「まゆみさん!これから何処へ行くんですか?こんなに大きなバックを持って」 「えっ!あっこれは泊りがけで会社の研修に・・・」 咄嗟にまゆみは嘘をついてしまった。 「研修?」 「はい・・・」 「本当ですか?」 「はい・・・」 「吉岡さん、あの・・・恥ずかしいので・・・・」 彼の耳元でそっとつぶやいた。
吉岡は静かにまゆみから腕を外した。 「僕とは・・・僕とはあれから?」 「何の連絡も取ってません。彼のために私はもう傍にいない方がいいでしょ? 分かってたつもりだったんだけど・・・」 「いいんですかそれで?」 まゆみは黙って頷いた。
吉岡は自分を見つめて話すそのまゆみのあまりに寂しそうな顔に胸がつまり 思わず再びまゆみを抱きしめると、あの夜のように彼女の唇に自分の唇を重ねた。
その一部始終を二人の背後から深雪はずっと見つめていた。 「お兄ちゃん・・・・あの人のこと本当に好きなんだ・・・・ まゆみさんが自分に気持ちが無いの分かってて・・・何であそこまで・・・ お兄ちゃんかっこ悪いよ・・・そんなお兄ちゃん見たくない・・・」
小さい頃から吉岡のかっこいい姿しか見ていなかった深雪には 形振り構わず好きな人にぶつかって行く吉岡のそんな姿はショックだったのだ。
吉岡はまゆみを自分から引き離すと 彼女に背を向け、深雪の方へ向って走り出した。
それぞれ違う想いではあったが 深雪の目にも、走ってくる吉岡の目にも そして、まゆみの目にも涙が溢れていた。
まゆみは歩きながら水戸に着いたらすぐに自分の携帯を 新しい物に変えようと決心していた。
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