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作品名:堕天使の葬列 第一幕 作者:牛を飼う男

第4回   エデンの傍で(2)
 蛇は人間に近づいたがどう自分があの塔へ行きたがっているか伝えるか考えていた。なぜなら、蛇は人間の言葉を知らなかった。とりあえず体で塔へ行きたがっていることを示そうとクネクネ回った。
 男は蛇の様子をしばらく見ていたがやがて何か閃いたように言った。
「なんだ私と一緒に行きたいのか?」
 男は冗談半分だったが、蛇は塔へと舌をだした。実は蛇は人間の言葉などわかっていなかった。ただ必死で塔へ行きたいとアピールしているだけだった。
「そうかそうか。それでは来なさい」
 男は都合よく蛇の動きを思い通りに解釈した。
 男は蛇を掴むと肩に乗せた。
 蛇は男に自分の意思が伝わったので喜んで舌を出した。
 男と蛇の1人と1匹は塔へと歩き始めた。

***

 ダークとスワローとセガルとスワンの4人はエデンの傍まで降り立った。樹でできた囲いの傍には門番の天使が立っている。
「うわっ…強そう…」
 ダークが指をかんだ。
 門番は薄い布地から筋肉質な体が見える。
「あんた…もしかして門番を倒す気じゃないでしょうね?」
「そうだよ?」
「…馬鹿だわ…昔から馬鹿だと思ったけど本当に馬鹿」
「なんだよ〜、駄目なのかよ」
 ダークとスワローが言い合いを始めた。
「やっぱり無理よ。あんな門番勝てっこないし、もし捕まったら天罰が下るわ」
「なんだよ大丈夫だよ」
「はいはい。親子喧嘩はやめてね」
 セガルが2人の言い合いを止めようと冗談を言った。ダークは肌が黒っぽく体が小さい。スワローは白っぽい肌に背が高く老け顔なので、2人を見ていると確かに親子に見える。
「親子じゃない!!」
 ついスワローが大声で言ってしまった。「はっ」としてスワローは手で口を押さえた。
「馬鹿…遅いっつーの」
 ダークが「あ〜あ」と声を漏らした。
「誰だ!!」
 門番が声に気づいて4人のほうへと身構えた。
「1抜けた」
 ダークが素早くその場を離れた。
「えっ!? ちょっと!?」
「まっ、待ってよ」
 スワローとセガルが慌ててダークを追いかけた。
「こら!! 待たんか!!」
 門番が気配に気づいて侵入者を追いかけていった。

 …後に残されたのは逃げ遅れたスワン1人だけだった。
「…どうしよ」
 つい反射的に傍の茂みに隠れてしまった。運よく見張りには気づかれなかったが1人になってしまった。
「やっぱり私も離れたほうが…」

