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作品名:赤い雫 作者:牛を飼う男

第26回   地下シェルター(6)
 公園には色々な遊具があった。すべり台、ブランコ、鉄棒、ジャングル…どれも錆びついてて塗料のはげたものばかりだった。そんな公園の中央で子供達が集まっていた。
 子供達の輪の中にはクマが立っていた。正確にはクマのぬいぐるみを着た人間がたっていた。だが、子供にとってはそんなことはどうでもいいようだ。
 丸い耳、大きな目、口元には鋭い牙どころか笑みをうかべている。
 1人の女の子が「可愛い」と近づいていく。その表情は恍惚としており警戒心もないようだ。皆が何の疑いもなくクマの所へと集まっていく。
 僕はそれをポツンと見ていた。
 1人が好きというわけではない。皆と馴染もうとしないわけではない。孤独になりたいわけではない。
 そのクマが恐いのだ。
 クマが恐くて近づけない。なぜ皆があれに集まるのか理解できない。わからない。

 人と共感できない僕はこの世界では絶対的な孤独の中にあった―。

 シトシト…シトシト…

 雨が降っていた。大雨ではない。小雨程度の雨だ。
 大きな樹の傍で雨宿りしていた。茶色のザワリとした樹の幹。そこに頭をおいて遥か遠くを眺めていた。足を地面に投げ出し、腰をおろしながら。
 その先には何もない原っぱが広がっていた。小雨がいくつもの水溜りをつくっている。
 バシャバシャ。
 水溜りが弾かれる音がする。音の方をみると何人かの子供が楽しそうに遊んでいる。水溜りを蹴ったり、かけあったりと面白そうに。
 バシャバシャ。
「…お前はいかないのか?」
 1人。子供達の輪に入らずこちらを見つめている男の子がいた。小雨が少年の長い前髪を濡らし、大きな瞳は真っ直ぐこちらを向いている。
「…ここで何をしているの?」
 少年は高揚のない声で尋ねてくる。
「…君はもしかして天使かい?」
「…違うよ」
「だろうね。何せ俺は―」
 言葉が詰まった。だが、そのまま一気に言った。
「―彼女を轢き殺したからね」
 シトシト…シトシト…
「じゃあ…君は地獄の使者かい?」
「どちらでもないよ」
「そうか…どちらでもないのか…」
 視線をその子から遊んでいる子供達へと移す。数えてみると12人いる。するとこの子をいれて13人になるのか。
「…昔からなんだよ。俺は皆と違うと思ったのは」
「人は皆違うよ」
「ああ、そうだね。だけどそんなことじゃないんだ」
 右手をすくうように伸ばした。手の中に雨の雫が落ちてくる。
「皆が可愛いと思うもの。普通だと思うもの。綺麗だと思うもの。俺にはそれが異様なものに見えるんだ」
 少年は黙っている。
「例えばそうだな。この雨。君はこの雨に何を感じる?」
 少年は黙ったまま掌に落ちた雨を見つめた。小さく透明な雫が地面へと落ちていく。
「俺には赤い花びらに見える。この雨が体に触れた瞬間それは水ではなく花になるんだ。…理解できるか? 俺のことを?」
 少年は首を小さく横にふった。
 俺は少し笑った。それはおかしかったからではない。理解されないという小さな絶望からだ。
「極端に違う独自の思考は人を集団から疎外させる。誰にも理解されないという絶望からくる孤独。この世界は俺にとっては苦痛でしかない」
 自分の手の平に落ちた水玉が、赤い花びらとなって地面へと落ちる。甘く、芳しい匂いが鼻に入ってくる。
「まさしく地獄さ。全世界の情報が共有された結果人は皆集団幻想を見るようになった。それが正しく、それが正義で、それが模範的だった。だけどそこからあぶれた者はどうすればいいのだろうか? そこからはみだした者はどう生きればいいのだろうか? 誰もそれが正しいと認めてくれないというのに」
 手に赤い花びらが溢れてくる。その感触がふわふわとして気持ちいい。
「だから俺は不幸だった。仕事が出来ても、彼女ができても、婚約した仲であっても…」
「だから殺したの?」
 少年は濡れた瞳で自分を見つめ続ける。
「ああ…そうだよ。彼女とはどのみち…共感しあうことなど出来ないだろうから…」
「あなたも死んだよ?」
「そうだな。俺も死んだ。動揺したのかな。対向車に衝突しちまった。本当はこんな世界では死にたくなかったんだ」
「どうして?」
「皆が悲しむからさ―同情と非難。まさしく地獄だ」
 空を見上げると雨が赤い花びらへと変わっていた。ヒラヒラとそれらは自由な空を踊っていた。それはとても綺麗で心が揺れた。
「―あなたの望みは何?」

