「こんにちは。どこか出かけるの?」 先に声をかけたのは吉岡の方だった。 「こんにちは・・・ちょっと緒方さんの所に・・・」 原田は小さな声でそう答えた。 「緒方さんのとこ?何で?」 「・・・・夕べから電話してるんですけど、全然繋がらなくて・・・吉岡さんは?」 「えっ・・・俺も彼女のとこ・・・でも何で緒方さんに電話してたの?」 「何か夕べから嫌な胸騒ぎがして・・・こういう時って大体が緒方さんだから・・・ 「胸騒ぎ?」 「はい!緒方さんに何か起きると何だか 僕胸騒ぎがするんですよね。夕べもそうだったから あっ!でも、僕だけに胸騒ぎがするんじゃなくて、多分僕に何かあれば緒方さんも胸騒ぎを感じるんだと思います・・・ 今日吉岡さん仕事は?休みですか?」原田が尋ねた。 「えっ!いやそうじゃないけど・・・君仕事は?」 「えっ・・・休んじゃいました・・・」 「えっ君休んだの?緒方さんの事が気になって?」 「まぁ・・・緒方さんが仕事まで休むなんてちょっと考えられない事だったから・・・」 「仕事休んでるのも君は知ってたんだ・・・ 「あっはい・・・友達が緒方さんと同じ会社にいるから・・・・」 「その友達に聞いたってこと?」 「そうですけど・・・・」 「それにしてもすごいね。君と彼女はそんな深い仲なんだ・・・」 「え〜〜〜深い仲って・・・何か変な意味に聞こえますけど・・・ そんな仲じゃないですから!!」 「そう・・・体の関係は無いってこと?」 「当たり前じゃないですか!ないですよ!!」 「体の繋がりが無くても深い仲になれるって事?」 「なれますよ!精神的なつながりだけだってありますから!! それにしても、もしかして、ここに吉岡さんが来たって事は、 原因は吉岡さんって事?ですか?」 「えっ・・・」突然の質問に吉岡は声を詰まらせた。
二人は道の真ん中で永遠と会話を続けていた 「夕べ緒方さんと何があったんですか? 原田が確信に迫った 「・・・・・」 吉岡は夕べの事を原田に告げる事ができず黙ってしまった。 「何かあったんですね?」 「・・・・何も無かったって言ったら嘘になるかな」 「傷つけた?」 「・・・・・」 何も応えられないのは傷つけたという答えだと原田は判断できた。 「緒方さん、人を信じる事が怖いのに・・・又・・・」 「また?」 「いえ・・・何でもないです」 原田はまゆみが人に裏切られる事を何よりも恐れている事を知っていただけに 今の緒方さんに会うのは怖い!直感でそう感じた。
その時だった、原田の携帯がポケットの中で震えた。 「あっ・・・」原田はまゆみからの電話だと分かると慌てて電話に出た。 「はい、原田です。」 「僕、ごめんね。もしかして電話をくれてた?携帯充電しないで 夕べというか今朝寝ちゃって・・・」 「緒方さん今何処?」 「えっ何で?」 「今朝は会社に行ってませんよね?」 「やっぱり僕だったんだ。さっき会社にちょっと用事があって事務所に電話したら 木元さんが私の出社を気にしてたって教えてくれたから、木元さんが私に用事がある訳ないもんね、もしかしたら僕かなって」 「僕、夕べから緒方さんに何度も電話してて全然繋がらなかったから、会社に出てるのか木元にネームプレート見てもらったんです。」 「え〜〜〜そうなの?夕べから?夕べ携帯の電池切れちゃって・・・ 僕がそんな前から電話かけてくれてたのしらなかった・・・ごめん」 「今、隣に吉岡さんがいます。」 「えっ何で?僕今何処にいるの?」 「緒方さん家の近くでばったり会っちゃいました。」 「僕!悪いんだけど私吉岡さんと話したくないし、会いたくもないんだよね。 多分もう電話もらっても出ないと思う」 「分かりました。じゃあ緒方さんは家でゆっくりしててください」 「ありがとうじゃあね・・・」 二人の会話を聞いていた吉岡はまるで恋人同士とも親子とも違う何て不思議な関係なのだろうと感じた。 