『本部へ緊急事態発生!』
本日女神による『世界編成実験』を開始する予定でしたが、システムの不備により実験は中止。サンプルである女神が到着予定でしたがそれも未確認です。 実験の中止理由:『十の獣』によってエリニュス・第5研究所地下シェルターが占拠されました。 施設内にいるS級犯罪者名:『イボガエル』『イナゴ』『ハイエナ』『キング兄弟』『ナメクジ』『π』『オオムカデ』『イモムシ』『?(詳細不明)』の十名。 鎮圧部隊は全滅。研究チーム、技術チームはイナゴの毒により全滅。管理スタッフ及び所長は行方不明。なお、帝軍対策用人体兵器『ナメクジ』『オオムカデ』『イモムシ』は『十の獣』と繋がっていた模様。 対マルスオフ用兵器ガ―ディアンが起動中。こちらの指示に従いません。 早急に指示を
(メールが途中で途切れています。返信しますか?)
―『十の獣』が施設を占拠する5時間前 スダチはガーディアンを保管する倉庫の中にいた。ガーディアンは人型で身長は180cm、体重は100kgを軽く超える。全身の筋肉は金属で出来ている。全部で四体だ。 「…今日も調子が良さそうだ」 スダチはガーディアンの視角部分を除いた。探敵機能のついた高性能な部分だ。赤い光りが敵に恐怖を与える。 武器は銃火器だけは外している。あくまでこれらガーディアンは女神を守るために造られたため、銃など外界に与えるダメージの大きいものは使えない。主に刃か素手による殴打が攻撃のメインになる。そのぶん、ガードは固くしておりあの『13人の赤眼の者』の術をくらってもすぐには壊れない設計になっている。 スダチは隣にいる機械犬のソニックの頭を撫でた。 「またここにいた」 後ろで呆れた声が聞こえた。振り向くとエイコが倉庫の入り口前に立っていた。 「そんなに自分の作品が素晴らしい?」 「まあね」 エイコの多少嫌味とも言える言動にスダチは素直に答えた。 「…あっそう。今日もソニックはお穣ちゃんの傍じゃないのね」 「仕方ないさ。あんなことがあったんだから」 スダチはガーディアンに向き直って言った。 「まさかソニックがお穣ちゃんに咬みつくなんてね。所長の奥さん、それが元で病気になったんだって怒りまくってたわよ」 すっかり所長の娘と疎遠になった2人は、娘が遺体安置所に移送されていることを知らないでいた。 「まさか。検査の結果狂犬病ではなかったんだろ?」 「人間不測の事態が起こると誰かに責任を求めたがるものよ。あなたも覚悟しておいたほうがいいんじゃない? ソニックの設計者さん」 ―嫌味な女だ。 スダチは心の中でそう思う。 エイコが出世のために所長の娘さんに取り入っていることは知っている。そのためか、ガーディアンを開発し、施設内のシステムを造りだした自分を何かとライバル視してくるのだ。 「まあ…その時はその時さ」 「……そういえばさ。どうしてそんな機械犬なんて造ったの?」 エイコはスダチの反応が予想と違い冷静だったので面白くなさそうに話題を変えてきた。 「何かの役にはたつんじゃないかと思ってね」 「犬が何の役にたつのよ。番犬やお穣ちゃんのお守りぐらいしかできないじゃない」 「…誰だって何かの役にはたつものさ」 スダチは意味ありげに微笑んだ。 ソニックは元々マルスオフに襲われて瀕死の重傷を負っていた。それをスダチが拾ってきて体中に改造の手を加えたのである。幸か、不幸かソニックは再び生を得ることができ、スダチを主人として慕っている。 「…あっ、そう」 エイコはツカツカとスダチの元へと歩み寄る。スダチはその淡白な行動につい後ずさってしまった。 「別に何もしないって」 「………」 「ほら」 エイコはスダチに何かを渡した。それはよく冷えたペットボトルの水だった。スダチの手からひんやりとした気持ちいい感触が伝わってくる。 エイコはスダチに水を渡すとガーディアンに向き合った。 「―届かない」 「えっ?」 エイコはガーディアンの頭部に向かって手を伸ばした。エイコの身長であればすぐに届くはずだ。それなのにエイコは頭部に触れようとしない。
