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作品名:赤い雫 作者:牛を飼う男

第15回   大樹の城(3)
 ダンテとノゾミはシンジの後に続いた。2人の後ろにはマザクと庭園の椅子に座っていた女性がついてくる。ダンテとノゾミを見送るつもりでいるのだろう。
 靴の高さしかない緑の草がサワサワと暖かい風に揺れている。油断していると寝てしまいそうだなとダンテは思った。事実、ノゾミは目を細めて歩きながらウトウトしている。
 ノゾミが急にダンテのほうへ視線を向けた。眠そうな眼をしながら少し微笑んだ。ダンテは何故かそれを見ているのが恥ずかしくなり頬を指で掻いた。
「・・・あそこだ」
 シンジが静かに指をさした。その先にはレンガで出来た大きな壁が見えた。自分の背丈より何倍もありそうだなとダンテは思った。
「あの壁は誰が造ったの?」
 ダンテは好奇心からシンジに聞いてみた。
「僕だよ」
 シンジは即答した。
 ダンテはシンジの小さな体からどうしてあんな壁が造りだせるのか不思議に思った。
「すごいね。シンジは」
 ダンテは適当な言葉が見当たらず、シンジに今の気持ちを曖昧なことで表現した。
「まあね」
 シンジは詳しい説明をしようとはせず、ただそう答えた。
「ダンテ・・・」
 ノゾミがダンテに寄り添ってきた。眠そうに目を擦っている。
「ノゾミ、眠いの?」
「うん」
「じゃあ背負ってあげるよ」
 ダンテは背中をノゾミに向けた。ダンテの背中はその小さな体に似合わず、意外に筋肉質だった。ノゾミは躊躇うことなくダンテにおぶさった。
 ノゾミはすぐに寝息をたてはじめた。
「ふふっ・・・懐かしいねぇ」
 後ろでマザクが可笑しそうに笑いながら言った。その隣にいる女性はただ微笑んでいる。
 ダンテはノゾミを背負ったまま、シンジについていった。いつしか、巨大な壁の前に5人は立っていた。
「この壁だ」
 シンジは茶色い壁をさすった。すると、壁が大きな音をたてて開き始めた。

 ゴッゴゴゴゴ・・・

「うわ〜」
 ダンテは感嘆の声を上げた。今まで見たことのない現象が目の前で起こっている。自分の体が震えている事をダンテは感じていた。
 壁が開くとその先には白い地面が広がっていた。どこからか人の声がする。聞いた事のある声だ。
「君の仲間が気づいたようだ」
 シンジは壁から離れるとダンテに言った。
「この壁を目印に、ひたすら前へと進むんだ。そうすればこの世界から出る階段が見つかる」
 シンジは指を前へと向けた。
「うん、ありがとう」
 ダンテは轟音にも気づかず、眠り続けているノゾミを背負って前へと進み始めた。
「・・・あっ、シンジ」
「うん?」

「―また、会えるかな?」

「・・・・・・・・・」
 シンジは何も答えなかった。顔には迷いが見えた。
「・・・会えるさ」
 シンジの代わりにマザクが答えた。その言葉にダンテは頷き、手を振って前へと再び歩き出した。
「・・・どうかな。僕にはわからない」
 シンジが呟くように言った。
「馬鹿だね。会いたいと思えば会えるさ」
 マザクは踵を返すと、城へと戻り始めた。

「―例え、死んでしまったとしてもかい?」

「・・・そんときはそんときだ」
 マザクは歩みを止めなかった。シンジはもう一度城から去っていく2人を見つめた。そのシンジを女性は後ろから抱きしめた。
「・・・行こう。母さん」
 シンジはそういうと、女性はコクリと頷いた。


「ダンテぇ〜」
 ソネットはダンテを見つけるとものすごい速さで走り、ダンテを抱きしめた。その凄まじい衝撃に、さすがのノゾミも起きてしまった。
「生きてたのねぇ〜。私のダンテぇ〜」
 いい年して号泣するソネットをダンテは「大丈夫だよ」と慰め始めた。ノゾミはダンテから離れると、後ろへと下がった。
「無事だったのね」
 キクがノゾミに話しかけた。
 ノゾミはボウッとした顔でキクを見上げると「うん」と言った。
「まあ何にせよよかったよ。あとはこの世界からどう出るか」
 号泣するソネットを尻目にカンタロウが言った。
「それなら大丈夫だよ。あの壁を目印にこの先を真っ直ぐ行けばいいんだ」
 ダンテが前を指差した。
「へえ〜。そんなこと誰が言ったの?」
 キクが興味深そうにダンテに言った。
「シンジ。僕の友達。あの壁の向こう側にいるんだ」
「ほう? シンジ1人なのか?」
「ううん。他にも綺麗な女性と赤い髪の毛の…マザクさんがいた」
「へっ? マザク?」
 カンタロウが素っ頓狂な声をあげた。
「もしかして…作家の?」
 キクも恐る恐るダンテに聞いてくる。
「うん。物書きしてるっていってた」

「なぁにぃ〜!!」

 キクとカンタロウは同時に声をあげた。
「ほっほんと!? あのベストセラー作家のマザク?」
「あのレッドイーター『ホーリーランス』の使い手、マザクなのか!?」
 2人に迫られてタジタジになりながらもダンテは「う、うん」と答えた。
「サッサインよ! サインをもらってくるのよ!」
「行方不明になっていたとは聞いてたがな…よし! 一目会いに行って田舎で自慢しまくってやる!!」
 キクとカンタロウはすっかり興奮して引き返そうとした。
「あれっ?」
 2人が振り向くと壁が消えていた。しかも周りには白い霧がたちこめている。
「なにしてんのよ? 早くいくわよ!」
 遠くでソネットが手を振っている。その隣にはノゾミもちゃっかりいた。
「わかった」
 ダンテは素直にソネットの方へと走り出した。
「…カンタロウ」
「うん?」
「行ってくるのよ!」
「…おいおい、キクさん。無茶なこと言わないでくれ」
「こんなチャンスもうないじゃん! ツベコベ言わず行け!」
「もうすっかり霧に包まれてるでないかい。俺に死ねって言うの! 俺とサインどっちが大事だ!」
「サイン!」
「…ちっくしょう!!」
 カンタロウは両手で顔を覆いながらソネットの元へと走っていった。かなりショックだったらしい。
「うう〜」
 キクはしばらく迷っていたが、諦めてソネット達の元へと向かった。
 しばらく歩いて行くとシンジが言ったとおり階段が見えてきた。その階段は空へと続いている。
「この階段を上るの?」
「うん、そうみたいだ」
 ダンテは階段をタタタッと上っていく。
「そんなに急ぐと転ぶよ!」
 ソネットはダンテに注意しながら階段を上っていく。ノゾミとキク、そして未だショックを隠しきれず、顔を覆っているカンタロウもその後に続いた。
 階段を上っていくと、水の音が聞こえてきた。
「なんか変な臭いがしない…」
 ソネットが鼻をつまんだ。確かに5人の鼻に何か卵の腐ったような臭いがする。
「カンタロウ。やめてよね」
「…違うっての。最後には泣くぞ」
 カンタロウもキクも鼻をつまんでいる。
「あっ! もうすぐ上につくよ!」
 ダンテが上を指差した。すると、ダンテの言うとおり5人は階段から抜け出せた。
「…なに? ここ?」
 ソネットは素っ頓狂な声を上げた。
 そこは光のない所だった。


『大樹の城(3):了』


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