「やっぱり、吉岡さんと何かあったんですね緒方さん会いたくないし、 話もしたくないって言ってました。多分携帯にも出ないと思います。」 「僕!」 「あっあの僕、名前原田って言います。」 「じゃあ原田君ここじゃなんだから、ちょっとどこか入らないか?」 「はい・・・でも、僕この後学校なんで、あんまり時間無いんですけど・・・」 「そうか!じゃあ少しだけ」 二人は近くの喫茶店に入った そこは二人がそれぞれまゆみとランチに来ていたあの喫茶店だった。
吉岡はまゆみと二人で来た時に座った壁際の席に腰を下ろした。 二人が入って来るのと同時にママとマスターの二人は驚いたように顔を見合わせた。 二人の青年が以前それぞれにまゆみと来ていた男性二人だとすぐに気が付いたからだ。
ママはお水を原田の前に置きながら 「久しぶりですね」と声をかけた。原田はペコリと頭を下げた。 「ここは来た事あるんだ?」吉岡が尋ねた 「はい・・・」 「そっか・・ここは元々君とまゆみさんの隠れ家的なお店だったんだ・・・」 「別に隠れ家って事ではないですけど、僕がここのカルボナーラが好きだったから・・」 「カルボナーラ・・・・そっか・・・カルボナーラは君だったのか・・・」 「えっ?」 「いや!いいんだ」 「あの・・・それで、昨日なにがあったんですか?」。 「それが・・」 「はい?」 「僕は北海道の出身なんだけど・・・北海道で家が近所の幼馴染っていうか、小さい頃から自分は俺のお嫁さんになるって決めてるちょっと厄介な女の子がいてね・・・」 「はい・・・まさか・・・その子が出てきた・・とか? 「・・・君感がいいね。実は昨日突然家に押しかけてきて・・・」 「家って?!緒方さん吉岡さんの家に行ったんですか?」 「あっあぁ・・・昨日無理やりっていうか、時々でいいから、これからも会って食事したりお酒飲んだりして欲しい。それ以上は望まないからっていう約束で、彼女に頼み込んでこの先も付き合ってもらう事にしたんだ。それで俺の家で俺が料理してご馳走するからって連れて行ったんだけど、そこに突然彼女が現れたんだ・・・・」 「え〜〜〜鉢合わせって事?」 「鉢合わせ?そうだな、鉢合わせっていうのかな。でも、その場では、うまくまゆみさんが取り繕ってくれて・・・」 「えっまだ何かあるんですか?」 「それからが大変だったんだ・・・」 「大変?」 「俺の内、駅まで帰るのに複雑というか、迷うんだよ。まして昨日は車で連れて行ったから、まゆみさん、全く駅までの帰り道がわかんなかったんだと思う。2時間後位後にやっと電話をかけるチャンスがあったから電話したんだけど、その時はもう完全に迷子の状態でさ・・・」 「え〜〜〜〜迷子ですか?」 「あぁ、やっと近くの公園に辿り着いたみたいだったけど、 携帯の電池は切れちゃうし・・・」 「迎えに行ってあげなかったんですか?」 「行ったよ!行ったけど、そこで待っててっていう言葉は携帯の切れた後だったみたいでもう居なかったよ。」 「え〜〜〜携帯も切れて迷子・・・ですか・・・」
原田は胸騒ぎがしたのはこれだったんだとこの時はっきりした。 「緒方さんさっきの電話で朝方って言ってたから、家に着いたのはもう明け方だったんだ。仕事終わってから、結局夕飯も食べず?」 「あぁ食べる寸前だったからね・・・」 「ひどい話ですね」 「そうだよな・・・」 「緒方さん可愛そうだな・・・無理に連れて行かれた挙句に放り出されて迷子・・・って事ですよね・・・」 「あぁ・・・」 「もう緒方さんに近づかない方がいいんじゃないですか?」 「・・・・」 「緒方さんもそのつもりみたいですけど」 「その彼女は幼馴染で異性とか言う目では見たこと無いんだよ。」 