就職口が見つかるまで、と、そういう話だったが、公子はこの店で働き、半年ほどがあっという間に過ぎた。 経済をきちんと公子が管理することで、夜間、男子バイトを交代で雇用することができた。昼間、公子が店番をするので、信二は夜間のバイトの管理まで手が回るようになったのだ。 「これじゃあ、公子さんを手放せなくなってしまったね。」 信二の父が言う。最初、ぎこちなかった父も、すっかり公子を信用してくれているようだった。 信二の二人の息子も、従業員のオバちゃんである公子に、なついていた。もともと子供好きな公子にとって、小学生のやんちゃ盛りの子供達は可愛くて仕方がない。 「友達が、新しいお母さんなのって、聞くんだよ。」 弟の孝太が、あどけない瞳を公子に向ける。祖父母も孝太と一緒に笑う。母は、公子の様子を伺うように、チラと見ていた。 公子は、信二の妻が、この子達を捨てて、別の男と逃げたことは、不謹慎にもある意味、深い安心のようなものを覚えていた。しかし、信二は、そのような素振りさえない。昔のまま、幼馴染のお兄ちゃんであり、仕事上の雇用者なのだ。 信二の方も、公子が手酷い失恋をしていることを知っている。腫れ物に触る素振りは見せないが、かなり気を使ってくれているのがわかる。だから、仕事を真ん中に挟んで、それ以上でも以下でもない関係を保てている。公子は、この関係が、壊れるのが恐かった。 結婚願望が引き起こした厄害を、公子は忘れてはいない。秀和が、男性経験の希薄な公子をベッドで夢中にさせ、睦言で交わした結婚ごっこを、現実と信じ込んだ愚かな自分が恐かった。信二との関係を、壊したくない。恋をしたら、正常な判断ができなくなる。そうしたら、この店での楽しさが失われる。可愛い二人の子供達と、気楽に会えなくなるのが、堪らなく恐ろしい。
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