「…両目を潰してくれないか? もう二度と地獄を見ないように」

***

「ぬおっ!?」
 巨大ミミズ、アイロストは紫色の舌で攻撃してきた。「ズドッ!!」と地面がえぐられる。カンタロウと2体となったガーディアン、カメとウサギは素早く身をかわした。
 カンタロウは瓦礫となった大きな岩の陰に隠れた。
「どうしてこんな所でエコーズに出会うんだ!? 建設途中で誰も気づかなかったのか?」
 アイロストは標的をカンタロウから2体のガーディアンに変えたようだ。岩陰から様子を伺うとガーディアン目指して巨大な体をうねらせている。
 ガーディアン達はアイロストの長い舌攻撃をかわしながら瓦礫から瓦礫へと飛び移っている。その俊敏な動きにアイロストも苦心しているようだ。これなら時間がある程度稼げる。
 カンタロウは自分が落ちてきた施設の階を見上げた。
「…20…いや30メートルか…高いな」
 飛び上がるのは無理だ。赤眼化できれば『13人の赤眼の者』の力で翼を具現化し飛ぶことが出来る。しかし、無菌状態では赤眼化することができない。
 キク達に助けてもらうか? いや、声で気づかれるうえにキク達にも危険がおよぶ。
 それでは近くの窓を割って施設に入り込むか。あの分厚いガラスを剣で切り裂くことができるだろうか? 俺は超人でも達人でもないから自信がない。
「だが…この状況から逃れるには他にないか…」
ズンッ!!
「おわっ!?」
 近くの岩で何かがぶつかった。カンタロウは反射的に両手で頭を押さえた。それは大きく跳躍し、カンタロウのすぐ後ろを転がっていく。
「カメのガーディアン…こうもあっさり」
 カメのガーディアンはアイロストに攻撃され弾き飛ばされたようだ。体から青白い電気がパチパチと音をたてている。
 アイロストの方へ視線を戻すとウサギのガーディアンが攻撃を仕掛けている。着ぐるみから飛び出した刃物でアイロストの体を切りつける。「キン!」という金属音がしただけでアイロストは痛みの悲鳴もあげない。
「なんちゅう硬い体だ…あの力を持ってしても傷1つつけることができないのかよ」
 カンタロウの額から透明な汗が流れ落ちる。
 このままではあの機械人形もすぐに壊される。その前にあのエコーズから逃げ出さなければこっちがやられる。
「…よし。やるだけやってみるか」
ズドン!!
 地面が大きく揺れた。危うくカンタロウは地面に倒れそうになった。何が起こったのかわからず顔を上げると、アイロストがウサギのガーディアンをその巨大な体で踏み潰していた。憐れにもウサギのガーディアンは即死したようにバラバラの部品へと化していた。
 アイロストは敵を始末し終えるとキョロキョロと周りを見回した。鋭い牙のある巨大な口から粘っこいヨダレがダラダラと地面へと落ちる。まるで飢えたオオカミのようだ。
(…よし、こっちには気づいていない…今のうちに…)
 カンタロウはコソコソと施設へと近づいていく。本当はアイロストが完全にいなくなってから行動を開始したいが、いつキク達が来てやっかいなことをしでかすかわからない。
 …まあキクは大丈夫だがソネットはなあ。
