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作品名:Space 作者:うさぎ

第14回   14
朝、いつもの時間に朝食の支度をし、
二人のお弁当の準備をしていた頃子供達は起き出して来た。
「あれ?お母さんここで寝てたの?」
娘が尋ねてきた。
「あっうん・・・帰り遅くなっちゃってさ、
起こしたら悪いからここでそのまま寝ちゃった。」
「ふ〜〜ん」
親を信じているのか,親の事などさして興味が無いのか
それ以上の質問をしてこなかった。
娘の質問が何も無かった事にまゆみはホッと胸を撫で下ろした。
夕べの自分は母親ではなく、完全に女として一晩過ごしていたからだ。

まゆみは離婚後、この先自分に与えられた人生は惰性でしかなく
ただ母親としてだけの役目だけで、それも子供の成長と共にその先の人生など、
あってもなくてもどうでも良かった。
自分で自分の命を縮めるという事ではなかったが
いつ終わっても悔いも後悔も感じることは無いと・・・
あるのは夫婦として一生添い遂げられなかったという劣等感と
人生の脱落者という自分で自分に付けたレッテルだけだった。
そんなまゆみの劣等感というレッテルを少しづつはがしてくれたのが原田だった。

彼と出会い彼との沢山の会話が
今のこの位置まで私を引っ張り揚げてくれたのだった。
それでも未だにまだどこか自分の人生で
失うものも恐れるものもないというような一種投げやりで
どうでもいいという本質的な部分が拭い去れていないのも事実だった。

その朝、子供達を見送ると、自分も会社へ向った
原田の住むマンションは、会社へ向う途中に立っていた。
まゆみは昨日の今日で原田の様子が気になって仕方なかったが、
ここで彼の部屋に向ってしまったら又彼から離れられなくなりそうな
気がしたまゆみはそのまま会社へと向った。

その日の午後、まゆみの携帯が原田からのメールの着信を告げた。
何かあったのか?容態でも悪くなったのか、
まゆみは急いで女子トイレに駆け込みメールを開けた。
「緒方さん!お仕事お疲れ様です♪
僕は昨日ちゃんと講義も最後まで受けましたからもう大丈夫です。
だから心配しなくてもいいですよ(^O^)/
じゃあ引き続きお仕事頑張ってください☆」
原田がまゆみの心の中から抜けきれないのはこういう
心配りを持っている子だからだった。
彼は私がどの位僕のことを心配しているのかちゃんとわかっている。
だから僕からはめったな事ではメールをして来ないはずなのに
こういうことは自分からきちんとメールで伝えてくる子なのだ。
それにしても夕べ晩泣きながら公園に駆け込んだ事を
この子はその理由を何も私に聞いてこない・・・
何故???
もしかしたらその理由も知ってた?
気にはなったが原田に聞くことはしないことにした。

その後、数日間はまゆみの周りは穏やで平穏な日々が過ぎて行った。
あれから吉岡が姿を現すことも、メールが来る事も無く、
まゆみからも、何も行動を起こす事もなかった。

原田も毎日昼間のアルバイトと、夜の大学と忙しく過ごしていた。
原田の同級生の志賀はある日の教室で原田に尋ねた。
「この頃、あの緒方さんていう人の所にあの、保安の人来ないんだよな・・・
やっぱり、無理だったのかな?あの人振られたんだろうな・・・?
あんな年上の人になんか本気になるわけないし、きっとからかわれてたんだろうな・・・
なっ原田!どう思う?賭けの対称にでもなってたんじゃん?」
「賭けの対象?」
「そう!誰かと賭けてたとか・・・」
「そんな事・・・でも何でそんなに、緒方さんの事が気になるんだよ?」
「だってさぁ・・・お前も随分仲よさそうだったけど
何であの人があんな若い人に声かけられたのかわかんないんだよな。
何がそんな魅力な訳?何が違うの?どう見たって普通のおばさんジャン!」
「実際に傍にいないとわかんない事も沢山あるし。」
「ふ〜ん!お前の話じゃ全然わかんないよ、それにこの間、あの人部下の男の人すごい勢いで叱ってたの見たけど、結構怖かったし、それに、課長にも食って掛かってたの見かけたけどすごいよな、あの課長結構怖いって有名なのに
とても女らしいとか、色っぽいって感じじゃないよな・・・」
「ははは・・・緒方さんらしい。あの人仕事では厳しいし普段とは別人かも、でもあの人に怒られて多分不快に思う人は部下にはいないと思うよ。
傍で一緒に働いてた時、この人強い人だなぁって思った。
それで本人に緒方さんみたいに強い人間になりたいって言った事があってさ・・・・」
「それで???」
「その時言われたんだ・・・僕は人を見る目がまだまだだねって
木の幹も太くて頑丈な幹はまともに風をうけて折れないように必死に踏ん張るんだけど
どんなに頑張っても一度折れてしまったら二度と元に戻らないでしょって?
でも、柳の木のように一見弱々しくてすぐにでも倒れてしまいそうでも
風任せで上手に左右に枝を揺らして決して折れなかったりする
生きるなら柳のようにどんな強風にも負けないでそれでいて
風を流せる人間になりなさいって。
言われた時はそんなに深く考えなかったけど、今ならちょっとは分かる気がするな」
「ふ〜〜ん!」

