楓は夜を待ち遠しく思うようになり、幾晩も飽きることなく女を抱いた。 いよいよ家屋解体の前日、打合せに訪れた業者が、顔色が優れないと心配そうに言ったが、それを機に、楓は解体日を延長した。
女は喋らないが、感極まると啜り泣くような嗚咽を漏らす。楓は鈴のような女のその声を聞くと、若者の頃のような高ぶりを覚えるのだった。 惚れる。 楓は、ずっと少年の頃からこの女が欲しかったのかも知れぬ。楓は日光を嫌がる女のために、雨戸を閉めっ放しにした。女の楓の床での滞在時間が増して行く。 楓は、食も摂らず酒も舐めず、女を抱き、疲れると眠り、目覚めてまた抱く。それに女は応え続けた。 こころなしか女の色が濃くはっきりと見え、頬には赤味が差す。楓はそれが堪らず嬉しい。 白檀の香は部屋に満ち、楓は飽くことない欲が湧くのだった。
再び訪れた解体業者が、楓を見て、あっと声を上げて出て行って暫く後、警官を伴って戻って来た。 救急車の中で楓は逝った。 医師は、もともと病身であったのに、何故、比較的ましだった座敷ではなく、最も朽ちた部屋で過ごしたのか訝み、ぶよぶよに朽ちた畳と布団の裏にびっしりと生えた黴が、楓の肺に菌糸を伸ばしていたと唸った。
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