キッチンには最後に会ったあの時、自分が原田のために作った雑炊が ガス台の上にそのままの姿で置かれていた。 キッチンの何処を見ても食べたり飲んだりした後が無い・・・ 携帯も放り投げたのか部屋の片隅に、電池が外れた状態で転がっていた。
この子の苦しみは相当だったんだ・・・ 信じてたんだよね、いつかきっと又二人で歩ける事 それだけを信じて頑張ってみようって思ってたんだよね 何があったか良く分からないけど、きっとそれが無理だと感じる事が僕におきたんだねまゆみは抱きかかえていた原田の頬をさすりながら 意識の無い彼に向って話しかけた。 涙が原田の顔の上に次々と毀れ落ちていった。
やがて、遠くの方から救急車のサイレンが聞こえてきた。 「僕!救急車が来たよ。」
まゆみと原田の二人を乗せた救急車はサイレンを鳴らしながら、病院に向った。 その間も救急隊の人達はまゆみを母親だと勘違いをしていたが、 ここで否定するのも何だか厄介な事になりそうな気がしたまゆみは、 そのまま母親で通してしまっていた。
時間がもう夜だったため車は夜間救急の入り口から運ばれていった。 原田はまゆみの元からから引き離され、治療室へと入っ行ってしまった。 まゆみは心配でじっと椅子に座っていることも出来ず 治療室の前を行ったり来たりを繰り返していた。
どの位の時間が過ぎたのか、やっと先生が出て来て彼の症状を説明してくれた。 「ここ何日も寝てない上に飲まず食わずだったらしいですね。 軽い脱水症状と睡眠不足ですね。今点滴してますから、 このまま病室に移します2・3日もすれば退院できますよ。 お母さんそんなに心配しなくても大丈夫ですよ。ではお大事に」
「ありがとうございます。」まゆみのこの声はもう声にならないほどの涙声だった。 原田は眠ったまま病室へと運ばれて行った。 原田が病室に移され、自分も幾らか落ち着きを取り戻し始めた頃 まゆみは又自分の子供達を放り出していることを思い出した そして慌てて子供に電話を入れた。 「あっお母さんだけど。会社の人がちょっと具合が悪くなって、今お母さんが病院に付き添ってるから、今夜もしかしたら帰れないかもしれない・・・」 「ふ〜んそうなんだ。お母さんも大変だね。いいよ、こっちは大丈夫だから、じゃあね」 あぁ又子供に嘘をついてしまった。極度の自己嫌悪に襲われたが、仕方がない、本当の事は決して言えない・・・心の中で子供達に手を合わせた。
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