 そんなことを心で思っていると、いきなり地面に転がっていたカメのガーディアンが激しく痙攣し始めた。「ギギッ!!」っと悲鳴のような金属音が廃墟の町に木霊する。
(なっ!? おい!?)
 カンタロウは心の中で叫んだがすでに時は遅かった。背中から臭い風が吹いてくる。
 アイロストは大きな口を開き、紫色の舌を出してカンタロウの方に体を向けていた。
シュッ!!
 アイロストの攻撃は素早かった。カンタロウは逃げるように飛び上がった。アイロストの紫色の舌は正確にカメのガーディアンを捉え、その体を藻屑へと変えた。ガーディアンはこれですべて壊されてしまった。
「くっ、くそ! …」 
 カンタロウは立ち上がった途端、恐怖で体が凍りついた。目の前には巨大なミミズ姿のエコーズがズルズルとカンタロウに近づいていた。
(にっ…逃げる隙がない…)
 アイロストは完全にカンタロウを攻撃できる間合いにいた。紫色の舌がダラリとたれ、そこから大量のヨダレが流れ落ちた。
「ぐっ…あっ…」
 カンタロウは刀を構える余裕すらなかった。壁際の隅に追いやられた鼠のように、天敵を前にして硬直したまま立ち尽くしている。体中から汗がダラダラと流れていく。
「………」
 アイロストは大口を開いたままカンタロウの前から動かない。まるで獲物をいたぶることが楽しいかのようにいつまでも攻撃を仕掛けてこない。カンタロウは口から胃液が出るのを我慢している。
「………」
 アイロストは何も言わず、急に向きを変えた。
「?」
 そのままアイロストは廃墟の方へと戻っていく。恐らくあの廃墟の奥に巣があるのだろう。ズルズルと巨大な体を引きずっていく。
(…もしかしてあのエコーズ…目が見えないのか?)
 そういえばエコーズが皆持っている赤い目をアイツは持っていない。どういう理由で目を失ったのかは知らないが…。
(…助かった)
 カンタロウは安堵の息を吐いた。もちろん気づかれないようにだ。
 これでキク達の元へと無事戻れる…。
「お〜い!! カンタロウ!!」
 突然上からソネットの大声が聞こえてきた。カンタロウの心臓が飛び上がった。
(あっ…あの馬鹿!!)
 上を見上げるとソネットが、ガーディアンが破った窓から呑気に手を振っていた。どうやらエコーズが闇に隠れてしまったのでこの緊迫状況がわからないようだ。
 カンタロウは慌てて人差し指で口を押さえた。黙れという合図だ。だが、ソネットはその合図がわからないのか首をかしげた。
「えっ!? 何!? わかんない??」
「どうしたの? カンタロウは無事?」
「うん無事みたい。だけど何をしてるのかわかんない」
「…ったく。それにしても不気味な廃墟ね。灯りがないからさっぱりわかんないけど」
 カンタロウが無事みたいなのでキクは安心して遠くを眺めた。遠くの闇で何かが蠢いている。
「…?」
 キクはそれが何なのかまだわからなかった。
(くっ! 黙れって…)
 カンタロウはアイロストがこちらに気づいて攻撃を仕掛けてこないか心配になり、視線をソネットからとりあえず外した。
「…?…」
