このままでは2度とまゆみと会えなくなってしまうかもしれない、 吉岡は自分の思いをきちんと話さなければ・・・と 気持ちを奮い起こそうと思うのだが言葉として口をついて出てこない。
どの位の時間が二人を引き離していたのか、吉岡は突然車を路肩に止めた。 「僕はその男の子と同じ位置には なれなれませんか?」 吉岡はやっとの思いでこの一言に辿り着いた 「僕と同じ位置?」 「はい。」 まゆみはどう返事していいか戸惑った。
「羨ましいですよねその僕っていう子は・・・」 「本人は決してそんな事思っていないみたいですけど 私の想いが重たくて仕方ないと思います。 そうじゃなければ、今も傍にいます。 うざいってやつじゃないかな?深すぎる愛情は重たいですからね」 まゆみは笑いながらそう答えた。
「僕はまゆみさんと一緒に居ると、本来の自分というか飾らない 自分でいられる気がします。変にかっこうつけたりすることもしなくていい。 そんな事をしても全て見透かされてしまう気がして、だから、素直な自分がそこにいるって感じで、凄く心地いいんです。何て表現していいか良く分からないんですけど 安心していられて、凄く楽なんです。」 自分の心の内を話している間のまゆみの目が、うっすらと滲んだように吉岡には見えた。 「ごめんなさい。私が最初からきちんとお断りしていればこんな事にならなかったのに・・・」
「それにしても、まゆみさんの愛を一心に受けているその僕ってどんな子ですか?」 吉岡のこの一言にまゆみの気が一変に引き締まった。 「えっどんなって・・・普通の男の子です」 「何でそこまで愛情を注がれるんですか?」 吉岡は矢継ぎ早にまゆみに原田の事を尋ねてきた。 まゆみは原田の事はこれ以上何も話したくなかった。
「会うことはできませんか?」 「えっ会うって、吉岡さんとですか?」 「はい。是非会ってみたい。会えば分かる気もするし、 そうしたらまゆみさんとの事を諦められるかもしれない・・」 何だか良く分からない理由でこじ付けのようにしか聞こえなくも無いが まゆみには到底受け入れられるはずのない要求であった。
「それは無理です。例え地球がひっくり返っても無理です。」 原田にそんな話しを出来るわけがない。 何て説明して吉岡に会ってくれというのか、考えただけでも気が遠くなりそうだった。 まゆみは絶対に無理だと吉岡に伝えた。
車は再び走り始めた。 吉岡は今のまゆみの話で原田に会うことを諦めたのか、 まゆみには計り知る事ができない、 この話の続きが吉岡の口から出る事はなかった。
家の近くまでまゆみを送り届けた吉岡は別れ際まゆみに 「僕はまゆみさんを誘ってはいけないって言われてませんよね。 だからまた誘う事にします。好きになってくれとは言いませんから 時々僕に付き合ってください。じゃあおやすみなさい」 まゆみに返事をさせる間も与えず吉岡はまゆみにそう告げると走り去ってしまった。
まゆみの長い1日はやっと終わった。 昨夜久々に原田に会うことはあったが一晩中看病し 寝不足のまま仕事に出かけ、帰り際に吉岡にドライブに誘われ 今の今まで信じられないような時間と会話をし、やっと今一人になれた。 時間はもう日付けが変わっていた。
幾ら子供が大きいとはいえ、流石に今日の事を子供に尋ねられたら 答えようがないと思い、玄関のドアをそ〜と開けると、 寝室には向わず居間のソファーで眠る事にした。
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