――――ハルナの中には、他の知らない男が住んでいる。
そんな事、昨晩彼女を抱いた時に気付いていた。 ただ、色んな事がいっぱいいっぱいで、頭の隅に追いやっていたのだ。 ・・・考えたくなかっただけなのかも知れなかった。
「あ・・・貴方には関係ないでしょう・・・」 そう言い放ったハルナの言葉は、藤森を痛めつけるには十分すぎる程の威力を持っていて・・・
「関係ねーとか言うな!!」 言うまいと思っていたセリフが、押さえのきかない口から飛び出してしまった。 「――――じゃあ何で俺とヤッたんだよ!!」 大事な事は全然出てこないくせに、こういう事ばかりボロボロとこぼれ落ちるのだ。言葉ってやつは・・・ でも、言ってしまった事で、かえって藤森は何かどこかで、気持ちの区切りがついたような気がした。
関係あるだろ!・・・関係の前にナマナマしい言葉が付こうが付くまいが、関係は関係だ!!
そう、一瞬で開き直った。
「それは・・・」 途端にハルナが口ごもる。 でも、先のセリフなんて聞きたくなかった。 開き直ったからには、この女に全力で知らしめてやるだけなのだ。 そんな藤森に都合の良い言葉が出てくるとは、とてもじゃないが思えなかったので、ハルナの先のセリフなんてもういらなかった。 聞きたいのはそんなセリフじゃない。 「酔っ払ってて・・・」
――――聞きたくねーっつってんだろ!
「ふざけんな!!!」 かき消すような大声を、ハルナに叩き付けた。
藤森の思いを、本当に分かっていないニブい女だった。自分を守るためだけに、彼の気持ちの上でツイストを踊るのだ。 だがしかし、自分の好きだという気持ちを強行突破する為に、ハルナの罪悪感の上でタップを踏もうとする藤森だって同罪だった。 でも、もう、藤森は何でもよかったのだ。 手段なんて選んでいられない、玄関先でたたき出されるまえに、何とかしてハルナのドアの隙間に靴の先でも入れてやらなければ、永遠にこのドアが、藤森の為に開かれる事はないと思ったから。 卑怯なセールスマンで構わなかった。
「じゃあ、お前は、酔っ払ってりゃー誰とでもすんのかよ!」 刃の鋭さを持ったセリフなのは自覚がある。だがしかし、藤森だってもう沢山いっぱいいっぱいに傷ついているのだ。 「そんなっ・・・」 予想通り、ハルナの両目が屈辱に見開かれる。 「・・・ひどっ。」
酷いのはどっちだ!そう言ってやろうと思った。
でも、泣き出しそうだと思った途端、藤森の心が激しく乱れる。 頭をかきむしりたい衝動が、身体の中から生まれた。痛いとかキツイとか、落ち着かないとか、苦しいとか――――とにかく、そういうものが、全部いっしょくたになったのだ。
「俺は好きだからだ!」 全部丸めて、吐き出すとそんなセリフになった。 「好きだから、お前とヤッたんだ!!・・・さっきから言ってんだろーが!!だから俺の女になれっつってんだ!」
もうヤッちまったんだから、さっさと俺のもんになれよ! そんな横暴な感情で、彼女が自分のモノになるなんて到底無理な話なのも、自覚はあった。 全然自分の気持ちが伝わっていない。でも、どうやったら伝わるのかなんて、自分の想像力の範疇を遥かに超えていた。 好きなのだ。ハルナが。 本当はもっと上手く女を口説ける筈なのに、・・・うまい言葉は、頭の中から全部荷物を持って家出してしまったみたいに引き出しの中はカラッポだった。
他の男の事なんて忘れちまえ! 俺がいんだから、もういいだろ!!
爆発した感情のままに、掴んでいたハルナの手首を引っ張ると、力任せに華奢な身体を抱きこんだ。 衝撃で傷が痛んだが、多分、心臓の方がもっと痛い。
「フ・・・フジモリ!」 突然の行動に、困惑したハルナが腕の中でもがく、でもかまってなどいられなかった。 「うるさい」 自分が乱暴なのかどうかも、わからない。ただ、今、近くで感じるハルナの匂いと体温が、昨晩の記憶をフラッシュバックさせて、なんだか藤森は少しだけ泣きたいような気分になった。
「俺の事・・・好きになれよ。」
ハルナを好きだという思いが、弾けて飛び散ってしまいそうだった。
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