吉岡は、流石にまゆみの事をいつまでもこのままという訳にもいかず 意を決し深雪に風呂に入るように進めると 深雪は何の躊躇いも無く素直に風呂場へと向った。 吉岡は慌てて携帯を取り出しまゆみに電話をかけた。 「まゆみさん!今何処ですか?」 「吉岡さん?それが完全に迷子になってしまったみたいで 今居るのは小さな公園です」 「えっ公園?」 駅に向う途中に公園など無いはず、完全に道を間違えている。 吉岡は今からすぐに迎えに行くとまゆみに告げようとしたその瞬間だった。 「プップップッ・・」とまゆみの携帯の電池の切れる音が耳元から聞こえてきた。 吉岡は慌てて「すぐに迎えに行くからそこを動かないで下さい」 しかしこの言葉はまゆみの耳には届いていなかった。 「携帯にまで見放された・・・・」 まゆみは携帯を見つめてつぶやいた。
一方この頃自分の家にいた原田は先程から何となく胸騒ぎがしてならなかった。 何となくだが嫌な空気が自分の回りを漂っている気がして仕方が無い。 「何だろう・・・さっきから何か嫌な感じがするんだよな・・・ こういう時って必ず緒方さんだったりするんだよな・・・ 又何かあったのかな・・・」 原田にとっては、感じなくてもいいはずの予感だった だが、まゆみから離れたいと思いながらも予感を無視する事のできない自分の甘さを悔やむのだった。 このままでは多分眠れないと思った原田は、思い切ってまゆみに電話をかけてみた 「何でだろう・・・・何で繋がらないんだろう」 原田はさっきの胸騒ぎといい、何度電話をかけ直しても 一向に繋がる気配がないこの状況に まゆみに何かが起きていることを確信したのだった。
その頃、吉岡は深雪に 『ちょっと出てくるすぐに戻るから自分のベッドで先に寝てて』 というメモを残しまゆみがいるはずの公園に向って車を走らせた。 車が到着した時には、すでにそこにまゆみの姿は無かった。 吉岡は思い切り後悔した。 「何故一人で帰してしまったんだろう・・・ せめて駅まででも一緒に行けばよかった」と
吉岡のマンションは駅からかなり離れているだけでなく、住宅街の中に奥まって建っていた為初めて訪れた人はまず一回では駅まで辿り着けないくらいの道のりだった。 分かっていたはずなのに・・・何で一人で帰してしまったのか・・・いくら後悔しても、後悔し足りないほどであった。一方まゆみは暗い道をひたすら大通りを目指し歩き続けていた。空腹と疲労が、今世界中で一番孤独感を感じているのは絶対に自分だなどという一種被害妄想的な思いがまゆみの孤独感をより一層をあおっていた。 孤独感が込み上げれば込み上げてくる程、 まゆみの心の中は原田への想いが一層溢れ出ていた。
「僕!どうしよう帰れない・・・このまま一生帰れないかもしれない・・・・どうしよう」そんな悲劇のヒロイン状態に一人で勝手になってしまったまゆみは原田の名前だけを心の中で呼び続け、ひたすら歩き続けた。
どの位の時間歩き続けたのか、やっとの思いでまゆみは大通りに出る事ができた。 「僕!やっと大通りに出れたよ」まゆみは全身から力が抜けていくのを感じた。 自分の前をタクシーが通りがかり、まゆみは、最後の力を振り絞りタクシーに向かって手を上げた。 乗り込んだタクシーの運転手自分の家の住所に告げると 後部座席に深く腰を下ろしすぐに目を閉じた。
吉岡のマンションを出てから何時間たったのかもう、うっすらと夜が明けようとしていたその頃に、やっとまゆみの身体は自分の家のソファーに体を横たえる事ができたが すでに真っ白になってしまった頭の中は何も考えられる状態ではなく、ただただ自分に襲いかかる強い睡魔に引きずり込まれていった。 この時まゆみは空腹感も携帯の電池が切れている事すらも思い出してはいなかった。
まゆみが家に戻った事など全く知らない原田は未だ眠りに着く事もできず、 あれから携帯で何度もまゆみに電話をかけ続けていた。
