就職活動をしながら、ぶらぶらと街をうろついていた公子は、幼馴染の、湯浅信二に出会った。自宅の酒屋をコンビニに替え、店主としてバタバタしている。信二の母親も、店の従業員として、働いていた。 「久し振りだね。少しは、元気になった?」 「はは、湯浅君も、知ってるんだ。恥ずかしい話だわ。笑ったでしょ?」 「笑うはずないだろ?本当に、ひどい目に遭ったな。」 「この年になっても、男を見る目がなかったなんてね。」 「そう言うなよ。詐欺は、騙すのがプロなんだからな。」 自作自演の寿退社劇に自分で酔って、実際に式場に申し込み、招待状を出し、違約金を支払った愚か者の女は、ここでは詐欺に騙された被害者になっている。公子は、何やら複雑な気分だった。 店の奥から、信二の母親が出て来た。 「おや、帰ってたの?もうすぐトラックが来るのに、手が回らなくって、賞味期限の点検が出来てないのよ。」 母親は、疲れた口調で刺々しい声を出した。 「あ、俺がやるよ。」 「あら、ごめんなさい。お客様。いらっしゃいませ。」 「母さん、瀬戸さんだよ。美紀の友達だった。」 美紀は、信二の妹で、公子より1つ年下の幼馴染だった。小学生の間は、よく一緒に遊んだし、ここが酒屋だったころ、配達の手伝いも一緒に遊びながらやっていた記憶がある。 「あら、公子ちゃん?まーあ、この度は、大変な目に遭われて。」 噂の根源は、やはり母親だったかと、公子は苦笑いを浮かべながら、それでも懐かしく、すっかり老け込んだ母に、挨拶をした。 「東京の大きい会社で、ずっと働いていたんですってねぇ。今は、こちらでお勤め?あなたのような方だったら、お勤め口はいくつもあるでしょうね。」 「いえ、まだ、無職なんです。就職活動中で。」 「えっ、そうなの?」 母親は一瞬嬉しそうな声を出したが、すぐに、トーンを落とした。 「東京じゃあ、高給取りだったんでしょうねぇ。」 「あ、いえ、そんなことは…。」 「母さん、そんなこと、聞かなくってもいいだろ?」 「そうなんだけど…会って早々、こんなこと言うのも何だけどね、公子ちゃん、あなたさえよかったら、お勤め口が決まるまでの、ちょっとの間でいいから、この店を手伝ってもらえないかしらね?」 「えっ?」 「母さん、何を言うんだよ?迷惑じゃないか、ごめんね、瀬戸さん、母さん、ちょっと疲れてて、ごめん。」 「いえっ、あの、お手伝いって、どういうことをすればいいんでしょうか?」 「えっ?本気なの?…ウチは、そんなに給料出せないよ。」 信二が公子の顔を覗き込む。 幼馴染が、雇用者の目になって公子を見ている。 かつて、運動神経抜群で、格好良かった2つ年上の信二が、今は弛んだ腹部と、僅かに見える白髪と、草臥れたような肌をしていると公子は思う。ここで働けるなら、秀和のことは忘れられそうだ。公子の過ちを、ほぼ知られた上での雇用は、ありがたかった。
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