「―いくら手を伸ばしても…届かない」
「………」 エイコの行動の意味がわからずスダチは黙り込むしかなかった。しばらくエイコは黙っていたが、大きく背伸びをするとスダチの方を向いた。 「さて、それじゃ私は行くわ」 「…ああ」 「はやく仕事に戻りなさい…っと」 倉庫の出口に向かうエイコの足がとまった。その前に小さな女の子が立っていたからだ。 「あら! こんな所でどうしたの?」 さっきとはまるで違う猫なで声で対応する。どうやら所長の娘さんのようだ。 エイコは娘に近づいていく。 すごい変わりようだなとスダチは思った。 「ウウウゥゥ!!」 「? どうしたソニック?」 ソニックが突然唸りだした。その顔は敵意を剥きだしにしている。 『―暑い』 娘が低い声でしゃべった。 「えっ?」 エイコが疑問の声を発すると同時に宙に浮いた。いや、正確には弾き飛ばされたのだ。何かに斬りつけられたのかエイコの鮮血が床に飛び散る。 「あっ…うっ…」 スダチは突然の事なので呻くことしかできない。 『乾く…暑くて乾く…』 娘の体にエイコの鮮血がかかる。その鮮血が娘の体の中に吸収されていく。 『美味い…もっとほしい』 声は可愛らしいが、娘は恐ろしい事を言う。 「ワン! ワン!」 ソニックが娘に飛びかかる。娘は「ブン!」と腕を一振りし、ソニックを弾き飛ばした。腕から甲殻類の殻のような刃物が飛び出ている。 『もっと…もっと…血がほしい』 娘は血を流し倒れているエイコに視線を移した。エイコは床に横たわったまま呻いている。まだ生きているようだ。ソニックもその近くで倒れている。 『―暑い』 娘の体から小さな短剣のような刃物が飛び出た。それはエイコに真っ直ぐと向けられている。 「…なにが…」 気がついたエイコが起き上がり状況を見て恐怖で顔がひきつった。娘だと思っていたものが鋭利な刃物をこちらに向けている。何が起こっているのかまだ状況が理解できないようだ。 ビュン! 刃物がエイコに向かって飛ばされる。エイコが小さく悲鳴を上げた。 ドスッ! 「………」 エイコがゆっくりと目を開けると目の前にはスダチがいた。スダチは体をはってエイコを庇ったのだ。スダチの心臓に殻の刃物が突き刺さっていた。 「…ううっ」 スダチはそれだけ言うと床に倒れた。ネームプレートが回転しながら床を転がる。 エイコは最後の力を込めてスダチを抱きかかえた。 「………」 スダチはエイコを見上げると安堵したかのように静かに目を閉じた。それからスダチが目を開けることは二度となかった。 エイコはスダチの懐から護身用の銃を取り出すと娘に向けた。 「はっ…はっ…」 エイコの目から恐怖と悲しみと恐れが見えた。娘はそんなエイコの姿を見て微笑んだ。その残酷な笑みにエイコの鼓動がますます高鳴った。 「動かないで!」 エイコの元へと歩もうとする娘を威嚇する。しかし、娘は銃など恐くもなさそうにゆっくりと向かってくる。ほどよい距離をとると娘の動きが止まった。 「ソニック! そのネームプレートを持って逃げなさい!」 ソニックは体に傷は負ったもののまだ動くことができた。再び娘に向かって唸り始める。 「ソニック! 言うことを聞きなさい!」 エイコが叫んでもソニックは動こうとしなかった。主人ではないエイコには従わないのである。 「ソニック!!」 エイコは大声で叫んだ。さすがのソニックもピクンと耳を動かしエイコの方へ顔を向けた。 「―あなたの主人は死んだの。良い子だから逃げなさい。そして新しい主人に敵をうってもらいなさい―」 「………」 エイコの静かな説得にソニックはしばらく動かなかったが、やがてヨロヨロと通路の出口へと歩いて行く。口にはスダチのネームプレートを咥えて。 最後にソニックは主人であるスダチを見た。スダチはエイコの腕の中で微動だにせず、ソニックの名を呼ぶことはなかった。 ソニックが去った後、娘は興味深そうにエイコを見つめた。 『―無駄だよ。この施設は今日終わる。そしてお前も―』 娘が再び歩み始める。 『―僕の渇きを…癒してくれ―』 エイコは銃を自分のこめかみに向けるとニヤリと笑った。エイコの左手はスダチの手をしっかりと握りしめている。 「誰が…あんたなんかに殺されるものか」 銃声が響いた。
