「深雪?」吉岡は慌てて付近を探したが深雪の姿を見つける事はできない。 取り合えず今手続きしたばかりの航空券をキャンセルし、乗るはずの飛行機の到着を知らせてしまった深雪の家に彼女が空港からいなくなったことを連絡し、やっと本格的に深雪の捜索に入れると思った矢先の事だった。 深雪からのメールが吉岡の携帯に届いた。 「お兄ちゃんごめんなさい。私はこのままの気持ちじゃやっぱり帰れない。お兄ちゃんが好きになった人をこの目で見て自分で納得して帰りたい。だから、お兄ちゃんは深雪を帰したいなら深雪をその人に合わせて!」 「何で・・・」吉岡はガクッと肩を落とした。 そんな事出来るわけがない。何て返事を返せばいいのか吉岡は携帯の文字を打っては消し打っては消しと返信までには中々至らなかった。
やっとの思いで「深雪、今何処にいる?その身体で余り無理したらだめだよ。深雪の気持ちを理解できないわけじゃない。でも、これは相手の人にも迷惑のかかる話しでもあるんだ。相手の人は俺の事なんか何とも思ってないし、そんな人に深雪を合わせるわけにはいかないだろう?言ってる意味わかるよな?向こうにしたら迷惑な話なだけだよ」 吉岡が送信ボタンを押した。 「お兄ちゃんの片思いって言うのは分かってる。でもせめてどんな人か顔くらい見たい。その人の傍に行ってすれ違うだけでもいいから、それならその人にも迷惑かからないでしょう?とにかくその人の顔見るまで深雪は東京を離れないから」 この聞き分けの無さは小さい頃のままだ・・・・ こういうのを絶体絶命というのか・・・・ 吉岡は何だか笑いすら毀れてきた・・・
いっそ、その辺を歩いている人を適当に指差して 「ほら、あの人だよと言ってその場を凌いでしまおうか・・・ どうせ通り過ぎるだけなのだから・・・とも考えた。
でも、もしその場で深雪がその人に話しかけでもしたら・・ あり得るあの深雪のことだ。土壇場で何をしでかすか分からない・・・ やはりそれを考えると見知らぬ人を指差すのは流石に危険だ。 取り合えず吉岡は空港を後にして自宅へと向った。
転勤の決まったまゆみは、その日から 仕事と引っ越しの準備で慌しい日々を送っていた。 水戸には会社が用意してくれた云わば独身寮がある。荷物は寝るだけに帰る部屋になりそうだったため、着替えの洋服と身の回りのものしか運び込まなかった。冷蔵庫もガス台も置かず唯一の電化製品はパンも焼ける電子レンジ一つだけ。それも朝食ようにだ。 まゆみには自炊する気持ちなど全くなかったのだ。 自炊の時間があるなら、もっともっと仕事に時間を割きたかったし 何か今の仕事に役に立つような教室に通うつもりでもいたのだった。
取り合えず荷物の引越しが住み、後は自分が現地に向うだけ そんな当日の昼過ぎだった まゆみは水戸に向うため電車に乗っていた。 そろそろ乗り換えだと思い席を立ち上がり ドア付近に移動しようと思ったその時、自分の目の前でドアに寄りかかっていた女性がスルスルとドアにもたれたまま下の方へ沈んで行った。 「えっ?」まゆみは一瞬自体が把握できなかったが、 その女性の余りの顔色の悪さにすぐに貧血だと気がついた。 「ちょっと貴方大丈夫?」 まゆみは運よく彼女側のドアが開いたためその女性を引きずるようにして電車から降ろした。それに気がついた駅員が慌てて駆け寄り彼女を駅長室に運んでくれた。 「この方はお知り合いの方ですか?」 駅員に尋ねられたが、 「いえ、降りようとしたら目の前で倒れてしまったものですから」 「そうですか、では身元を確認するものを探しますので、そこで承認代わりに見ていてもらえませんか?」 他に駅員さんはいないらしく、自分ひとりで女性のバックを探って後で何か問題が起きても困ると思ったのだろう。まゆみは時間に急いでいるわけではなかったので 「はい、私でよければ」とその役を引き受けた。
ここでその役を引き受けなければ その後自分に襲い掛かる悲劇に出くわさなかったはずなのに・・・
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