公園では人々が楽しそうに歩いている。子供も大人も老人も。あの白い建物の中に入っていく人もみんな笑顔だ。 公園の木々には青や緑の玉が実としてなっている。その玉から良い香りがしてくる。 「…はあ」 スワンは公園のベンチでため息をついた。背中の白い羽がパタパタと動いている。 「悩んでるねぇ」 急に声をかけられた。振り向くとダークがニヤニヤ笑いながら立っている。 「羽が動きまっくってる。えい」 「うわっ!」 ダークがスワンの羽の動きを止めようと掴んだ。スワンの顔が真っ赤になった。 「えっ? どうだ? 気持ちいいか?」 「はぅ…やだぁ…」 バシッ! 「痛で! なんだよ!」 「こらっ! ダーク! やめさないよ!」 ダークの後ろからスワローの声がした。どうやら2人で公園に来ていたようだ。 スワンは深呼吸すると興奮する気持ちを落ち着かせた。 「あれ? みんな来てたの?」 セガルも公園に来ていたようだ。目には黒縁の眼鏡をしている。 「あれ? どうしたの? その眼鏡?」 「ちょっと…視力の方がね…」 ダークの質問にセガルは無意識に眼鏡を動かした。まだ慣れていないのだろう。セガルの茶色い羽が微妙に動いている。 「みんな謹慎処分うけて暇なんだねぇ」 そう。私たちは許可なくエデンへ近づいたことにより、2週間の謹慎処分を受けていた。 「…ってか。あんた本当に反省してるの?」 「してるしてる。してますよ」 「嘘っぽい」 「そういうスワローだって謹慎処分受けてんじゃん」 「うっ…言わないでよ…母さんにこっぴどくしかられたんだからぁ〜」 スワローは本気で辛そうだ。そんなスワローをダークがからかい、2人のいつもの喧嘩が始まった。 「ちょっと、スワローもダークもやめてよ。私達一応家で待機してなきゃならないんだから」 セガルが眼鏡をズレを気にしながら2人の喧嘩をとめようとする。 「…はあ〜」 スワンのため息に3人は動きを止めた。またスワンの羽がパタパタと動いている。 「なに? 腹でも痛いのか?」 ダークが腹をポンと叩いた。 「違うわよ。恋よ。恋わずらい」 スワローがさっとダークに耳打ちした。 「…どっちも違うような気がするけど。どうしたの?」 セガルがスワンに聞いてきた。 「ねえ。エデンに入るにはどうしたらいいの?」 「………」 「………」 「………」
「「「はっ!?」」」
「なに? 私なんかすごいこと言った?」 「あんたね…ダークじゃないんだから学習しなさいよ」 スワローが呆れるように言った。 「それはどういう意味だ?」 「そのまんまの意味よ」 「まっ、まあまあ。スワン。またエデンに無理矢理入り込むってこと」 スワローとダークを牽制しながらセガルが聞いてきた。 「ううん」 スワンは首を振った。髪がさらりと揺れる。 「別の方法でエデンに入ることができないかなって。誰にも叱られない方法」 「なんだ…」 セガルがほっと胸をなでおろした。眼鏡がまた微妙にズレた。茶色い羽も微妙に動いた。 「でも…エデンに入るのって座天使ぐらいの階級じゃないと無理なんじゃない?」 スワローが腰に手を当てて言った。 「なに座天使って?」 サッとダークが手をあげた。 「…あんた…どうしてそんなことも知らないの?」 「あっ…あの〜」 「なに? スワン?」 「私も知らない…」 「…嘘でしょう」 スワローは仕方なく地面に図を描き始めた。3人は興味深そうにその様子を見つめている。 「いい…天使には9つの階級があって―」
■ 下級天使 天使(エンジェルズ) 大天使(アークエンジェルズ) 権天使(プリンシパリティーズ)
■ 中級天使 能天使(パワーズ) 力天使(ヴァーチュズ) 主天使(ドミニオンズ)
■ 上級天使 座天使(スローンズ) 智天使(ケルビム) 熾天使(セラフィム)
「―こういうふうなピラミッド型になってるの」 「はい」 「はいダークちゃん」 スワローはビッとダークを指差した。 「どうして天使のほうが範囲が広いんですか?」 ダークはピラミッドの最下層を指差した。 「それはね。天使は一番階級が低くって、人数が多いからピラミッドの中で範囲が広いの。ちなみに熾天使は頂点にいる天使だから人数も少ないの」 スワローは髪をかきあげると自慢げに言った。茶髪の髪がキラキラと輝いた。羽もピンと伸びている。 「…はい」 「はいスワンさん」 「私達の階級はどこになるの?」 「当然…一番下。天使よ」 スワンはガクリと首をうな垂れた。 「道は遠いね」 セガルは励ますようにスワンの肩をポンと叩いた。 「これは豆知識なんだけど。私達の天使の性別は女が一番多くて次に中性的存在(ナチュラル)が多いの。男は全体数で見てみると少ないのね」 「それで女神の日なんてものがあるのね」 セガルがポンと手を叩いた。 「私達天使は神の模倣者である『コピーイング』、つまり地上人ね、と似ていると言われているわ」 「じゃあ…エデンに行くには上級天使にならないと駄目なんだ」 スワンはがっかりしたまま言った。 「まあそうね。はっきり言って無理だわ」 スワローははっきりと言った。それを見てセガルが慌てて「シー」っとスワローにジェスチャーした。スワンの体から黒いオーラが醸しだされている。 「あっ…ああ…ごめんごめん。でも方法が1つあるわよ」 「えっ!? なに!?」 スワンが即効で飛びついた。スワローはそんなスワンの行動にちょっと引いた。 「ミカエル様に聞いてみるの。きっと良い知恵を授けてくれるわ」 スワローは手をあわせ握ると太陽に向かって羽を広げた。 「…単に会いたいだけだろ」 ダークが呟くようにボソッと言った。 「…ミカエル様に…」 スワンは空を見上げると雲の奥の奥を眺めた。
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