屋敷の解体作業をしていた初老の男が、綺麗に桐箱に収められた掛軸を瓦礫の中から拾い上げた。もう一人の青年が、見事な牡丹の絵柄の扇子を拾った。 「ここは、随分昔に殿様と呼ばれた人間が住んでいたのさ。」 「へぇ、じゃ、コイツはちょっとしたお宝ですかね?」 「さぁ、こんな瓦礫に埋もれているようじゃ、大したお宝じゃないと思うが。」 「じゃ、貰っちゃっても大丈夫っすよね。」 「ああ、多分な。」 青年は、扇子をしばらく眺めていたが、初老の男にスッと差し出した。 「いっつも世話になってますんで、相沢さん。」 相沢は、苦笑いをした。青年がニコニコして差し出すので、おずおずと遠慮しながら扇子を受け取る。受け取った途端に扇子が欲しくてたまらなく思え、青年に礼を言いながら頬を紅潮させた。
一人身の相沢の家は、いつものようにガランとしていた。玄関を閉め、鼻をヒクッと動かした。この香は・・・何だ?住み慣れた家の空気と違う、つんとした心地よさを誘う香をたどる。 脇に抱えていた掛軸から、漂っていた香りと知り、相沢は、掛軸を取り出した。 栗木に寄り添う艶を帯びた女がいる。墨ですうっと払ったような描き方の線で出来た女なのに、相沢は女に食い入るように見惚れた。恭しく取り扱いながら、掛軸を居間に飾った。 掛軸に向き合って、相沢は胡坐をかいた。 「値打ちはないかも知れないが、いい女だなぁ。まるで、俺に気があるみてーに、見えるぜ。」 相沢は、掛軸を肴に、酒を舐めた。 扇子を扇ぎながら掛軸の女を見ていると、忘れかけた肉欲がジワリと下腹部に蘇り、相沢は濁った眼で掛軸の女を見る。掛軸の中の女は、上気した頬をほんのりと紅潮させていた。
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