ズリッ…ズリッ…
ジャラ…ジャラ…
奥の闇から2人の異様なものが姿を現す。 『ゴボッ…消したい…すべてを…』 太っている体で、顔全体大きな口で出来ている『ナメクジ』が静かに呟く。ナメクジの体から粘つく液体が床に流れる。 『吸わないのか?』 ジャラジャラと体中に巻きつけられた鎖を鳴らしながら、両腕のない男『オオムカデ』が言う。 『いらないよ。汚れちゃったから』 娘の姿をした『イモムシ』が興味なさそうに2人の遺体を指差した。 『施設内のシステムはだいたい壊したよ。これで仲間が施設内に侵入できる。後はどうするの?』 イモムシは両手を後頭部に当て2人に言った。 『管理棟はナメクジがやればよい。ワシは戦闘部隊をやろう』 オオムカデが鎖で塞がれた口をモゴモゴと動かした。 『ゴボッ…消せる…アハ…消しちゃうよ』 ナメクジはノロノロと通路へと歩んでいく。 『合図があったのだろう? ワシ等をあんな狭い所から出したということは…女神は来るのか?』 『来るよ』 オオムカデの質問にイモムシは即答した。 『…そうか。それならそれでよい』 オオムカデはそれだけ言うと踵を返し通路へと引き返していく。ジャラジャラと鎖を引きずりながら。 『それなら僕は適当に喉の渇きを癒そう』 イモムシはふとガーディアンに向き合った。
『―そうだ。君たちも遊んでおいでよ―』
「…さて、何を話そうか?」 クロサギはもう自暴自棄になっているのか投げやりで言った。 「とりあえず場所を移りたいわ」 周りの死体が気になって仕方がないソネットが言った。 「そうだ! あなた医者の経験ある?」 「…ないよ。俺は生粋の研究者だ」 クロサギは元気なく答えた。 「そう…」 ソネットはがっかりして言った。 「まあとにかくここは早く出たほうがいいね。この腐臭はさすがにね…」 キクも鼻を抑えながら言った。 「隣に兵士用の休憩室がある。そこを利用しよう」 クロサギは立ち上がると3人を案内した。休憩室へは廊下を通らなくても行けるようだ。椅子と机があるだけの簡素な造りになっている。 「まっ、死体だらけの部屋よりかはましね」 ソネットはようやく落ち着いたのか椅子に座ると背伸びをした。それにカンタロウとキクとクロサギが続いた。 「じゃあとりあえず簡単な質問をするわ」 キクが手に顎を乗せるとクロサギを見つめた。 「どうぞ」 クロサギは素直に言った。 「あなた達の目的は何?」 「…簡単に言うと女神を使った『世界編成実験』を行うことだ」 「女神は誰?」 「連れて来たんだろ? ファーストチルドレン、『花』のことだ」 「つまりノゾミね」 ソネットがキクとクロサギの話に割り込むように言った。 「世界編成実験とは何?」 再びキクがクロサギに尋ねた。 「…不思議だと思わないか?」 急にクロサギが別の話をし始めた。 「悪いけど質問に答えてくれる?」 キクは笑顔だがクロサギを威圧している。だが、クロサギはその威圧を跳ね除けるように言った。 「これも大事な事だ。人間の体には心臓や肝臓といった重要臓器が存在する。その中でも脳だけはこの厚い頭蓋骨に守られ何重もの膜がある」 クロサギはコツコツと自分の頭を叩いた。 「…それが?」 「―何者かによる攻撃を防ぐため…だとは考えられないか?」 クロサギはキクに向かって意味ありげに笑った。 「…攻撃?」 「そうだ。人間の個性をつくるのは積み重ねられた経験だ。そしてその経験を記録し、蓄積するのはこの脳みそだ。