翌朝、流石にまゆみの身体は子供達のお弁当のために起きる事もできず、 二人にお昼代を渡しただけで、そのまま再び眠りについてしまった。 どの位寝てしまったのか気がついた時はもう仕事時間間近と言う時間になっていた。 まゆみは慌てて会社に電話を入れた。 立ち上がるまでは遅刻しても行くつもりだったが、立ち上がった瞬間にめまいに襲われ、このまま出社しても 仕事にならないと判断したまゆみは休みたいと言う電話をかけた。
原田はとうとう一睡もできないまま朝を迎えていたが、携帯以外にまゆみとは連絡の取りようもなく、どうしたものかと考えあぐねていた。
まゆみは会社に休みの電話を入れたことですっかり安心してしまい 再びソファーに身体を横たえた。 原田は9時になるのを待って まゆみと同じ会社に勤めている木元に電話してみる事にした。 「もしもし、原田だけど、緒方さんって今日出社してるか ネームプレート見てくれないかな?」 「えっ何で?」 「いいじゃん!ちょっと用事があるから」 まゆみの会社では出社すると、自分のネームプレートを裏返す事になっていたのだ。 それを見れば今会社にいるかどうか分かるのを原田は思い出したのだった。 「分かったよ。ちょっと待って今事務所に行くから。」 木元は電話を切らずにそのまま事務所に向った。 「ネームプレート裏返ってないよ、今日は休みなんじゃない?」 「誰の事?」 木元の背後から突然事務所の女性が声をかけた。 「えっあの・・・緒方さんって今日は?」 「あ〜緒方さん!今日は休むって、さっき電話が入ったみたいだったけど」 そのやり取りは電話の向こうの原田の耳にまで届いていた。 「休みだってさ!」 「聞こえた。仕事中悪かったな。サンキュウ!!」 原田は電話を切った。
吉岡もまた眠れない夜を過ごした一人だった。 その日は普通に出社し仕事をしていたが、まゆみが無事に家に帰れたのか気になり 仕事に集中でき無かったが、仕事中の自分にはでどうする事もできず、 昼休みにまゆみの会社に電話を入れてみようと思っていた吉岡は昼休みが待ち遠しくて仕方がなかった。
原田はまゆみが滅多な事では仕事を休む事などないと良く知っていただけに、 これはただ事ではない事が起きていると 自分のアルバイトまで休みひたすらまゆみの携帯に 電話をかけ続けていたが一向に通じない。 このままでは今夜の授業にも差し障ると判断した原田はとうとう思い切って まゆみの家を訪ねてみることにした。
吉岡は昼休みになると真っ先にまゆみの会社に電話をいれてみた。 「緒方さんお願いします。」 「申し訳ございません。緒方は本日お休みをいただいておりますが」 「・・・・そうですか」 吉岡は愕然として電話を切った。事務所では「何?又緒方さん?」 「そう。また、緒方さんが休みかどうかって。何なんでしょうね」 事務所の二人は首をかしげた
吉岡は自分が小刻みに震えているのがわかった。 「何かあったんだ。でも休みの電話を自分でいれたのか?! しまった!それを聞くのを忘れた。」 吉岡は居てもたっても居られなくなり とうとう、このまま早退する事を会社に伝えまゆみの家に向うことにした。
原田とまゆみの家は目と鼻の先ほどの距離。 それでも、19歳の男の子が45歳の女性の家に行くのはかなり勇気が居る事で 原田は中々家を出る決心がつかなかった。 「もし、子供さんが玄関口に出てきたら・・ もし、家に行っても緒方さんが居なかったら・・・」 次から次へと不安な事が頭を過ぎり時間だけがドンドン過ぎていった。
吉岡は電車を乗り継ぎやっとまゆみの家のある駅に到着していた。
原田はこのまま考えていてもどうにもならないと思い意を決し自分の部屋を出た。 「この先の角を曲がればもう緒方さんの家が見えてくる」 そんな曲がり角に差し掛かかった時、正面の道を吉岡が歩いてくるのが見えた。 「あっあの人・・・」 「あっあれは僕???」 二人は同時に相手の存在に気がついた。
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