数十年の時を経て、楓はここに独りで住んでいた。 屋敷は母屋を残してとうに人手に渡り、広かった母屋ももうじき解体される。楓は病身の身体をおして家との別れを懐かしむために、久し振りにこの家に帰って来ていた. 屋根裏に仕舞い込んであるがらくたを処分する為でもある。蔵に入っていた年代物の遺品は兄たちの手によって金に換えられていた。 解体の日は1週間後と決めてある。 楓家の主だった親父の血を引く子は大勢いた。4人の兄の母はそれぞれ異なり、昇一の母は親父の5人目の妻だった。妾に産ませた子もいる。妾が女中だったのか、よく判らぬ頃に老いた親父は逝った。長兄が継いだ家から長兄の家族以外の者は叩き出され、昇一は母が再婚した養父に育てられた。 長兄の家は瞬く間に衰えた。他の兄姉も金に縁遠い人生を負ったと聞く。実業家であった親父の血を継いだのはどうやら昇一だけだったようだ。昇一は既に起こした会社も財産も自分より出来の良い息子に託している。 老いは兄弟に均等に訪れ、5人目とはいえ正妻の子である昇一が旧家の最後の処分をすることになったのだ。病床の兄が、弱弱しい声で、残った母屋を相続してくれと昇一に頼んだが、最早相続の値打ちは失せている。昇一は兄の治療費の足しにと母屋を兄から買い取ったのだ。
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