ガサッ

 「ビクッ」とスワンは体を震わせた。後ろの草むらで何かが動いた。
「…何?」
 恐る恐る後ろを振り向いた。そこには誰もいなかった。
「誰も…いない…」
「ここですよ。ここ」
「えっ?」
 声がした。草むらがサワサワと風に揺らいでるだけで何も見えない。暖かい日差しと鳥の鳴き声が周りから聞こえてくる。
「しょうがないですね…」
 声の主は草むらから顔を出した。
「私ですよ」
 ひょこっと出てきたのは蛇だった。スワンは特段驚くこともなく蛇を見下げた。
「あなたがしゃべってたの?」
「そうです。私があなたに話しかけました」
「ここで何をしてるの?」
「それはこっちのセリフですよ。天使にとってここは禁止区域でしょう?」
「まっまあそうね…」
 スワンは痛いところをつかれたと思った。
 スワンは腰をおろすと蛇と対面した。蛇は緑色の鱗に黒い瞳で「シュ」と何度も舌を出している。
「まあ私もあなた達と似たようなものですが…それにしてもあとの3人は不幸でしたね」
「あっ! どうしよ…」
「ほおっておいても大丈夫でしょう。あなた達天使は神の加護がありますから。例え捕まったとしても叱責だけで終わりますよ。…私達と違って…」
「えっなに?」
「いえ…なんでもありませんよ。そんなことよりエデンの中に入りたいと思いませんか?」
「えっ? 入れるの?」
「ええ、抜け道がありますから。どうですかエデンに入るために来たのでしょう?」
 蛇は悠長なしゃべりでスワンを誘った。
 スワンは少し迷ったが、あの罪人のことを思い出した。あの悲しそうな瞳の理由を知りたい。そのためにここに来たんだ。
「わかった。どこから入れるの?」
 蛇は「シュ」と舌を出した。表情は読めないがどこか笑っているように見えた。
「それでは行きましょう。ついて来てください」
 蛇はスルスルと草むらを移動していく。スワンはその後をついてく。
「痛たた…」
 スワンの髪が木の枝に引っかかった。
「気をつけてくださいよ」
「小さいのは便利ね」
「それはありがとうございます」
 蛇はスワンの嫌味を無視してさっさと先へと急ぐ。やがて鉄の金網が姿を現した。
「なに…この金網?」
「侵入者を防ぐためですよ。古典的ですがその金網に触れるだけでさっきの門番が飛んでくる仕組みになってます」
「へえ〜」
 スワンは金網をまじまじと眺めた。金網の隙間はスワンの手を握り締めたぐらいしかないのでとうてい通り抜けられない。金網を掴んで上ろうとすればさっきの門番に気づかれてしまう。
「じゃあ飛べばいいんだ」
 スワンは白い羽を広げようとした時、
「駄目です!」
 蛇が小さく大声をあげた。
「えっ?」
「この金網から上は透明な『神糸』で出来ています。飛んで中に入ろうとすれば粘着し、体が動かなくなります」
「そうなの?」
「木の実を食べにくる鳥を防ぐための処置ですよ。あなた達天使に対してもね。ここは禁止区域ですよ? 普通に考えれば何か罠があるに違いないと気づくでしょう?」
 蛇の嫌味にスワンは少しムカッとした。
「じゃあどうして地面は金網なのよ」
「それはミミズなど土を豊かにしてくれる微生物は進入をゆるされているからですよ。あくまで『禁断の果実』だけは例外で、あらゆる生き物は食べてはならないですから」
「果実を食べる虫だっているわ」
「それはこの金網の向こうの土で排除されます。彼らにとって有害な物質がありますから。それに『禁断の果実』の周りには霧と湖がありますから泳げないものはそこで溺れ死にます。…これは教科書で習う内容だと思いますが?」
 スワンは逆効果だったと後悔した。自分の無知さをさらけだしてしまったからだ。
「…わかった。ごめんなさい。それでどうやってこの金網を抜けるの?」
 スワンは負けを認めた。
「…無理ですね」
 蛇はため息をついた。
「えっ? なにが?」
「この金網の向こうにある『禁断の果実』のなる神聖樹に到達すること…がです」
「どうして?」
「…アダムが開けた穴が塞がれています。対応が早い」
 蛇は首を振った。
「アダム…」
 スワンは蛇がアダムのことを知っていたので驚いた。
「きますね」
「えっ、何が?」
「さっきの門番ですよ。どうやらお仲間の天使様が捕まって、あなたのことを白状したみたいですね」
「えっ!? どっどうするの!?」
「私は逃げますよ。見つかったらただではすみませんから。あなたは捕まっても大丈夫です」
 蛇は金網をスルスルと抜けると奥の森へと向かっていく。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
「大丈夫ですよ。あっ、私のことはくれぐれも内密に…」
「違う!」
 スワンはつい興奮して金網をつかんだ。
「…あの人のことを…アダムのことを教えて!!」
 蛇はピクリと動きを止めた。しばらく蛇は考えているようだ。スワンにとってその時間はとてつもなく長く感じていた。
「なぜ? アダムのことを知りたいと?」

「あの人の…あの人の涙の理由を知りたいの!!」

 咄嗟に出た言葉だった。蛇は何も言わず、黙って聞いていた。
「…そうですね。あなたがこの禁止区域に入れる立場の天使様になれたのであれば…」
 蛇は振り向かなかった。そのまま再び森の奥へと進み始めた。

「…真実を…教えてさしあげますよ…」

 蛇はボソリと呟くように言った。だが、スワンにははっきりと聞こえた。
「絶対よ!! 私は必ずあなたの所まで行くから!!」
 スワンは叫んだ。蛇は何も答えず、森の奥へと入っていった。

 ―その後、私達4人はこっぴどく叱責され。家へとしばらく謹慎処分を受けた。


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