つまり、脳は全ての人間が唯一もつ個性となる。顔と同じだ」 「…へえ」 カンタロウが考察するように顎に手を乗せた。 クロサギは再び自分の頭を指で押さえた。 「この脳には過去の記憶が詰まっている。そこでだ。もし、過去にそこの女が死んでるとするとどうなる?」 クロサギはソネットを指差した。 「私? 生きてるわよ」 「例えばの話だよ」 「…矛盾が生まれるわ。私の記憶ではソネットは死んでいることになっているから…今のソネットが生きているのはおかしいことになる」 キクはクロサギに向かって答えた。 「そりゃそうだ。今ここにいるソネットは『誰だ』という…ややこしいことになる」 カンタロウも頭を掻きながら答えた。 「そうだ。おかしい。こいつは誰だという疑惑が生まれる」 クロサギは椅子に座ったまま呆然とソネットを見つめる。 「だから何よ?」 「―お前達2人は信じられるか? 今目の前にはソネットではない女がいる。それなのにソネットだと名乗っている。自分達の記憶ではソネットという人物はすでに死んでいる」 「まあ無理だな。だから?」 カンタロウが意味がわからんという顔でクロサギを見た。 「わからないかなぁ…お前の記憶ではソネットは死んでいるんだぜ? それなのにここにいるのはおかしいだろ?」 「(いきなりお前かよ)確かにおかしいが現にここにいるんだからいいじゃないか」 「物事はそんなに単純じゃない。おかしいのなら"正さなきゃ"ならない」 「?」 カンタロウが悩んでいるとキクがポンと手を叩いた。 「あっ! ソネットが死ななきゃならないんだ」 「はっ!?」 ソネットがキクの言動に驚いて目を丸くした。 「だって私の記憶ではあなたは死んでるから、今のあなたが生きてるのはおかしい。なら死んで物事を正しくしなきゃいけない」 「…私は死ぬってこと?」 「うん」 キクは軽く頷いた。 クロサギはパチパチと拍手した。 「正解。そこの女が死んでまた世界は動きだす」 「えっ? えっ? さっぱり意味わからん」 カンタロウはつい耳をクロサギに向けた。 「つまりだ。世界編成実験とは―女神はこの世界の全ての人間の記憶を改ざんできるということだ」 「…俺達の脳みそに侵入できるということか?」 「おお、よく答えられたな。そうだよ。記憶の改ざんとは過去を自由に操るということだ。気に入らない奴の記憶を消し、そいつの存在を無にすることだってできる」 クロサギの言葉にソネットは胡散臭そうな顔をした。 「…という仮説だ」 クロサギは本心ではないという顔をした。 「昔エコーズを調べていた学者がいてな。エコーズは旧世界の人間の過去を持っている。その過去は様々だが…ある共通点がある」 「それは?」 「赤い目を持つ子供達に意識を侵入されている…ということだ」 「………」 「エコーズはその子供達に過去を改ざんされた挙句、この世界に適応するために形態を無理矢理変えられている。しかも『レッドデス』の抗体を持たないために死ねば赤い花にその身を肥しにされる。ついでに言うとなぜエコーズが女神を襲うか知ってるか?」 「知らん」 「花のウィルスを止めるためだ。彼らは潜在的にファーストチルドレンに敵意を持ち、その存在を消すことによって旧世界に帰れると考えている…まあ別の意味で帰りたいと繰り返すエコーズもいるけどね」 「そんなの…可能なの?」 「無理だね。だがエコーズを説得しても聞かんさ」 クロサギは3人を見回した。 「…それじゃ、次に帝軍対策用人体兵器とは何?」 「それは…まあ…う〜ん…」 クロサギの言葉が詰まった。言いにくそうに休憩室の壁を見回している。 「なあ1つ約束してくれ」 「うん?」 「さっき言ったことと、これから言う事は秘密にしててくれないか?」 「何? さっきまで自暴自棄になってたじゃない?」 「もし生き残っちまったらマズイ。俺はエリニュスに命を狙われちまう」 「…わかった」 「本当か?」 「もし言うとしても死んだ研究員ということにしておく。