがけない抱擁も 僕との思い出の全てもその土地に捨て まゆみの新しい人生の朝が始まった。
携帯も自分も全て新しくなった。 そんな新鮮な気分で始めての仕事場へ向って寮を出た。 空は彼女の転勤を祝うかのように真っ青で どこまでも高くそして、自分の気持ちも久々に晴れ晴れとしていた。
『僕との事は私の心のスペースにちゃんとある。 僕の1番大事なスペースはきっと彼女との楽しかった事で埋まっているはず でもちょっと、ちょっとだけでも私が彼の心の中にスペースを貰えていたら それは幸せな事。心の中にスペースがあればスペースさえあれば、 いつか私の事も思い出してくれることもきっとある。 彼の心に私のスペースが出来た事を信じることにする。』
原田はあれから全く連絡の取れなくなった緒方の消息を同級生の木元に尋ねていた。 しかし、木元もいつ緒方が会社から居なくなったのか、誰に聞いても確かな情報は得られず、ただ退社したみたいだと聞かされるだけだった。 木元からも確かな情報が得られなかった原田は最後の手段として 吉岡の元を尋ねる事にした。
吉岡の会社の名前は知っていた。 木元にその会社のある場所を事務所の人に聞いてもらい 彼は吉岡の会社に出向き、その日の勤務先を聞いた。 運よくその日の勤務先はそんなに遠い店舗でなかった。 原田は電車に乗りその日、彼の働いている店舗に出向いた。
取り合えず原田は店内をうろうろしてみた。 どこかで出くわすかもしれないと思ったのだ。 しかし、吉岡らしい姿は見つけられない その代わりに自分がマークされてしまっていた。 挙動不審者に見えたのだ マークしたのは吉岡の友人の豊田だった。 豊田は原田に気付かれない様にピッタリと彼に張り付いていた。 交代にやってきた吉岡に、今自分がマークしている人間が居るから 目を離さないようと告げた 「ほら、あれ!あいつだ。さっきからキョロキョロしてて 買い物するようには全く見えないし」 「えっあれって・・・」 「何だ過去に捕まえた事でもあんのか?ってことはあんな可愛い顔で常習犯かよ!」 「いや、そうじゃない。あれがまゆみさんの僕だ!」 「え〜〜〜」思わず大きな声を店内で上げてしまい豊田は慌てて口を押さえた。 原田は大きな声のする方に顔を向けた。 「あっ吉岡さん?!」 原田は吉岡の方に走り寄った。二人に向って頭をちょこんと下げると 「お仕事中にすいません。今日終わってから少しお時間いいですか?」 原田の突然の訪問と問いかけに多少驚きはしたものの 「えっ!あぁいいよ!じゃあ6時に出入り口の所に来てくれるかな」と答えた 二人のやり取りをあっけに取られるように見ていた豊田は 原田が離れるや否や「あれがお前のライバルの僕か。本当に青年というよりは まだ少年だな。あんな子と張り合っても確かに母性ならあっちの勝ちかもな・・・ 恋愛対象より強い結びつきなのも分からなくはない」 言い終えて隣に居るはずの吉岡に顔を向けたがそこに吉岡の姿はいなかった。
吉岡は約束通り6時に出口から出てくると原田はもうそこに来ていた。 「すいません。こんなとこまで押しかけたりして・・・」 「いや、それは構わないけど、緒方さんに何かあったの? 君が来るなんてよっぽどみたいだけど・・・」 「あれから僕1度も緒方さんと会えてないし電話もメールも繋がらなくて・・・・・ 緒方さん会社も辞めてしまったみたいで」 「えっ会社も辞めた?」 「知らなかったんですか?同じ会社でバイトしてる友人に緒方さんの事聞いてもらったらもう退社してるって・・・」 「・・・・じゃあ、あれが最後だったんだ。やっぱり研修なんかじゃなかったんだ・・・」 「最後?研修?吉岡さん緒方さんと会ったんですか?」 「いや!会った事はあったけどそれは偶然だったから・・・」 吉岡はあの日あったことを原田に説明した。 但し彼女を抱きしめてキスをした事はもちろん隠していた。 「そうだったんだ・・・そんな事があったんだ。 でその北海道から出て来た彼女、今は?」 「それがまだ内に居るんだよ・・・だから俺も緒方さんに何の連絡も出来ずにいたとこなんだ。ちょっと待って俺からメールしてみる」 吉岡はまゆみの携帯にメールを入れてみたがやはりそのまま返ってきてしまった。 電話も同じことだった。まゆみに通じる事はなかった。
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