夜明けの朝日が古く朽ちかけた母屋の縁を暖めた。 楓は、腐った柱や落ちた雨樋、開かなくなった窓を見ながら、解体の準備を続けるために、女中部屋のがらくたを検めていた。 ぷんと、白檀の強い香りが鼻をつき、落とした視線の先に扇子を見つけた。扇子に描かれた鮮やかな牡丹から漂う白檀微香を嗅いだとき、昨夜の恐怖が消えた。分別も消えた。紅紫の牡丹と葉に塗られた緑が、扇ぐと、そよと風に揺れるように揺る。
夜になると座敷に戻すはずの布団がとても重く感じ、楓は親父の部屋の畳に再び床を敷いた。ジワリと畳の下から寒さがしのぶ。楓は酒を舐めながら扇子を扇ぐ。
絶対君主だった楓家当主の親父の記憶は、薄い。恐かった兄達。泣いていた母。活気溢れた楓家の家人たちを一人で支えて束ねていた近付き難く偉大だった親父の秘め事だけが強い記憶となっている。 秘め事を共有している。 楓は唇の端でふふと笑った。 恐怖と抗いきれない好奇心、扇子を持ってから再び覚えた女への欲。楓は青年のように昂る肉を扇子で扇いだ。
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