 すでにアイロストは遠くの闇に入っていた。そのまま進路を変更することなく自分の巣へと戻っていく。ソネットの大声にも気づいていないようだ。
「…あのエコーズ…目だけじゃなく耳も聞こえないのか? …じゃあどうやって俺達の存在に気づいたんだ?」
 奇妙な違和感。この不協和音にカンタロウの体がザワめき始める。
「…どうやって…あの機械人形と俺を…」
「カンタロウ! とりあえずそこに行くからね!」
 上でソネットが叫んでいる。やはりアイロストは気づいていない。
(…そういえば…一番初めの攻撃は…)
「とうっ!」
 ソネットが窓から飛び降りる。この高さからなら無事着地できると判断したのだろう。ソネットは何の疑問も抱かずにカンタロウのいる廃墟の地面へと落ちていく。
(…あの機械人形が降りてきて…すぐにあの舌攻撃が…)
 カンタロウの頭の中でさっきまでの光景は蘇る。そして頭にバチッと電気が流れ、あることに気づいた。
 ―まさか。
 「ハッ!」として上を見上げる。すでにソネットが空を舞っている。もう間に合わない。
 すぐにソネットに標準を合わし、カンタロウは両手を前へと広げた。ソネットを受け止めるつもりなのだ。それに気づいたソネットは驚いてカンタロウに向かって叫んだ。
「馬鹿! 何してんのよ!」
「馬鹿はお前だ! アイツは地面の振動で敵を判別してたんだよ!」
「はっ!?」
 ズンッ!
 意味がわからないソネットはそのままカンタロウの腕の中に落ちた。カンタロウはソネットを抱きかかえると顔をアイロストに向けた。スローモーションのようにアイロストの頭が動き、再び敵を認識した。
「くそっ! やっぱり…」
 シュッ!
 アイロストの長い舌がカンタロウ達へと仕向けられた。そのあまりにも正確な攻撃にカンタロウは驚愕した。
(速い! このままじゃ直撃する!)
 自然とカンタロウは舌に背を向けソネットを庇った。カンタロウの反射神経はさらに背をよじらせた。そのおかげで直撃を受けずにすんだものの、左脇の背にアイロストの舌が当たった。
「ぐはっ!」
 カンタロウの鎧が砕け地面に飛び散った。そのまま舌は施設の壁を簡単に突き破った。その衝撃で壁の残骸がカンタロウ達に向かって降り注がれていく。
「くっそう!!」
 カンタロウは最後の力でソネットを抱きかかえたまま施設の中へと飛び込んだ。運よく瓦礫をかわすことができた。
 アイロストの攻撃を受けた施設は一瞬にして電気系統を滞らせた。カンタロウの上でパチパチと蛍光灯が断末魔をあげている。
「ぐっ…骨には当たらなかったが…筋肉が抉れたように痛え…」
 カンタロウは無事を確かめようと廊下に投げ出したソネットに苦悶の顔を向けた。
「………」
「? ソネット? …おい! ソネット!」
 ソネットの返事がない。頭から赤い血が流れ落ちている。
「くっ…ソネット…」
 カンタロウは痛む背を我慢しながら這いずるようにソネットに近づいた。なんとかソネットの頭を持ち上げるとソネットは両目を閉じたまま意識を失っていた。
「…よかった…息をしてる…壁に頭をぶつけたのか? …心配させるなよ」
 