この後も志賀は何か話しかけていたようだが
原田はさっきの志賀の賭けの対象と言う言葉が気になって仕方なかった。
まゆみが離婚した後にどの位傷ついたか、
どれだけ大変な日々を過ごしてきたかその一部始終を自分だけが知っていたからだ。
緒方さんまたあの人のせいで、深く傷ついているかもしれない・・・

その後の授業はまるで頭に入ってこなかった
志賀の話した、賭けの対象という言葉だけが頭の中をグルグルと駆け巡っていた。
まゆみにメールをしてみようかどうしようか原田は悩んだ。
でも、緒方さんから何も言ってこないのに・・・
第一賭けの対象はあくまでも志賀の想像上の話で
本当に裏切られたのかどうかも定かでない
原田は取り合えずこのまま様子を見てみることにした。
何かあったらきっと緒方さんから何か言ってくるだろうと・・・・


まゆみは吉岡から何も連絡が途絶えた事で自分との事は終わったんだと思っていた。
これでいい、彼はまだ若い!私なんかと本気で付き合う事なんか無い!
それはまるで自分に言い聞かせているようでもあった。

そんなある日の夜、原田に一本のメールが届いた。
送信者は緒方となっていた。
「あっ緒方さんからだ!やっぱり何かあったんだ」
原田は急いでメールを読んだ。
「今日の夜!学校が終わったら氷川神社まで来て!話したい事があるの。必ず来て!
このメールの返信はいらないから。私はずっと待ってるから」
「わっやっぱり・・・」
何だかいつもと違うまゆみのこのメールの文章に
原田はきっと緒方にとんでもない事が起きたと思った。
いつもなら「分かりました。大体10時前までには着けると思います。」
というような内容のメールを返すところだが返さないでいいとまゆみの指示通り、
原田は素直に支持に従った。

まゆみはいつものように仕事を済ませ帰宅しようとした時、
突然店内アナウンスで自分の名前が呼ばれた。
急いで事務所に引き返した。
お客様からのクレームが事務所に入っていた
これは当分帰れなくなったとガックリと肩を落としながら、
再び仕事場に引き返して行った。

原田は半分授業半分まゆみの事と心と頭は分離状態で
その日の授業を済ませると、志賀に帰り際呼び止められたが、
「ごめん!今日ちょっと急いでるから」
と足早に学校を後にした。志賀は帰り一緒に夕飯でもと思っていたが、
仕方なく別の友人に声をかけることにした。

学校から氷川様まで、歩いて30分はかかる道のりだったが、
原田は緒方さんが待ってると思いひたすら早足で歩いて行った
「やっと着いたよ・・・遠いな〜〜」
そうつぶやくと中へと入って行った。
時間が時間だけに昼間の賑わいを見せる境内とは思えないほど静まり返っていた。
暗闇に目をやるがまゆみらしい人影は見えない。
「あれ?緒方さんまだかな・・・?」
原田は携帯で連絡を取ってみようとポケットに手を入れたその時だった。
「君が緒方さんの僕?」
「えっ?!」
原田は自分の前に突然例の保安の青年が立ちはだかりそう尋ねてきたので驚いた
「君が緒方さんの知り合いの僕だろ?」
吉岡は再び原田に向ってそう尋ねた。
「あなた・・・保安さんですよね?」
「あれ、僕の事を知ってるんだ」
「僕、緒方さんと一緒に働いてた時あなた見ましたから」
「そうか知ってたのか・・・君名前は?」
「そんな事より僕緒方さんに呼び出されてここに来たんですけど、緒方さんは一緒なんですか?」
「いや!君を呼び出したのは、緒方さんじゃなくて僕だから」
「えっ!だって携帯の送信、緒方さんからだった。」
「そういう事も世の中では出来るんだよ僕」
「・・・・」
「君は緒方さんと付き合ってるんだよね」
突然のこの言葉に原田は戸惑った。
『付き合う』って・・・言葉が出ない
何でここに自分がいるのか、何でこの男に自分の事と緒方との事を聞かれているのか
原田はもう何が何だか頭の中が真っ白になっていた。
「僕帰ります」
原田が言えたのはその一言だけだった。
「ちょっと待って!君に聞きたい事があったから呼び出したんだから。
答えてくれないと困る」
「僕!何も話す事ないんで!」



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