公子が実家で過ごした2週間後の、挙式まで1ヶ月半に迫った頃、式場と決めているホテルから、担当者が家に来ていた。新居用の買物から戻った公子に、母親は困惑した顔を向けた。式場とは、主に公子が打合せをしていたのだ。秀和は仕事が忙しくて同席することは稀だったから。 顔馴染みになっている担当者の昭島は、上司と一緒に来ていた。一昨日、公子は打合せのため、ホテルで昭島と会っている。昭島は、公子の顔を見た途端、悲痛な面持ちで顔を歪めた。 「この度は、とんだことになってしまいまして、当方と致しましても、申し上げる言葉もなく…。」 公子は、両手いっぱいの荷物を置いて、座敷に対座した。 「公子、秀和さんから、聞いてるの?」 母が、恐い顔で、声を落として言う。 「何?何のこと?」 「破談…。あんた、こんなことっていったい…。」 「は?破談?何?何なの?えっ?わかんないっ。何?何なの?」 公子がパニックするのを見ていた、母と客人二人は、息を飲むようにしている。 公子は、部屋を飛び出し、震える手で携帯電話をかけた。出ない。 仕事中は、仕事用の携帯を持っているはずで、自分の携帯はロッカーの中だと聞いている。 公子は、職場に電話をかけた。事務員に、出張と告げられた。連絡先を教えて欲しいと食い下がる公子に、事務員は怪訝そうな声を出した。 「あの、失礼ですが、瀬戸さんは、前田とはどのようなご関係の方でいらっしゃいますか?」 「婚約者です。」 「えっ?婚約者?し、少々お待ちください。」 うろたえたような事務員の声、公子は、震えながら待つ。破談とは、いったい何のことだろう?自分に何も告げず、式場に何を告げているのだろうか。秀和の口から聞かなければ。
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