20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:Space 作者:うさぎ

第2回   2
彼は仕事柄、何が突然起こるか分からないので
時間は決めずに、互いのメールアドレスを交換し、
彼が外に出れる時に連絡をするということにした。

この二人のやり取りを、入り口近くの倉庫から出るに出られず
ジッと聞いていた一人のアルバイト学生がいた。
彼は夜学に通う19歳の木元いう青年だった。
彼は「何であの人をランチに誘ったんだ???」
「何でまた、あの人なんだろう???」。
木元はあんな年の離れた女性と、何故ランチに行きたいのか
保安の青年の気持ちが全く理解できなかった。
だからと言って、その理由を本人に聞くこともできず
木元はそのまま自分の職場に戻って行った。

私と木元は、都内の大手百貨店に勤務をしていたが、
売り場が違う事もあって顔を合わせるということは殆どなかったが、
私とこの木元の間には共通の知人がいた。
先月まで私の元でアルバイトをしていた19歳の男の子が
この木元と同じ学部に通う友人同士であった。
その為、木元とも、職場で顔が合えば挨拶くらいは交わしていた。

私は気持ちここに在らずという言葉通り。
全くといっていいほど仕事に身が入らず
時間だけが過ぎていくのを幸せに感じていた。
保安の青年はいつものように売り場に目を光らせ
怪しげな人間のチェックに余念がなかった。

この時、私は離婚して5年が経っていた。
子供は男の子と女の子の二人。
結婚が早かったので、二人とも私の事など
たいして必要としていないくらいの年齢になっていた。
私の離婚の原因は夫の暴力と私への異常なほどの嫉妬
そして、多額な借金。
理由の原因をあげろと言われば、次から次へと出てきてしまいそうな位
沢山の理由が私の方にはあった。
後悔など全くなかったが、離婚した直後は
仕事もまともにした事がない自分に果たして二人の子供を
無事に育てていけるのか、不安で押しつぶされそうな日々の中
一時は不眠症や頭痛に悩まされ、精神安定剤のお世話になった事もあったが
今では子供二人は道を反れることもなく
すくすくとそれぞれに育っていてくれている。
そして今では私の中にも、離婚の後悔は全くなかった。

それから数時間後、私の携帯がメールの着信を知らせてきた。
「お疲れ様です。今から外に食事に出ます。
裏の出入り口で待っています。」
これで、朝のあのランチの誘いは嘘でも夢でも無く本当だった。
私は急いで身支度をし、返信を打っていた。
「分かりました。今から裏口に向かいます。」
裏口に向かう私の顔は自分でも輝いているのが良く分かった。

お待たせしました。互いに挨拶交わし
二人は外の道路をどこへ向うということはなく
何となく歩き出した。
偶然にもその二人の様子を、早い時間に仕事が終わる木元が目にしていた。
そして彼も又、朝の二人の会話は空耳ではなかったんだ・・・と思っていた。

保安の青年が先に話始めた。
「吉岡 勝といいます。年は27歳です。」
「吉岡さん!私は、緒方 まゆみと申します。年はちょっと言いたくないかも・・・」
吉岡の年を27と聞いた後だけに、自分の年が彼よりはるかに上の45歳だなんて
とてもではないが言えなくなった。
でも、ありがたい事に、見た目の年齢は実際の年齢より随分下に見られる事が多く
吉岡も自分がお昼を一緒にする人が
実は45歳だとはこの時点で想像もしていなかった。

今更ではあるが二人は改めて自己紹介を済ませた。
この時まで二人はお互いの名前すら知らなかったのだ。
「緒方さん!無理に誘ってすいませんでした。」
「いえ!私はぜんぜん構いませんけど、
吉岡さんは最後の日に私なんかとお昼で本当に良かったんですか?
お店には若い女の子が沢山いるのに。」
実際これだけの好青年が声をかければ
ランチに一緒に行きたい女のこはいくらでもいただろうに・・・
私は本気でそう思っていた。
「はい!時々ですけど、お店に来た時、緒方さんだけでしたから、
僕に笑顔で挨拶してくれたのは」
「えっ!挨拶・・・私だけですか?!」気にも留めていなかった事だったので
彼の言葉に私は少し驚いた。
挨拶なんて日常のことで意識などしたこともないし、挨拶をすることは当然の事だと
思っていた。
その当たり前の事が私以外の働いている人間がしていない方が問題な気もしたが・・・

「そうだったんですか。吉岡さん、どこか行きたいお店はありますか?」
私は彼に聞いてみた。
「いいえ。この辺は仕事で何度かしか来た事しかないので良く分かりません。
緒方さんにお任せしていいですか?」
吉岡のこの答えに私は少し前まで通い続けていた、会社の人間はまず来ないという
住宅街の中にある喫茶店に彼を連れて行った。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 7471