ー 最終夜 ー
私は、かつて自分がオトコであった事はすっかり忘れ、むしろ生まれた時からそうであったかのように、身も心もオンナとして生きていた。
そんなある日、「ちょっといいかしら」と女将さんに呼ばれて部屋に行くと、一枚の写真を見せられた。
それは、お見合い写真だった。
正直を言うと、女将さんに恩返しがしたい一心で懸命に働いて来た私にとって、「そういう事」を考える資格は無いと思っていた。
でも折角の紹介を無下に断る訳にもいかず、女将さんの顔を立てるつもりで「とりあえず一度、お話を」というカタチで返事をした。
いずれにしても、どうせ相手の方からお断りの返事が来るだろうと軽い気持ちで臨んだのだが、お別れをする頃には意気投合してしまい、次回のデートの約束までしてしまった。
私達は両家公認の仲となり、何度かデートを重ね、やがて二人は「男女の関係」となった。
お付き合いを始めて一年。
彼は私にプロポーズをし、私は彼に「YES」と応えた……。
結婚式、当日。
親代わりの女将さんは、かつての自分の花嫁衣裳を「嫁入り道具に」と言って、目に涙を浮かべながら私に着付けをしてくれた。
私は、「ありがとう」の一言さえも、声が詰まって満足に言えなかった……。
控え室に一人。
鏡の中の私は、自分で言うのもどうかと思われるが、今までで一番輝いていた。
街を彷徨い、女将さんに拾われ、温かい人達に囲まれて過ごし、彼と出会い……。
これまでの事が目の前に浮かんでは消えて行った。
私はお化粧が落ちないようにと、溢れる想いを我慢するのに必死だった。
それももうそろそろ限界だと思われた時、「花嫁さーん、間も無くお時間でーす!」と係りの方から声が掛けられた。
ふー……っと一息、大きく深呼吸をし、立ち上がりざまに鏡を覗くと、お着物が妙にダブついているように見える。
立ったり座ったりして少しずれたのかと思ったが、何だか不思議な感覚が、…特に胸の辺りに妙な違和感がある。
お着物のずれを直そうと胸に手を当てると、例えるならばまるで紙風船がつぶれるかのような感じだった。
私は全身からサーっと血の気が引く思いをした。
かつて、同じような感覚を味わった事があるからだ。
そしてあの時と同じように、恐る恐る股間に手をあてがった。
着物の上からでもはっきりと「ふくらみ」を感じる事が出来た。
…どうしよう……。
ただただ、その場に立ち尽す事しか出来なかった。
「それでは花嫁さーん、お願いしまーす!!」
ー 幕 ー
|
|