バックの中の彼女の所持品の住所は全て北海道になっていた。 困った駅員は携帯電話を取り出すと、メールの送信の画面を開けてみた。 取り合えずこの女性が最後に送信した人物のメールアドレスに 今の状況を伝える文章を打ち込んだ。 「すいませんが、私は山手線の駅員をしている者です。実はこの携帯の持ち主の女性が今こちらの駅で貧血で倒れられて駅長室の方で休んでいただいております。 もしよろしかったらご連絡いただけると幸いなのですが・・・」 駅員は送信ボタンを押した 「連絡が来るといいですね」 まゆみは駅員にそう言って間もなくの事だった。 女性の携帯が返信を知らせた。 「あ〜良かった。かかってきましたよ」 「ほんと良かったですね」 まゆみもホッとした。 「すいませんお世話かけます。私の知り合いの女性です。今からすぐに向いますので、それまでどうかよろしくお願いします。」 内容を二人で読み終えると 「良かった」と顔を見合わせて喜んだ。
その後駅員は仕事に戻らなければならないと言い残し 彼女にその場を任せ再びホームへ向った。 それから間もなくの事だった倒れていた女性が意識を取り戻した。 「あっ気がついた?大丈夫?」 「ここは・・・・」 「貴方電車の中で倒れてここに運ばれたのよ。 今も顔色が余りよくないけど、気分悪い?」 「いえ・・顔色が悪いのは今朝退院したばかりだから・・・」 「えぇ!入院してたの?それで貴方一人で退院してきたの?」 まゆみは付き添いも無くこの女性は病院を出てきたのかと思い驚いて聴いた。 「いえさっき別れたところです」 「そう・・いろいろ聞いてごめんなさいね。さっき駅員さんが貴方のお迎えを最後のメールをやり取りされた方に迎えに来てくださいとメールをお送りしたから」 「えっ!お兄ちゃんに」 「最後の方はお兄さんだったの。なら良かった」 「・・・・・私会いたくないんです。行かないと」 彼女は突然立ち上がった。
グラっとよろけたその女性の両肩をまゆみはグッと支えた。 「その体で歩くのはまだ無理よ。 この先でもきっと又倒れちゃうわよ。さっ横になって」 「すいません・・・」 この時点で二人は前に1度吉岡の部屋で面識が会った事など思い出してはいなかった。
「会いたくないなら、ここに来た時私が外でその事をお兄さんに伝えてあげるから、そのまま帰っていただきましょうか?その代わりお兄さんではない違う方を呼んで、迎えに来てもらわないと」 まゆみがそう言うと 「それは無理・・・私東京に知り合い誰もいないし、住むとこもないし・・・」 家があるならまゆみは男性を待たずに送って行ってあげたいと思っていたが、 それも出来ないという云わば八方塞のこの状況にまゆみにしても成すすべが無かった。
コンコン!ノックの音と「失礼します」 と言う男性の声が同時に聞こえ部屋のドアが開いた。 会いたくないと言っていた本人の希望は虚しく打ち砕かれ その男性は部屋の中へと入ってきた。 ドアに背を向けていたまゆみは 「はい!」と返事をしながら振り返った。 その時の二人の驚きはとても言葉では表現できるものではなかった。 「吉岡さん!」 「まゆみさん!」 次に続く言葉が二人とも出てこない・・・
「二人は知り合いなの?」 言葉が出たのは深雪の方だった。 「あっあぁ・・・・」 「えっえぇ・・・・」 二人のただならぬ雰囲気に深雪に直感が走った。
「えっ!!お兄ちゃんまさかこの人?この人なの? 深雪が会いたいって言ってた人はこの人なんでしょう?」 「・・・・」吉岡は返事が出来ない ここで又まゆみの存在をはぐらかしてしまえば 再びまゆみを傷つけてしまいそうだ だからと言って認めてしまえば、まゆみにどんな迷惑がかかるか分からない。