「でも相手の女の人はそう思ってないんじゃないですか? それにその時緒方さんを何て紹介したんですか?」 「紹介?」 「自分の彼女とか今自分が好きな人とか言ったんですか?」 「いや!何も」 「緒方さんが気を利かしてその場を旨く取り繕ろってくれたんでしょ? 吉岡さん逃げたって事ですよね」 「逃げたって・・・きつい言い方だな・・」 「でもそういうことですよね。緒方さんなら、すぐに吉岡さんの事考えて旨くその場を取り繕いそうだから」 「その通りだな・・・君は本当にまゆみさんの事良くわかってるんだな」 「そんなことないですけど・・・」 「いや!二人には敵わないんだな・・・・」 「緒方さんきっと傷ついてます。もうそっとしておいてあげて下さい。 じゃあ僕もう時間なんで行きます。」 原田は立ち上がると座っている吉岡に頭を下げ喫茶店を後にした。
「緒方さんは一晩中さ迷っていたんだ・・ きっと僕に助けを求めてたんだろうな・・・ だから僕は胸騒ぎがしてたんだ・・・・」
原田は歩きながらこれからあの二人はどうなるんだろう そんな事を考えながら学校へ向かっていた。
一人喫茶店に残された吉岡はまゆみと直接話す勇気が無く、メールを送ることにした 「まゆみさん、夕べは本当に申し訳ありませんでした。駅まできちんとお送りすれば良かったと本当に後悔しました。さっきまで原田君と話しをしていました。 彼にはきつい言葉をもらいました。彼は本当にまゆみさんの事を大事に思っているんですね。それと、もう、まゆみさんに会わないで欲しいと言われました 今の僕にはそれを素直に受け入れなくてはいけないのだと思います。 でも、今ここで結論を出す事はできません。すいません。もう少し僕に時間を下さい」
まゆみはこのメールを読んで慌ててメールを送った。 送った相手は吉岡ではなく原田の方だった。 「僕!今メールして大丈夫?」 「学校に向ってる途中なんで大丈夫です。」 「今吉岡さんからメールが来たよ。今まで僕と会ってたって。 又私の事で僕の時間を費やしたんだね。私の事で僕の時間を使うのは嫌だと思いながら何でいつもこうなっちゃうんだろう・・・自己嫌悪に陥るよほんとに。 もう、関わらなくていいから、吉岡さんから何か言われても、僕には関係ないからって突っぱねていいんだからね」 「緒方さん、大丈夫ですよ。僕にはそんなに負担になってませんから。それよりこれから吉岡さんと大変ですね。僕の事より自分の事考えてください。じゃあもう学校に着くので」 「はい。分かりました。学校頑張って!」 まゆみと原田の関係は、時々立場が逆転してしまう。 年齢は親子程まゆみの方が上のはずなのに何か事が起こると忽ち原田の方が立場が上になってしまうのだった。 仕事場でまゆみに意見する人など殆どいない。 この世でまゆみに『だめだし』する人間はこの原田一人だとまゆみは常々思っていた。
まゆみはそれから少し時間をあけて吉岡に返事を返した 「吉岡さん、メール読みました。吉岡さんのお気持ちは送っていただいたメールでよく分かりました。でも、今は貴方を追って北海道から出てきた女の子の事を考えてあげてください。はるばる貴方を追って遠くから出てきた想いは相当なのだと思います。 私の事はあの時貴方が、私を紹介できなかった事が全てを物語っていると理解しました。これでいいんです。私の事は紹介できないのが当たり前の事なのですから。 人に紹介も出来ない人とはお付き合いしてはいけないんだと思います。 今日は流石に仕事をお休みしてしまいましたが、明日はちゃんと出社しますから。 もう私の事は気にしなくても大丈夫です。ではお元気でさようなら」
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