つんとした白檀の微香、あの足音が、昨夜と同じく部屋の前で止まった。楓は震える手でパチと扇子を鳴らした。 スッと、襖が開く。電灯を消した暗闇に、女が俯いて座っていた。座ったまま、すすっとにじって畳に膝をつき、襖を閉めた。楓を振り向き、俯いたまま、三つ指をついて頭を下げた。楓が再び扇子を鳴らす。女はつと顔を上げた。月明かりで見る女の姿に楓は微かに息を呑んだ。 やはり、物の怪であったか。 掛軸の中で栗の木に寄りかかっていた女。抜けるように白い瓜実顔に切れ長の濡れたような目が、じっと媚を含んで楓を見上げた。忘れていた欲が湧く。 溶けそうに儚い女に触れると、確かな手答えがある。白くなめらかな肌はしっとりと湿り、温い。項には脈が奮え、楓に応える吐息は甘い花の香りがする。 楓が眠るまでいたはずの女は、朝、すべての気配とともに消えていた。楓は老いさらばえた裸体を布団に横たえたまま、朝日を浴びてキラキラと光っている古床の縁をじっと見ていた。
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