これでどう?」 「…まあいいか」 クロサギは仕方がないといった顔をした。 「帝軍対策用人体兵器とは『ナメクジ』『イモムシ』『オオムカデ』のことだ」 「はっ? あの3人はS級犯罪者だぜ。どうして兵器なんだ?」 「あれはエリニュスが人工的に造りだしたものだ。例えば隠蔽工作、破壊活動、証拠の消去などに使われていたらしい」 「!? 本当か?」 カンタロウは驚いて目を丸くした。 「どうりで捕まらないわけね…3人とも繋がっていたあげく、バックにエリニュスがついてたなんて」 「まああの3人は元は人間さ。どこから連れて来たのかわ知らないけどな」 「はい!」 急にソネットが小さく手をあげた。3人ともソネットに注目する。 「1ついい?」 「何?」 「今この施設はその帝軍対策用人体兵器とS級犯罪者に占拠されているわよね?」 「…まあそうね」 「どうして今日なの?」 「あっ!」 キクはソネットの言葉に小さく声をあげた。 「女神がこの施設に来たからだろう?」 クロサギは意味ありげに笑った。 「!? 狙いはノゾミ!?」 キクがガバッと立ち上がった。 「それしか考えられんね。奴らの本当の狙いはこちらの女神なんだろうが施設内にいなかったから今まで行動を起こさなかったんだろう。ところでお前達の連れてきた女神はどこだ?」 (? こちらの女神?) クロサギの言葉にキクは眉を寄せた。 「従業員の部屋にいるわ」 「―危ないんじゃないか?」 クロサギの言葉にソネットは猛然と立ち上がるとドアへと向かった。 「ソネット!」 「行かなきゃ! ノゾミが!」 「まて!」 ソネットがドアを開き通路へと出る。通路には誰もいない。 ソネットは今来た道を急いで駆け走った。それに続いてカンタロウとキクも通路へと出て行った。 休憩室には1人クロサギが残された。 「…都合が良いさっそく脱出しよう」 クロサギはドアの前に立つと暗証コードを入力し、ドアを閉じた。 「この施設が閉鎖されるとしたら…『洗浄』が始まるはず。まあその前にガーディアンにやられるか」 クロサギはニヤニヤと笑った。
「うっ…」 ソネットは小さく声をあげると立ち止まった。後ろからキクとカンタロウの足音が近づいてくる。 「…ったく、急に飛び出すなよ…どうした?」 カンタロウは立ち止まっているソネットに話しかけた。 ソネットは何も言わず前を指差した。そこには奇妙なものが立っていた。 「…なに…」 さすがのキクもその異様さに声を漏らしてしまった。それは着ぐるみを着ていた。カエルの着ぐるみだ。他にも白いウサギ、茶色いリス、緑のカメの着ぐるみを着ている。合計4人。 その着ぐるみの顔は皆笑っており、目は大きく、ファンタジック風な造りになっている。子供が見れば喜びそうだ。 しかし、異様なのは皆の口元が赤いシミで染まっており、まるで何かを食ったような感じになっている。手や体にも点々と赤いシミで染まっている。微かだが血の臭いもする。 その4体が2本足で立ち、感情のわからない笑顔でソネット達の前に立ち塞がっているのだ。これが不気味じゃないとは言えないだろう。 「…来る時にあんなのいたか?」 「…いなかった」 カンタロウの頬から汗が流れた。キクもこの不気味な状況に呼吸が荒くなっている。 「何? …あんた達」 ソネットが近づこうと足を一歩出した瞬間
ギィ…ギギギィィィ…
4体の首が同時に回転し、首をかしげるような仕草をした。そして赤い目が一斉にソネット達に向けられた。
Re:本部へ緊急事態発生!
想定外の事態ゆえエリニュス・第5研究所は閉鎖する。 対策:1時間後、施設内に猛毒ガスを注入する。総員速やかに脱出せよ。なお、猛毒ガスによる効果が見られない場合は施設内部の自爆装置を起動させる。
『地下シェルター(4):了』
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