20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:Space 作者:うさぎ

第34回   34
俺ってそんなもんなのかな・・・」
「おいおい!そんなに自分を卑下するなよ。
たまたま運が悪かっただけ、それだけだよ。」
「そうなのかな・・・」
完全に凹んでしまった吉岡にこれ以上かける言葉が浮かんでこなかった
「まあ今夜は飲もう!明日は俺もお前も遅番だったよな」
「あ〜そうだな、今夜は飲もう・・・」

原田はやはりあの日から全く学校に行けていなかった。
というよりは家から一歩も出ていなかった。
ろくに食事も取らず、手の豆が潰れるほど一日中ギターを弾き続けていた。
ギターを弾いている瞬間だけは頭の中を空っぽにできるからだ。
当然のごとく携帯の電源も切り、全ての世界から自分を隔離してしまっていた
原田の頭の中はあの日、目の前に現れた少し大人になった彼女の姿と
その彼女の口から聞かされた
「今付き合ってる人・・・」
という言葉が何度も何度もエンドレスに繰り返され
あの時の事が脳に映像として映し出されていた。
自分ではその映像を消すこともできない・・・
もしかしたら夢はもっと過酷な幻想を見せ付けてくるかもしれない
そう考えると布団に入る勇気さえ彼から奪ってしまっていた。

この日も何とか無事に仕事を終えたまゆみは
原田のマンションの下を通り過ぎ家に帰った。
見上げた彼の部屋の窓は真っ暗だった。
明かりが漏れていないということは、学校に行けたということ?
何だかほっとしたまゆみは家に着と、子供達の夕飯を作り
子供達と何気ない会話をし、片付けに取り掛かった。
だが、何故か嫌な感じがしてならない・・・
何だろうこの胸騒ぎって・・・・
それでも僕の方からは何も連絡が無い。
きっと一人にしておいて貰いたいに決まってる
ここで又余計な口を挟むと彼を今以上に傷つける事にでもなりかねない・・・
それも怖いと思ったまゆみは取り合えず今夜はこのままじっとしていることにした。

翌日まゆみは出社するやいなや原田のクラスメートの木元を売り場で探した。
やっと木元を見つけ出すと
「おはようございます。突然で悪いんだけど、原田君って学校に来てる?」
「あっおはようございます。原田ですか?そう言えば姿見てない気がしますけど、
それが何か?」
「いえ別に・・・忙しいのにすいません。ありがとう」
まゆみは急いで自分も売り場へ戻った。
仕事は始めたものの、やはり学校に行っていない原田の事が
気になって仕方がなかった。
それでも、仕事中の自分にはどうすることも出来ず、
仕事が終わったら急いで彼のマンションに出向こうと決めていた。

その夜は残業もなく定時に仕事が終わりまゆみは急いで
原田のマンションに向かって自転車を走らせた。
自転車をこぎながらも、携帯で電話を入れてみた。
これで通じれば部屋まで行かずに、このまま引き返そうと思っていたからだ。
だが相変わらず通じない。
仕方なく到着したマンションの玄関からインターホンを鳴らしてみた。
これも返事が無い。
とうとうまゆみはオートロックを解除し、4階まで上がって行き、部屋の前で再びドア越しにインターホーンを鳴らしたがここでもやはり応答が無い。
「ドンドン!!」ドアーを叩いてみたがやっぱり返事が無い。
中に居るのかいないのか、確かめるすべが無い
まさかドアに鍵がかかってないなんて事はないよね・・・・と独り言を言いながらドアノブに手をかけてみた。
「えっ僕!鍵をかけるのも忘れるくらい堕ちてるって事???
まさかあの日、酔っぱらって私が運んできた日以来ずっとあのまま鍵をかけてなかったの?」
「僕!居るの?」
流石に本人の許可なく部屋に上がるのは気が引ける・・・
まゆみは恐る恐る玄関から中に入って行った。
「僕!上がっちゃたからね・・・居ないの?」
玄関を抜け部屋の中を覗いてまゆみは悲鳴に近い声を上げた。

「きゃぁ!やだ僕!どうしたの!」
原田は部屋の片隅に壁にもたれたままグッタリしていた。
まゆみは持っていたバックを放り出し、原田を抱き抱えた
原田の左の指先は血だらけだった。それを見たまゆみは
「こんなになるまでギター弾いてたの?」
ギターに目をやると、弦にもべっとりと血がこびりついていた。
原田の目は開かない。軽く頬を叩いてみても意識が戻ってこない。
まゆみは原田をそこにそっと寝かすと、自分の携帯から救急車を呼んだ。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 7471