その姿に慌てた吉岡は 「深雪ちょっと話があるからちゃんと洋服着ておいで」と声をかけた。 「え〜〜今夜じゃないとだめ?昨日も深雪がシャワー浴びてる間にお兄ちゃんメモ残して居なくなっちゃったし、今夜はやっとお兄ちゃんと一緒に寝れると思って深雪ピッカピッカに磨いてきたのに・・・ お兄ちゃん?深雪はもう大人の女性なんだからね。いつまでも子ども扱いしないで欲しいな。それに話なんか後でいいからお兄ちゃんも早くシャワー浴びておいでよ!!」 深雪の口からとんでもない言葉が飛び出し、吉岡は益々自分の気持ちをこの子に話さないと取り返しのつかない事態に陥ると恐怖感すら感じ始めた。
「いいから、大事な話だから、ちゃんと着替えてきて。さぁ早く!」 吉岡は深雪の背中を押しながら深雪をせかした。 仕方なくぶつぶつと独り言を言いながらも深雪は着替えをしに部屋に入って行った。
「はい!着替え終了しました。でお兄ちゃんの話って何?」 「あのなぁ深雪、これから話す事は大事なことだし俺の本当の気持ちだから良く聴いて欲しいんだ」 「本当の気持ち?もしかしてプロポーズとか?」 深雪はあくまでも吉岡の気持ちは小さい頃のまま自分に向いていると信じて疑わなかった。彼女にしても吉岡が今までに恋の一つや二つしてきた事は当然理解はしている。 だが、最終的にはきっと自分をお嫁さんに選んでくれるそう信じているのだった。 そんな楽天的な幸せ一杯の深雪に吉岡は最終宣告とも取れるような残酷な事を言おうとしていた。 「あのな、深雪・・」 「うん。なあに?」 「・・・・俺」
プルルルル・・・突然の電話のベルが吉岡の言葉を遮った。 「ごめん、ちょっと待ってて!」 吉岡は受話器を取った。 深雪は目だけを吉岡の方に向けたまま、バスタオルで濡れた髪を拭いていた。 「はい、吉岡です」 「おっ勝か?」 「あっ父さん!」その電話は勝の父親からだった。 「何?こんな時間に。何かあったの?」 「いやこっちはなんもない。それより、深雪ちゃんはお前のとこいったのか?」 「えっ?来てるよ何で?」 「いや何、深雪ちゃんの両親がさ、お前に会いに東京に行くって言ったきり何の連絡もないって心配しててさ、俺に確認してくれって言うもんだから」 「えっ何の連絡もしてなかったの?」 「あぁ流石に女の子一人で東京さ行くのは心配だからな」 「大丈夫だよ、昨日ちゃんとここに着いたから おじさんとおばさんに安心するように伝えて」 「そっかならいいんだ。そう伝えとく」 「あぁじゃあ切るよ」 「あっそれと勝?」 「何?」 「深雪ちゃん大事にしろ。お前が居なくなって本当に寂しそうで見てて可哀想だったぞ 東京に行く旅費も一生懸命働いてやっと貯めたんだからな。そっち行くのに仕事まで辞めてお前のとこさ行ったんだから放りだすようなことしたらあかんぞ。いいな。じゃあ話はそれだけだ。切るぞ」 ツーツーツー・・・電話は切れたが、吉岡の手には受話器が暫くの間握られたままだった。何でこのタイミングでそんな話しを俺に・・ 俺は今彼女に出て行ってくれって言おうとしていたのに・・・ これじゃあ話なんかできないじゃないか・・ 一瞬だが彼は自分の父親を恨んだ。
「電話、おじさんから?」 「あ〜〜」 「そっか・・・私お兄ちゃんと会えて嬉しくって親に着いたって連絡するの忘れちゃってたから」 「そうみたいだな。心配してるってさ」 「うん。後で電話する。でお兄ちゃんの大事な話って?」 「あぁ今日はもういいや・・・又今度で」 「ふ〜〜〜ん、いいんだ。じゃあお兄ちゃん一緒に寝ようよ」 「深雪先に寝な。俺は後でここのソファーで寝るから」 「え〜〜〜何で一緒にベッドで寝てくれないの?」 「いいから、言う事聞かないなら追い出すぞ」 「も〜〜意地悪なんだから。分かりました」 寝室に入ろうとした深雪を呼び止めるように再び声をかけた。 「深雪、お前仕事辞めて出てきたって本当か?」 「おじさんに聞いたんだ。ほんとだよ。もう北海道に帰るつもりないもん」 「・・・・・」 「じゃあお兄ちゃんおやすみ」 「あ〜〜」 吉岡は頭を抱えてしまった。 どうすればいい・・・このまま深雪をここへ置いておけば日一日、 取り返しのつかない方向に向っていくのは目に見えている。 自分に好きな人がいるって言うのが一番手っ取り早い方法に思えるが、相手は誰だという話に及んだら、きっとまゆみに迷惑がかかるに決まっている。 今はまだ深雪との結婚なんて考えられない。
まだまだ仕事に集中していたいって言えば、きっとじゃあ私も東京で暮らしてお兄ちゃんのこと待つ事にするとでも言いかねない。 吉岡はこれから先の事を考えると『絶望』という二文字だけが自分の頭を支配していた その後ソファーに身を沈めたが神経が高ぶっているのか、 その晩吉岡が眠りに着く事はなかった。
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