吉岡から連絡が無くなってから何日か経ったある日の事 まゆみが帰り支度のため更衣室にいた時だった まゆみの携帯が吉岡からのメールの着信音を更衣室の中に響かせた。 もう2度と吉岡から何も言ってこないだろうと思っていたまゆみはそのメールが吉岡からだと知ると、驚いたのはもちろんだったが、それとと共にまゆみをかなり戸惑わせた
「えっ吉岡さん?!」 まゆみは恐る恐る携帯を開け吉岡から届いたメールに目を通した。 そして、その内容は再びまゆみを戸惑わせた。 吉岡は自分が昨日豊田に伝えた事と同じ事をまゆみにメールで送ってきていたのだった。
それはこの先も自分と時々会って欲しいと素直な気持ちをまゆみに文章にして届けた メールを読み終えたまゆみは吉岡の気持ちに嬉しい気持ちはもちろん無くはなかったが、やはりそれ以上に戸惑いの方が大きく、これ以上付き合いが続いてしまえば、もしかしたら吉岡の人生を狂わせてしまうことにだってなりかねない。 それに、当然傷つけてしまう事は間違いないだろう。 第一この先どれだけ付き合ったところで、彼の気持ちに応えることなど自分にはできない。
吉岡からこれからも時々でいいから会いたいという内容に まゆみはメールの返事に時間がかかっていた。 一層の事、返信などせずメールは届かなかった事にしてしまおうかとも考えた。 そうこうしている内にまゆみは着替えを済ませ会社を後にし いつものように駐輪場へ向い自転車にまたがった、 だが、その晩は家とは反対方向の氷川様へと向かい自転車を漕いでいた。
夜の氷川様は相変わらず少し不気味でとても長居の出来る場所ではなく こんな夜にお参りする人などいないと思い込んでいたまゆみは 自分の少し前に一人の男性がお参りをしている姿を見つけ少し戸惑った。
顔を見ては失礼に感じたまゆみは目を伏せ、その場を通り過ぎようとしたが その男性はお参りを済ませこちらに向って歩み寄って来た。 「こんばんは、まゆみさん」 「えっ!!」まゆみは突然の声かけに伏せていた顔を慌てて上げ その相手の男性の顔を見た途端、自分の顔が急激に強張っていくのを感じた。 「吉岡さん・・・どうしてここに・・・」消えそうな声でまゆみがつぶやいた。
「まゆみさん、僕からのメールできっと困ってここに来るんじゃないかってそう思ったから・・・」 「・・・・・・」 まゆみはその言葉に返す言葉が出てこない 「まゆみさん、そんなに深く考えないで下さい。僕はまゆみさんから 愛されようなんてもう、思わないことにしましたから」 「・・・・・・・」 「まゆみさんがあの少年に注ぐ愛と同じようなものです。 受け取る愛は期待しませんから。」 「そんなのお互いが辛くないですか?相手の気持ちが分かっているのに、気づかない振りして付き合うなんて・・・ それに私の僕への愛は男女の愛ではないから 愛しているのに愛を期待しないというのとはちょっと違う気がします・・・ やっぱりもう会わないのが一番じゃないでしょうか・・・」 「・・・それでも僕はやっぱり会いたいです。会って顔を見て話もしたいし、 一緒にあっちこっち出かけたい。そんな友達みたいな関係でいいって僕が言ってるんですから。」
こんなに真っ直ぐに自分に向ってくるこの吉岡の素直さと 私に対する気持ちは一体何処から来るのだろう 彼にしてみれば、年齢的にこの愛が最後という訳でも無いし・・・・ 私と別れたからといってこの先2度と女性と付き合う機会が無いとも思えない まゆみはこの青年がこんなに自分に固執する気持ちがいま一つ理解に苦しむ所と同時に 自分はこの青年にこの先どう接すればいいのか全くかわからなくなってしまった。 当の本人の吉岡は自分の気持ちを全てまゆみにぶつけたせいなのか 晴れ晴れとした表情でまゆみを見つめていた。
「どんなに付き合っても私は・・・・・」 まゆみの言いたい事を吉岡は察した吉岡は 「分かってます。3人以外愛せないって事ですよね」 「・・・・」 ここで長く話すのも何だからどこか場所を移しませんか。」 「ちょっと待って」 まゆみは氷川様に手を合わせた。 「この先私はどうすればいいのでしょうか? 答えを教えてください」 まゆみはそれだけを祈ると吉岡の乗ってきた車に乗った 今日も帰りが遅くなる。子供達に先にご飯を食べて気にしないで先に寝るようにメールを送った 「どこへ?」 まゆみは少し不安になり吉岡に尋ねた。 「どこか行きたいとこでもありますか?」 「いえ・・・」 まゆみは前回彼にホテルに連れて行かれた時のことを思い出し、少し不安になり何処へ行くのかを尋ねたのだった。 「今日は僕の家にご招待します。」 「えっ吉岡さんの家?」 「はい!僕のマンションで僕が手料理をご馳走しますから」 「・・・・料理・・・吉岡さんお料理するんですか?」 「はい!大してうまくは無いですけど、気持ちだけは込めますから」 まゆみは微笑んだ。
この人との出会いも運命だったのだろうか・・・ 自分一人の力ではどうにもならないなら、 このまま突き進んで行くしかないということなのか・・・・ 答えも出ないそんな事を考えていると、 吉岡の運転していた車は途中のスーパーの駐車場に停止した。 「食材の買出しに付き合って下さい」 吉岡は嬉しそうな顔でまゆみにそう言った。 2人でスーパーの中をいろいろ物色しながら楽しげに買い物をしている姿は他の客からは異様に映っているはず・・・・ これだけの青年だ。まゆみは痛い程他の客の視線を感じていた。 何故自分みたいな年増女がこんな若い青年と楽しげに買い物しているのか どう見ても親子でも恋人同士でもあり得ない年の差だ。 世の中の人が不思議な顔で見るのは仕方ない。 「今私はきっと世の中の主婦の全てを敵に回している・・・」 僕と一緒の時に感じる視線と同じだ
当の本人は周囲の視線を全く気にも留めていないのか ひたすら楽しげに買い物を続けていた。 吉岡は材料の買い物を終えると、 よっぽど楽しかったのか 「二人で買い物するのって楽しいですね」と飛びっきりの笑顔でまゆみに言ってきた そんな言葉をそんな素敵な笑顔で言われると・・・ まゆみは胸が詰まる思いがして苦しくなった こんなに素敵な笑顔を私が独り占めしてしまっていいのだろうか・・・ いつか天罰が下るかもしれない・・・・ そんな嫌な予感も一瞬心を過ぎった・・・
その予感がこの後数時間後に的中することなど この時のまゆみには想像もしていないことだった。
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