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作品名:Space 作者:うさぎ

第36回   36
病室の原田は本当に良く眠っていた。
先ほどの治療室で左手の指の治療もしてもらったらしく
全ての指に包帯が巻かれていた。
まゆみは何か飲み物でも買いに行こうと、
一旦病室を出ると自動販売機でコーヒーを買い
再び病室に戻ろうとドアに手をかけた瞬間だった。
隣の病室のドアが突然開いた。中から出て来た男性にまゆみは目を奪われた。
「まゆみさん!」
「吉岡さん!」
「何でこんな所に」
二人は同時に名前を呼び合い同じ言葉を発した
「私はちょっと・・・吉岡さんはどこか悪いとこでも?」
「いえ・・・僕じゃないんですけど・・・」
「もしかしてあの彼女に何かあったの?」
「・・・・」
答えられないのはその通りだということだとまゆみはすぐに分かった

「彼女手首切っちゃって・・・」
「え〜〜自殺しようとしたって事?」
「・・・」
「命は?命の危険は?」
「それは大丈夫です。発見も早かったし、傷もそんなに深くなかったから・・・」
「そぅ・・良かった・・・吉岡さんは大丈夫ですか?大分疲れた顔してますけど・・」
「正直こたえてます。この先自分がどうしていいかわからなくなってます・・・」
「気持ちは分からなくはないですけど、今は彼女の事を一番に考えてあげて下さいね」
「そうですよね・・でまゆみさんはここで何を?
誰か知合いの方が入院でもされたんですか?」
「・・・・」
答えられないまゆみの立っている病室の名前を見て吉岡は驚いた
「彼ですか?」
「えっ?」
「病室の名前・・・」
まゆみは黙ってうなづいた
「ごめんなさい、もう戻ります」
まゆみは吉岡に会釈をすると、原田の眠っている病室に戻って行った。

この間から彼のことで何かあったとは思っていたが、
入院するほどの事が起きていたのか・・・
吉岡は原田の身に何が起こっているのか気になって仕方なかったが
それ以上どうすることも出来ず
仕方なく自分も深雪の眠っている病室に戻って行った。

寝ている二人が目を覚ましたのは翌日の昼近くだった。
まゆみはその日、会社を休んで彼の傍にいた。
「んんん・・・」原田が目を覚ました。
「僕!気がついた?」
原田はうっすらと目を開けたが、まだ意識がはっきりしないらしく
自分の置かれている状況もよく理解できていないようだった。

「僕!大丈夫?気分は悪くない?」
「お・が・た・さん?何で?ここって?」
「僕ここ病院だよ。僕、家で倒れてたんだよ」
「僕、倒れたんですか・・・」
「僕、飲まず食わずで、ずっとギター弾いてたの?指の豆が潰れて血だらけだったよ」
「そっか、僕そう言えば何も口にしてなかったんだ・・・
このまま死ねるんだったら死んでもいいかと思ってたから」
何て悲しい事をサラっと言ってのけるのか、まゆみは情けなかった。
「でも何で僕病院に来れたんですかね?」
「私が何度電話してもちっとも出ないから、
きのうは部屋まで来て、ドアを叩いても返事はないし、
何気なくドアノブまわしたら開いちゃったよ。僕、鍵もかけてなかったよ」
「そっか鍵をかけるの忘れてたんだ・・・」
「おかげで部屋に入れたけどね」
「それで、緒方さんが僕の命救っちゃったんだ・・・」
「救っちゃったってそれどういう意味?救ったのが悪かったって事?」
「そうかもしれませんね。あのまま死ねたんならそれで良かったのに、
相変わらず緒方さんはお節介なんですね・・・」
「僕!!それ本気で言ってんの!!」
原田は何も答えず、寝返りをうちまゆみに背をむけた。
原田が自分に向ってとったその態度に居たたまれなくなったまゆみは
そのまま病室を飛び出して行った。


そのまま死にたかったなんて何でそんな事・・・
まゆみは悲しいのと情けないのと原田の口から出た
「相変わらずお節介」という言葉がショックだったのとで涙が止まらなかった。
病室の前の椅子で膝に顔を埋めて声を押し殺し泣いている時だった
隣の病室からやはり仕事を休んでいた吉岡が出て来た。
「まゆみさん?どうかしましたか?」
吉岡が声をかけたがまゆみは何も答える事が出来ず
泣きはらした顔でその場を走り去ってしまった。
その様子にただ事ではないと感じた吉岡は原田の部屋をノックした。
「はい!」
てっきりまゆみが戻ってきたのかと思った原田は
そこに居るはずの無い吉岡の姿に驚きをまともに顔に表した。
「何だ元気そうじゃないか」
「なんで貴方がここに?」
「隣の病室に知人が入院しててね。それより今緒方さんが泣きながら走って行ったから、俺はてっきり君の容態が悪化でもしたのかと思ってさ」
「・・・・」
「緒方さんを泣かしたんだ?!あの泣き方は君の容態が良くなって安心したって言う涙には見えなかったけど」
「・・・・貴方には関係ない事ですから!」
「君は本当にお子ちゃまだな、甘えるだけなんだな。」
「どういう意味ですか?僕だっていろんな事考えてます」
「君の考えてることって自分の事だけだろ?自分の事を心から心配してくれている人のことなんかまるで考えてないって感じだよな」
「・・・・緒方さんの事言ってるんですか?僕あの人に心配してくれって頼んでないですから、それに今回だってあのまま放っておいてくれたら僕は楽になれたのに・・・」
「おい!!お前その台詞あの人にも言ったのか?」
「・・・・・」
「黙ってるって事は言ったてことか!」
「言いました!だって本当にそう思ったから!」
吉岡は普段温厚な性格だったが流石に頭に血が昇ってしまい、
寝ている原田の胸ぐらを掴み引き起こした。
「ふざけんな!!お前あの人がどれだけお前なんかの事で心痛めてたか知ってんのか!!この間だって夜中に俺の出したメールをお前からだと勘違いして息き切らしてすっ飛んできたんだぞ。俺が話ししてんのに、今はお前の事しか考えられないから帰らせてくれって。そんなこと普通言わないだろう。親だってそこまで心配しないぞ。お前は彼女に甘えてんだよ、自分が何を言っても何をしても緒方さんは自分から離れないってたかくくってるんだろ。ふざけんな!だからって傷つけていいわけないだろう!!」
吉岡は言い終わると原田の胸ぐらを突き放した。
突き放された原田の身体は枕に叩きつけられるように後ろへ倒れた。


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