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作品名:Space 作者:うさぎ

第22回   22
吉岡はマンションに到着するとすぐに調理に取り掛かった。
覚束ない手さばきがまゆみにはもどかしかったが、
手も口も出さず、じっと吉岡の傍らで料理をする彼を見つめていた。

一つ二つと料理がテーブルに並び始めた頃
玄関のチャイムが、けたたましく部屋中に鳴り響いた。
「誰だろうこんな時間に、まゆみさんは先に座って待ってて下さい」
そういい残し吉岡は急いで玄関に向かいドアーを開けた。
その瞬間、甲高い女性の声が玄関からまゆみの耳に飛び込んできた。
「まさるお兄ちゃん!!会いたかった!」
叫ぶのと同時にその女性は吉岡の首に両腕を巻きつけ飛びついた。
「深雪!」
まゆみは玄関で一体何が起こっているのか・・・
心臓の音が自分の耳に届くほど大きく鼓動を打ち始めた

「深雪!どうして?何で突然?」
「だって勝兄ちゃん深雪がいくらメールや電話しても、ちっとも返事してくれないんだもん。だから深雪、東京に出て来ちゃった。」
深雪の目が玄関に置いてあったまゆみの靴を見つけた。
「あれ?誰かいるの?まさか彼女とか?」
「深雪。悪いけど今日はこのまま帰ってくれないか?なっ?」
吉岡は頼み込むように深雪にそう告げた。
その会話はまゆみの耳にも届いていた。
「やっぱり彼女がいたんだ・・今までの事は一体・・・・
もしかしてホントは私、騙されてたってこと???」
まゆみはポツリとつぶやいた。

「え〜〜帰るってどこに?私ここに泊まるつもりで何処にもホテルとってないし、親にも勝お兄ちゃんのとこに泊まるって言ってきちゃったもん。だから今日はここに泊まる。」
そう言い終わるか終わらない内に深雪は部屋へとズンズン上がり込んだ。
まゆみと目が合った瞬間深雪目を丸くし驚いた声で
「えっお兄ちゃんこの人は?」
まゆみは吉岡が応えずらい状況をすぐに察し、
「こんばんは、彼の仕事の上司の緒方です。今夜は彼の家で皆と食事することになっていたから。今他のメンバーは近くのコンビニに買出しに・・・」
「なんだ、そっか〜ビックリした。この人がお兄ちゃんの彼女かと思っちゃった。
あり得ないよね」
「・・・・・」吉岡の口からは何の言葉も出てこなかった

「吉岡君!今日はこのお嬢さんと一緒にお食事しなさい。私はこれで失礼するから。
皆は私が外で待って連れて帰るから。じゃあね」
「まゆ・・・緒方さん」吉岡はまゆみを名前で呼ぶことすら出来ず
咄嗟に苗字で呼んでしまった。
まゆみは早足で玄関に向かい急いで靴を履き
吉岡のマンションを飛び出るように外へと駆け出した

その頃吉岡の部屋では
「わっこれ食べていいの?おいしそう!これってまさかお兄ちゃんが作ったの?」
「あぁ・・・」吉岡はまゆみのことが気になって仕方がなかったが、
今のこの状況をどう説明というか弁解していいのか全く頭に浮かんでこなかった。
「ねぇ、お兄ちゃんも一緒に食べようよ。冷めちゃうよ!」
「あぁ〜〜」

吉岡のマンションを出たまゆみは途方に暮れていた
「そうか・・・車で来ちゃったからここがどこか全くわかんないだ・・・
駅はどっちなんだろう・・・」
ここが何処なのか誰かに聞きたくても、その聞く相手すら出会う事もできなかった。
取り合えず右に向って歩いてみた。どこかでタクシーが通ったらそれに乗ればいい!
初めはそんな安易な考えだったがそれすらも敵わないほど
人にも、車一台にも全く遭遇しなかった。

「ここは都内のはず・・・益してやそんな遅い時間でもない、
そんな不思議な事があるわけないのに・・・
そうか・・・そうだよね・・・
あんなに楽しく買い物してあんな素敵な笑顔を独り占めして
何も天罰が下らないわけが無いよね・・・・」
まゆみは独り言をつぶやきながらもう随分孤独で不安な時間を過ごしていた。
「それにしてもあり得ない!!
何で誰にも会わないんだろう?私は何処を歩いてるんだろう・・・
いつしかまゆみの頬を涙が滑り落ちてきていた。

若い男性に思いを寄せられたと、いい気になっていた自分の愚かさと惨めさの涙だった
そしてまた、他人を信じてしまった馬鹿な自分に腹も立っていた。
こんな結末が待っているなんてやっぱり僕以外の人に心を許してはいけなかったのかな
これからは僕以外人の言葉を真に受けてはいけない
そんな事を自分に言い聞かせながら尚もひたすら歩き続けた。

その頃自分の家に居た吉岡はまゆみの事が気になってはいたが、
何て説明すればこの状況をわかってもらえるのか相変わらず自信がなく
まゆみにメールを送ることも出来ずにいた。

まゆみは随分長い間さ迷い、やっと小さな公園に辿り着いた。
仕事で疲れた身体と空腹はまゆみを更に打ちにのめしていた。
「少しここで休憩しよう」
まゆみは公園のベンチに腰を下ろした。

これからどうしよう・・・
いっその事パトカーでも呼んでしまおうかとも考えたが、
例え呼びたくても、自分の居場所すら説明できない・・・・

まゆみは何故自分がこんな所で迷子になったのかを説明できない事が
誰にも助けを求められない状態を作り出していた。
携帯を握り締め自分からは連絡ができないものの
心の奥底ではずっと前から原田に救いを求め続けていた
「僕!どうしよう・・・あり得ないけど迷子だよ・・・
お願い僕!何の用事でもいいから今すぐ私に電話して・・・」
まゆみは電話などかかって来ないと分かっていたものの
心の中ではそう願いを込め携帯を握り締めていた。


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