翌日の3人は完全に寝不足状態だったが、 まゆみと吉岡はそれでも仕事は仕事できちんと ミスの無いよう細心の注意を払いながら取り組んでいた。
豊田から電話が入ったのは、昼休みに入ってからだった。 「俺!豊田だけど夕べは悪かったな!大丈夫だったか?」 「あ〜何とか一晩外で過ごしたよ」 「えっ野宿か?」 「まさか、一晩中開いてるサウナ見つけてさ、そこに居たんだ。 それに夕べあれからまゆみさんにも会った」 「えっそうなのか?ちょっと待てその話昼休みの間に終わるような話じゃなさそうだから今夜仕事終わったら俺んち来いよ。じゃあな」 「あ〜そうさせてもらうよ」 二人は再び万引き犯の取り締まりにそれぞれの店内に戻って行った。
まゆみも一緒に働く仲間に個人的なことで迷惑はかけられない。 頭の中を必死に仕事モードに切り替えはするものの すぐにそのスイッチも僕モードに入ってしまっていた。 今あの子、学校に行けてるんだろうか? 休んで家に一人で引きこもったままなのだうか? まゆみは二人が以前経験した辛い日々が走馬灯のように蘇って来てしまうのだった。
あの頃もそうだった。その時間学校に行っていないはずの僕の部屋の下を自転車で通りかかった時、何故だか彼が家に居る気がして仕方ない事があった。 そんな時メールを送ってみると案の定彼は気持ちが堕ちていて、学校に行く気がしないと休んでいたこともたびたびあった。そんな時は無理にでも家から引っ張り出して話しを聞いて心を少しずつ彼の心をほぐしていったのだった。
人一倍心の中を探られるのを嫌っていた心をほぐしていくのは本当に大変なことだった。友達・親・彼女の全てを一度に失う形で東京に逃げるようにして出て来た彼は 人間を信じることも、この先誰かに心を打ち明けて生きていくことなどまして 他の誰かを愛する事など、この先の自分にはあり得ないと思っていた。そんな僕が長い月日をかけてやっと立ち直りかけたのに・・・
再び彼が出口の無い暗闇の中に閉じこもってしまうのかと思うと まゆみはそれが悔しくて悔しくてたまらなかった。 原田は自分を限界まで追い込むだけ追い込んでしまうタイプの子だった。 彼がギブアップという時は本当に苦しくてどうにもならなくなってからなのだ。 今の自分はあの頃と違って彼の傍にはいない。彼の顔も行動も目にする事ができない。 まして前回のことで私に迷惑をかけたと感じている彼からは、 きっと何も言ってこないとまゆみには分かっていた。
仕事をしながらも頭の中は原田が消える瞬間は無かった。 仕事が終わった吉岡達は約束通り豊田の家で酒を飲みながら話しを始めていた。 「はっきり言ったんだ。今の自分には好きな人がいるって、 今もこの先も深雪との結婚はあり得ないって・・・だって事実だから」 「そうだよな、仕方ないよな・・・で彼女はどうした?出て行ってくれたのか?」 「いや!あれから家に戻ってないから分からない。あの時大泣きしてたから・・・ そのまま家を出てお前に電話した・・・」 「そっか、あれから帰ってないんだ」 「あぁそれに・・・」 「ん?それに?それにどうした?」 「夕べお前に電話した後、まゆみさんにもメールしたんだ・・・」 「メールしたんだ・・」 「あぁ〜だけど・・・」 「ん!どうした?振られたか?」 「振られたって言うな! まゆみさんはすっ飛んで俺のとこに来てくれたんだ・・・」 「えっそうなのか?良かったじゃないか!」 「それがさぁ・・・俺からのメールだとは知らないで・・・」 「それってどういうこと?お前がメールしてんだからお前からだと思うはずだろ? それが何でまた?」 「んん・・それが例のあの・・・」 「あ〜あの僕か・・・?」 「そうなんだ!彼の方にも何か起こったらしくて まゆみさんはあの子からのメールだと思って息切らせて夜中に走ってきたんだ・・・」 「え〜〜何だかタイミングの悪い話だな!」 「あ〜俺が彼女にはっきり話しをしたって言ったのに まゆみさんの頭の中は彼の事だけみたいでさ 全く話なんか聞いてないって感じだったよ・・・」 「お前の前にはいつもその彼が立ちはだかってお前の行く手を遮ってるって感じがするな」 「ははは本当にそうだな。思いっきり勇気出してメールしたんだぞこれでもさ。なのにけんもほろろって言うのかなこういうの、相手にもされなかったよ。情けない話だよな
|
|