『…かえりたい…かえり…たい…』

 ビクリとカンタロウの背が震えた。額から嫌な汗が流れていく。目を大きく見開き、後ろを振り向くと…そこには巨大ミミズが大口を開いていた。
『…おまえ…たち…が…うら…やましい…』
「…なんだと」
 アイロストの口から言葉が漏れる。
『キボウ…ミライ…アイ…ユウジョウ…キョウリョク…チームワーク…アカルイ…どれも…どれもきらいな…きらいなことば…だ』
「………」
『アノ…セカイ…ジゴク…だった…コトバが…だれがつくったのかも…わからない…イミフメイな…コトバが…ヒトを…シハイ…してた』
 アイロストは独り言のように呟く。
『コウフクが…なければ…フコウも…ない…ヒカリが…なければ…ヤミも…ない…ダレモ…ダレモ…リカイ…できない』
 アイロストの口から紫色の舌がたれる。それは真っ直ぐカンタロウ達に向けられる。

『―ココは…テンゴク…オレの…テンゴク…オレだけの…テンゴク』

 アイロストの口元が…微かだが笑ったような気がした。


「…まさかっ…あれは」
 キクは窓際から下界の様子を覗いていた。暗闇から急に現れた巨大ミミズ。それが長い舌でカンタロウ達に攻撃を加えた。
 それから巨大ミミズは施設の傍で何かを呟いている。もしかしたらカンタロウ達は生きているのかもしれない。
「とにかくあの2人の生死を確かめなきゃね」
 生きていることを祈りつつキクは施設の廊下をバンバンと飛び上がった。キクはカンタロウの『地面の振動で敵を判断する』という言葉を聞いていたのだ。そこでアイロストに注意を向けさせようと激しく廊下で音をたてた。
 しかし、アイロストは振動に気づくことなく動かない。
「ここでは無理みたいね。…それなら!」
 キクは後ろに数歩下がると息を大きく吸った。
「大きな音をたてさせてやろうじゃないか!」
 おもいっきり走ると破れた窓から下の廃墟へと飛び出した。湿った風がキクを押し上げ、遠くへと向かわせる。体に空気が切れる感触がし、湿った地面へと着地した。
「!?」
 アイロストが大きな地面の振動に驚き体の向きを変える。
「よし! 来い!」
 キクは地面を走り廃墟へと向かった。
(カンタロウの言葉から察するに、あのエコーズは目が見えないし、耳も聞こえない。とりあえず廃墟に身を隠してチャンスを待てば打つ手はある)
 キクはそう考えエコーズの動きを見ようとチラリと後ろを見た。
 ズッ! ズズッ!!
 アイロストはその体に似合わず動きが速く。すでに標的をキクへと変えすぐ後ろへと向かっていた。
(はっ、速! 何あの動き!)
 普通ミミズは全身運動で動くものだけどあのエコーズは異常に速い。このままじゃ追いつかれる。
 アイロストの口から紫色の舌が見える。キクに狙いをさだめているのだ。
(そうはさせるかっての!)
 キクはジグザグに廃墟から廃墟へと飛び移った。元々こういう場面での戦闘は馴れているのだ。狙いどおりアイロストは舌攻撃をしてこない。下手に攻撃して外せば獲物に逃げられるからである。
 キクはうまく廃墟の瓦礫を剣で振り落とし、自分の居場所を拡散した後岩陰に隠れた。
(やっぱりマルスオフと違う。あの慎重さといい攻撃方法といい知性がある。…あながち旧世界の人間だったってのは本当かもね…)
 アイロストはいくつもの音に惑わされることなく、確実にキクの元へと向かってくる。だが、動きが緩慢でさっきまでの速さがない。どうやら効果はあったようだ。動きから迷いが見える。
(…さてと…どうしようかね)
 キクは岩陰からアイロストの対抗策を考え始めた。


「? …なんだ? エコーズが離れた?」
 急にエコーズがいなくなったのでカンタロウは呆気にとられていた。
「そうか…キクだな」
 ったく。相変わらず頼りになる奴だ。
 カンタロウはソネットを丁寧に地面に寝かせた。
「とりあえず助かったぜ。ソネット。お前はここで休んでろ」
「………」
「すまないな。今は血を止める布すらないんだ。さっきの攻撃でなくしたらしい」
 カンタロウは気絶しているソネットにニッと笑う。
「今から相棒を助けに行く。俺達に何かあっても、お前だけは生きていてくれ。ダンテ達を頼んだぞ。あいつは俺の一番弟子だからな。…まあ師匠らしいことまだしてないけど」
 カンタロウは痛む背を我慢しながら立ち上がった。施設から出て行く時に脳裏にキクの言葉が浮かんだ。

『―うん…生き続けて良かった―』
 
 キクがあの赤い雪の中、両手を空に広げて言ったあの言葉…。

「くっ…嫌なことを思い出すぜ」


『地下シェルター(6):了』


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