まゆみも少し前の状況が記憶の片隅から蘇ってきた。 あっあの時の、北海道から出て来たあの彼女だったんだ・・・・ 気がつくのが遅かった・・・ 彼女の顔はあの時とかなり違って見えたし、まさかこんな所で再会するなんて 考えもしない事だった。 まゆみはこの時初めて彼女の手首に包帯が巻かれていたことに気がついた・・・ さっき言っていた入院ってあの時の・・・
吉岡の頭の中もまゆみの頭の中もそして深雪の頭の中もそれぞれ 渦を巻き混乱の中に置かれていた。
「吉岡さんのお知り合いの方だったんですね」 まゆみが口を開いた時、深雪がその先を遮るように 「ちょっと待って今思い出した! この人あの時、そうだ!お兄ちゃんの部屋に初めて行った時、部屋にいた人。 そうですよね!」深雪の方もあの時の記憶が蘇ってしまったのだ。 「これってどういうこと?ねぇお兄ちゃん あの時この人は会社の人って言ってたよね。違ったの?ねぇお兄ちゃん!!」
深雪の質問に困り果て、何も答えられない吉岡にまゆみは咄嗟に 「その通りです。吉岡さんとは仕事のお付き合いだけであの日はたまたま・・・・」 「まゆみさん!」吉岡がまゆみの言葉を遮った。
「もういいんです。初めからきちんと深雪に 自分の気持ちを話せなかったから今日まで来てしまったんです。 そうだよ深雪、この人だよ、お前が会いたいって言ってた女性は・・・」 「吉岡さん・・・・何で今彼女にそんな事・・・」 「え〜だってお兄ちゃんこの人確かに若く見えるけど、お兄ちゃんよりは かなり上なのは確かだよ!それに結婚してるんじゃない?子供だっていそうだよ。」 深雪は、ずけずけと、自分の思っていることを二人に対してぶつけてきた。 「深雪!失礼だぞ。まゆみさんすいません」 「ごめんなさい・・・」深雪も自分が言い過ぎたことを素直に誤った。 「いいえ、彼女の言ってることに間違いはないし、誰だって信じられない話だから」 「でも、言ったろう。俺の片思いだからこの人に何も関係ないって」 「でも・・・あの〜まゆみさん?」 「はい?」 「何でお兄ちゃんが好きだって言ってるのに お兄ちゃんの気持ち受け入れてもらえないの?」 「深雪!お前何言ってんだ!」
まゆみは吉岡にしてもこの深雪にしても自分の気持ちをストレートに表現できるのは やはり若さの特権なのだと感じた。それに見ていても気持ちがいい 「思いを寄せてもらえたのは嬉しい事だけど、吉岡さんの年で私と本気で付き合うなんてあり得ないことだと思うし、それに吉岡さんだけじゃなくて、私は誰とも恋愛はしたくないと思っているから」 「そうなんだ・・・」
吉岡はここでもまた、まゆみに振られた形になってしまった。 「じゃあ私はこれで。吉岡さん彼女まだ相当顔色悪いみたい。早くマンションに連れて帰って休ませてあげた方が・・・じゃあ私はこれで。深雪さんお大事にね!」 まゆみは二人に頭を下げその部屋を出た。
駅のホームを歩いていたまゆみの背後から 「まゆみさん!」と吉岡の呼び止める声がした。 振り返ろうとしたそのまゆみの背後から、吉岡は思い切り彼女を抱きしめた。 驚いたまゆみは 「えっ!!吉岡さん、ここって駅のホーム・・・・人が見てます」 と小さな声で吉岡に告げた。 「分かっています。この前も交差点で人前でしたから・・・ でも、僕が場所を気にしていたら、永遠にその機会は訪れてくれないでしょう? それに今この手を離してしまったら何だかもう2度と会えない気がして・・・」 「2度と・・・」 「違いますか?」 「・・・・・・・」
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